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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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作戦

 補給を終えハルツの町に戻ったヴィット達は、緊急の対策会議を開いた。


「問題は新型の可変戦車か……全く、厄介だな」


 TDから詳細を聞いたゲルンハルトは、深刻な顔で腕組みした。


「普通の攻撃じゃ、奴を撃破するのは不可能に近いが、手を抜いた攻撃は逆にこちらの全滅を招く恐れがあるよ」


 TDは柄に無い真剣な顔で言った。コンラートでさえ、リンジーの傍にいるのに何時もの様な笑顔は少なかった。


「撃破せずに無力化なんて出来るのか?」


 唖然と呟くイワンだったが、手には汗が滲んでいた。


「戦車である以上、道を通れなく出来ればいいんだが、そんな細工の時間も無いし敵は待っちゃくれないしな」


 溜息を付いたハンスも、真剣な顔になった。


「装輪だろ? 対戦車地雷で足回りを破壊出来ないか?」


「確かにそれが正攻法じゃが、敵も予測済みのはずじゃし、地雷の絶対数も足らんのぅ」


 悲観的な顔をしたオットーだったが、ヴィットは閃いたと言う顔で立ち上がった。


「キルゾーンを作って、誘い込めばいいんだ。それなら少ない地雷でなんとかなるんじゃない?」


「……誰が誘い込むの? 相手は超高機動で、120ミリ砲は一撃で撃破する威力があるのよ」


 震える声のリンジーは、ヴィットを真っ直ぐ見る。


「俺と、マリーで行くよ。リンジー達には援護を頼む」


「リンジー……心配しないで」


 マリーは穏やかに言うが、今度は眉をハに字にしたチィコが声を上げる。


「そんなん、マリーばっかしやんか」


「ワタシが一番脚が速いから……ありがと、チィコ」


 限りなく優しい声がチィコを包み込み、震える身体をそっと支えた。


「やはり、可変戦車をなんとかするのが先決だな。所で、キルゾーンの設定はどうする?」


 ゲルンハルトはオットーの方を見た。地形を読む事ではゲルンハルトさえも、オットーには一目置いていた。長い経験は、時には奇想天外な発想を出す。


「地雷の敷設はワシらが行う。マリーちゃん、場所を悟られん様に敵の偵察を妨害しておくれ……さて、ポールマンが戻ったら仕事を始めるかの」


 腰を叩きながら、オットーは立ち上がった。


「了解。でも、ポールマンのおじいちゃん、何処に行ったの?」


「何、ちょっとヤボ用での。それに良い物を手に入れた」


 不思議そうに聞くマリーにオットーは満面の笑顔を向けた。


「良い物って、まさかあれ?……」


 大きな溜息のヴィットは、マチルダに積み込まれた巨大な”魚雷”に目を向けた。


「全く……どこで見付けたんだ……山だぞ、ここは」


 同じ様に溜息を付いたイワンは、山間部に全く意味不明な兵器を見て肩を落とした。


「そうだよ、相手は戦艦じゃなくて、戦車だよ」


 呆れ顔のヴィットを置き去りにしてオットーは高らかに笑った。


「カッカッカ! 炸薬量490kg! TNTの6割増しの威力を持つHBX炸薬で戦艦の重装甲をも貫く酸素魚雷じゃ!」


「だからぁ、話し聞いてた? 撃破したら、大変な事になるんだよ」


 呆れ顔を通り越し、ヴィットは溜息交じりに言った。


「なぁに、コイツを足元にブチ込めば、確実に脚は止まる。コイツに比べれば、対戦車地雷など屁みたいなもんじゃ!」


 全く動じないオットーは、更に雄叫びの様に声を上げた。


「……で、どうやって発射するの?」


「……あっ」


 冷静なヴィットの突っ込みに、大口を開けて笑っていたオットーが固まった。


_____________________



「マリー大丈夫?」


「うん、ごめんねヴィット……ヴィットに、そっちは前じゃないって、言った事あったよね」


 声のトーンを落としたマリーが呟く様に言った。


「そう言えば、あったね」


 思い出したヴィットの胸が、少し熱くなった。


「今はワタシが、目を背けていた。目の前の大きな壁から、逃げようとしていたの」


 正直なココロの内を、ヴィットに知って欲しかった。前向きでない本当の気持ちを、マリーは言葉にして伝えたかった。


「違うよ」


 直ぐにヴィットは笑顔で言った。


「えっ?」


「マリーはリンジー達の事を心配してただけさ。怖さとかで、敵から逃げようとしたわけじゃない。どうせ戦いになったら、また無茶するんだろうね」


 苦笑いのヴィットは、想像しながら体を摩った。


「ヴィット……」


 マリーの声は、少し嬉しそうだった。


「さあ、お仕事だよ。町に続く道の平原の途中、最初にモスさん達が戦っていた場所にキルゾーンを作るんだ。そこに偵察を来させない様にします」


「了解」


 元気よく返事したマリーは、索敵機能を全開にした。目前に迫る、平原とは名ばかりの荒地。大小の起伏は、地球外の惑星を連想させるが、かつて木々や草花が生い茂っていた痕跡は残っていた。


 ヴィットはその荒れた光景をみながら、改めてマリーに感謝した。マリーの活躍は、瀕死の世界を救ったのだ……バンスハルの戦いは、人々の平和な暮らしを守ったのだ……だと。


 苦しい戦いの中で、ヴィットは殆ど何も出来なかった事を悔やんだ事もあったが、少しは貢献出来たのかなと、最近は少し前向きに考える様になっていた。


 そして、自分のした事に自信を持つなんて柄じゃないが、自信は力になるとヴィット確かに感じていた。


_______________________



「前方一時の方向、軽戦車二両。どうする?」


 マリーの報告に、ヴィットは少し考えてから言った。


「直ぐにやっつけちゃったら、この場所に何かあると言ってる様なものかな?」


「そうね……逆に考えると、地雷の敷設はセオリーなんだから、場所さえ分からない様にすればいいんじゃない?」


「なら、やっちゃう?」


 嬉しそうにヴィットが言うと、マリーも直ぐに返事した。


「うん、やっちゃう」


 マリーの声と同時にヴィットはアクセル全開。だが、マリーは射程外から同軸機銃を連射する。


「マリー!まだ遠いぞ!」


「うん! 威嚇で、追い散らしてるの!」


 ヴィットの叫びに、マリーが嬉しそうに答えた。


「威嚇って……マリーさん?」


 冷や汗を流すヴィットに、今度は済まなそうなマリーの声が届く。


「だって、直ぐにやっつけたら、ここから歩いて帰るの大変そうだし」


 確かにこの場所から、敵の本隊まではかなりの距離があった。


「全く……敵の帰る距離まで心配するなんて」


 少し噴き出したヴィットは、苦笑いした。


「もう少し近くなったら、やっつけるから……」


「了解!」


 笑顔のヴィットは、アクセルを踏み込んだ。マリーが元のマリーに戻った事が嬉しくて、ヴィットのココロは青い大空を駆け巡った。



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