表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
49/172

ラフレシアの魔女

「おじぃちゃん、何見てるの?」


 不思議そうに、リンジーが声を掛けた。ポールマンが持ち帰った図面を、オットー達が激論を交わしながら必死で見ていた。


「これか? これは鉱山内部の見取り図じゃ。ここの鉱山は古くてのぅ、百年以上前から周辺を掘りまくっていたのじゃ」


「でもな、そんなん見てて、地雷埋めるんはええの?」


 ポカンとしたチィコにオットーは胸を張り、TDに微笑んだ。


「地雷なぞ、とうに敷設済じゃ。それよりTD、頼んでおいたのは出来ておるか?」


「出来てるけど」


「そうか、ご苦労さん。そんじゃ行くとするか。これは、地雷設置の見取り図じゃ」


 オットーはリンジーに設置図を手渡すと、そそくさと出掛けて行った。


「TD、おじぃちゃんに何を頼まれたの?」


 不思議そうな顔で、リンジーが聞いた。


「ああ、信管だよ」


「信管?」


 TDの返事に、リンジーはポカンとした。


「何の?」


「知らないよ。それより、鉱山の入り口にいるのはラフレシアの魔女だってさ」


 嬉しそうな顔のTDは、鼻の下を伸ばした。リンジーも聞いた事があった、美貌の女盗賊の話を。


「何でも、ヴィットとは知り合いらしいぜ」


「詳しく聞かせて」


 嬉しそうに笑うTDに、リンジーが思い切り顔を近付ける。胸が痛くなる程の甘い香りがして、思わずTDは赤面した。


「何だよ、どうしたんだよ……前にヴィットが噴射剤取りに行ったろ、その時に……」


 TDの話の途中で、リンジーは走って鉱山の入り口に向かった。


「リンジー、どないしたん?」


 傍で見ていたチィコが、ポカンと聞いた。


「こっちが聞きたいよ」


 ボヤいたTDだったが、まだ鼻腔に残る甘い香りに顔は赤いままだった。


_____________________



 一目散に走って鉱山の入り口にに着くと、人相の悪い盗賊達にリンジーは囲まれた。だが、盗賊達の様子がおかしい。明らかに嬉しそうな顔で、口元を緩めていた。


 服装はいつもの戦闘服だったが、リンジーはハンナに貰った化粧道具で薄化粧をしていたのが原因だが、勿論リンジーは気付きもしない。


 滴り落ちる汗さえも太陽を反射しながらキラキラ光り、男達は一斉に鼻の下を伸ばして赤面する。ミネルバとは違う清楚な雰囲気は、色艶とは違う破壊力があったのだ。


「ラフレシアの魔女はどこ?」


 仁王立ちのリンジーが、盗賊達に対峙した。そこに、薄笑みを浮かべたミネルバが姿を現した。体にぴったりフィットした漆黒の戦闘服が、メリハリボディを誇張して濃い化粧もリンジーには無い色香を漂わせていた。


「誰だい?」


 涼しい目元は、濃いシャドウとマスカラでリンジーを見据える。


「ヴィットとは、どういう関係?!」


 美しい目元ではリンジーも引けは取らない、強い眼差しで睨み返す。


「ヴィット……ああ、まんまるタンクの坊やか」


 思い浮かべたミネルバは、口元を綻ばせ赤いリップがキラリと光った。


「知ってるのね、ヴィットの事」


 少し体を震わせるリンジーの姿にミネルバはピンときて、ワザと意地悪く言った。


「彼が、アタシの故郷を守る為に来てくれてのよ」


”彼”と言う言葉が、リンジーの胸に突き刺さった。物凄い痛みが背中まで貫通するが、リンジーは無理やり引き抜くと言葉を絞り出す。


「ヴィットに危ない事をさせて、自分は後方で見物? 噂程じゃないわね、ラフレシアの魔女も」


「何だと?」


 低い声でリンジーを睨むミネルバの瞳に炎が燃え上がる。


「戦いの場で、漆黒のエレファントに描かれた魔女を見た者は、魔法のほうきの様な機動性に恐れ慄く……あれは、ただのトリックね。普通のエレファントとの違いは、エンジンと足回りの強化。重駆逐戦車では有り得ない機動性で相手を驚かせるなんて、種を明かせばそんなものね。私達のサルテンバなら、簡単に撃破出来る」


 挑発する様にリンジーは言い放つ。だが、自分でも何を言いたいのか? 何をしたいのか分からなかった。ただ、胸の奥に湧き出す黒いドロドロした感情を抑えられないでいた。


「フフフ……そこまで言うなら、アタシのアリスⅡと勝負してみる?」


 ミネルバの瞳が、怒りから歓喜? に変わる。戦車乗りにとって、最大の侮辱は愛機と腕を見下される事だった。しかもリンジーは、アリスⅡの秘密を簡単に言い当てたのだ。


「私が勝ったら、ヴィットの援護をしてもらうから」


 リンジーはミネルバの挑戦を受けた。一瞬、チィコの事が頭を過るが、今は後悔など感じてる余裕はなかった。


「お前が負けたら、戦車は頂く。それでいいな?」


「分かった」


 薄笑みを浮かべるミネルバを、強く睨み返すリンジーの頭の中に笑顔のヴィットが見え隠れしていた。


____________________



「決闘って……今はそんな事してる場合じゃないだろ?」


 顔を顰めるイワンに言葉は、リンジーを追い詰めるがチィコは心配顔でリンジーに寄り添う。


「リンジー、何か言われたんか?」


「ごめんね。チィコ……勝手に……」


「何言うてん……リンジーが決めたんなら、ウチは賛成や」


 俯くリンジーにチィコは笑顔を向けた。


「模擬弾だよな、当然」


 強い視線でゲルンハルトがリンジーを真っ直ぐ見た。


「……うん」


 その目を見返せないリンジーは、小さく頷いた。


「全く……アリスⅡは強敵だぞ。機動性は下手な中戦車よりもいい、砲塔が動かないのはハンデにはならないからな」


 溜息交じりのハンスも、頭を掻きながら言った。


「砲塔が動かなくても、魔改造した足回りの超信地旋回で照準する。車体のダイブが収まらなくても撃ってくるからな」


 ヨハンはアリスⅡの戦法を手短に説明した。


「アリスⅡは、その場を動かずに攻撃するのがパターンだ。強力な装甲と、駆逐戦車の弱点を克服した射撃が強さの秘密なんだ。攻略の糸口は一つ、相手を動かす事。如何に機動性が良くても重駆逐戦車だ、その自重が最大の弱点だ」


 腕組みしながらイワンは呟き、ゲルンハルトが補足した。


「地形を生かせ、特に土壌はサルテンバに味方する」


「皆、ありがとう……」


 顔を上げたリンジーの明晰な頭脳は、既に作戦立案は終わっていた。


「がんばろな、リンジー」


 大好きなチィコの笑顔が、リンジーを力強く後押しした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ