表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
45/172

威力偵察

 ゲルンハルトは一発でヴィットの意図を見抜いた。そして、素早く各戦車に的確な配置を指示した。勿論、ヴィットに異存なんてなかった。ゲルンハルトの指示は完璧で文句の付け様もなかったから。


「俺も、ゲルンハルトさんみたいに成れるかな……」


 羨望の眼差しで呟くヴィットに、イワンが笑いながら肩を叩いた。


「ゲルンハルトに匹敵する指揮官なんて滅多にいない。だがな、目指すならもっと上を目指せ。奴なんか、まだまだ小物だ」


「まあ、ゲルンハルトを小物扱い出来るお前の方が大物だよ」


 呆れた様な顔のハンスが、大きな溜息を付いた。


「鉱山の防御配置は、味方にも教えないみたいだぜ」


 鉱山の様子を見に行っていたヨハンが、ゲルンハルトと共に戻って来た。


「俺達は信用されてないって事だな」


 頭の後ろで手を組んだイワンは、他人事みたいに言った。


「全体を把握した訳ではないが、各所に突撃砲を配置した防御網は厚い。突破するなら、浸透強襲戦術かな」


 腕組みしたゲルンハルトは、不敵に笑った。意味の分からないヴィットは首を傾げるが、通信機からマリーの明るい声が響く。


『基本的には、戦線を突破して裏側に回り込む(浸透する)という作戦。戦線の1カ所を突破しても、それだけでは突出部を作るだけで、突出部に火力を集中されれば封じ込めらちゃう。でも、数カ所で同時にこれを行えば、突破した他の部隊と連携して、その間にいる敵部隊を包囲殲滅する事が出来るの』


「完璧だな。ならば、それを阻止する手立ては?」


 嬉しそうな顔でゲルンハルトが聞いた。マリーは少し考えると、やはり明るい声で答えた。


『そうね、機動防御が出来るのはワタシとシュワルツティーガー位だし、せめて後一両あれば作戦として成り立つんだけど』


「機動防御って、部隊規模の作戦じゃないのかよ」


 ヴィットにだってそれ位は分かる。少しスネた様な声で呟いた。


「普通はな……だが、マリーの戦闘力は一個中隊、否、一個大隊に相当する」


「そうだな。空戦能力を加味すれば、それ位の戦闘力はあるだろうな」


 ゲルンハルトの言葉に、頷きながらヨハンも同意した。ヴィットだってマリーの戦闘能力の凄さは分かっていたが、改めて専門家から言われると人知を超えている事実を痛感した。


「もう直ぐ、掩体壕に配備も完了する。一休みしたら、ヴィットとマリーには威力偵察を頼みたいんだが」


「分かりました」


『了解』


 笑みを浮かべたゲルンハルトの言葉に、ヴィットとマリーは同時に元気よく返事した。


________________



「威力偵察って言っても、何処から探すの?」


 偵察に出て直ぐ、ヴィットは首を傾げた。


「そうね、モスさん達の報告も毎回違う方向からの攻撃だって言ってた」


 マリーの声も、考えがまとまらない様な感じだった。


「敵部隊の動きも変だね、せっかく侵攻したのに直ぐに撤退してさ」


「まるで槍機戦術。前進と後退を繰り返す戦法は、面制圧に時間がかかるけど、味方の犠牲を最小限に抑えられるし」


 敵の攻撃内容を思い浮かべるヴィットだが、マリーも少し考えを巡らせた。


「それって、もしかして敵の兵力は意外に少ない?」


「うん、毎回違う位置からの攻撃は身軽って可能性もあるね。大隊規模なら、わざわざ分けなくても同時攻撃が出来るんだし」


 マリーもヴィットの考えに同意した。


「やっぱ、空から行くしかないのかなぁ……」


 物凄く嫌だけど、ヴィットは仕方なさそうに呟いた。


「いいの? ヴィット」


 対照的にマリーの声は弾む、ヴィットの身体の負担を心配しマリーは遠慮していたのだった。


「敵を先に見付け、先に攻撃、先に逃げる……それが戦車だもんね」


 シートベルトを締めながら、諦めた様なヴィットの声と同時にマリーは大空に舞い上がった。


____________________



「敵防衛部隊に、アンタレスが加わりました」


 強面を綻ばせた嬉しそうな副官の声に、指揮官は溜息を付いた。


「全く……どうも我々の行く所は、何時も奴と同じ場所だな。今度は簡単な仕事だと思ってたのだが」


「中隊規模では、直ぐに全滅ですかね」


 副官は他人事の様に言うが、指揮官は髭を触りながらもう一度大きな溜息を付いた。


「ケルベロスに艤装網を掛けろ」


「指示はそれだけですか?」


 拍子抜けした表情で副官が聞き返した。


「他に何が出来る? アンタレス対策など無駄な足掻きだ……それより、データ収集の準備だ。作戦失敗の言い訳を準備しておかないとな」


「了解しました……ですが、今度はケルベロスがあります」


 怪しく微笑む副官を見て、指揮官も妖しい笑みを漏らした。


「そうだな……超駆逐戦車ケルベロス、こいつの特殊装甲は既存の砲では抜けないからな」


_________________________



 空に上がると鉱山を中心とした地形が簡単に把握出来た。マリーはゆっくりと旋回し、敵の痕跡を探した。陸の偵察と空からの偵察では索敵範囲が全く違う。戦車の侵攻速度など知れてるので、敵の本拠が遠いはずはなかった。


 ものの数分で見付け、マリーは回転を緩めると死角になる森の中に着陸した。


「ヴィット、見付けたけど……大丈夫?」


 目を回す寸前のヴィットは、なんとか起き上がった。


「ふぅ~やっぱ、慣れないなぁ……で、どう?」


「兵力は一個中隊って言うところかしら。これなら戦力は、ほぼ互角ね……問題は……」


 マリーは報告するが、言葉の最後は濁らせた。


「……可変戦車だっけ? 実際、どう言うの?」


「コンセプトは攻撃時に車高を高くする事で、ハルダウンした敵を撃破するって言うんだけど、車高が高くなる事は自らの被弾率も上がるリスクがあるの。可能にするには装甲の強化だけど……ワタシみたいに全身を電磁装甲で覆う為には、強力な発電装置が必要ね。多分、まだ無理とは思うけど……ケンタウロスみたいな盾で精一杯だと思う」


 マリーも半信半疑なのか、言葉を選ぶ様に答えた。


「で、いたの巨人?」


「多分、あの艤装網の下……大きさは超駆逐戦車のマウス並だった」


「そうか……じゃ、どうする?」


 首を摩りながら、ヴィットはニヤリと笑った。


「威力偵察だもんね」


 マリーの声も、少し笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ