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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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遊撃隊

 ヴィットとマリーはミネルバの元に向かった。砲塔のハッチから身を乗り出したミネルバは、頬杖を付きながら不敵に笑った。


「久しぶりだね。まんまるタンク」


「まんまる……」


「まあ、マリー落ち着いて」


 ガクガクと震えるマリーを苦笑いのヴィットが装甲を撫ぜ、周囲の戦車の配置に視線を向けた。


「用があるなら、さっさと言いな!」


 ヴィットの視線の動きを目で追ったミネルバが、急に怒鳴った。


「町の護衛だろ? この配置じゃ、町を盾にしてるとしか思えない」


 もう一度戦車の配置を見ながら、ヴィットは言葉に力を込めて言った。


「アタシは町の護衛など、どうでもいい。目的は鉱山の護衛だ」


「そうか。任せた」


 一言だけ言ったヴィットは唖然と見送るミネルバを余所に、平然としてマリーに乗り込んだ。


「ヴィット、どうしたの……」


 呆気に取られたマリーが呟く、絶対に言い合いになると思っていたから。笑顔のヴィットは、運転しながら説明した。


「鉱山はミネルバに任せておけば大丈夫さ、後は残った者で町の人達を守ればいいんだ」


 目的を全体として考え、相手の考えを受け入れながら自分の立場と、やるべき事を考える。第一の目的は鉱山護衛であり、主力を配置するのはセオリーだった。


 遊撃隊としてのヴィットの考えは、あくまで人命優先。町の人を守る事を優先させるのにはマリーも大賛成だった。


「ワタシ達は、遊撃隊として町を守るのね」


 嬉しそうな声のマリーに、ヴィットは補足した。


「この場合の分散配置は戦力低下には繋がらないよ。何故なら味方遊撃隊の筆頭には最強戦車がいるんだからね」


「まぁね」


 胸を張るみたいな元気なマリーの声は、決して間違っていないと、ヴィットに自信を与えた。


______________________



 モス達の所に戻ったヴィットは、改めて戦力を確認した。重戦車及び駆逐戦車が五両、中戦車が八両、軽戦車及び歩兵戦車が十一両、マリーを含めた合計が二十四両だった。


「ヴィット、指揮はお前とマリーに任せる」


 多分、それまで仕切っていたであろうモスは笑いながら言った。


「でも……」


 ヴィットの中では町の護衛はモスに任せ、マリーと二人で敵戦力を削ぐ為に索敵攻撃を行う構想だったが、他の皆もモスの意見に賛同した。


「お前とマリーの活躍は有名なんだぜ。知らない奴も、さっき俺が優しく教えた」


 多分ではなく絶対モスが無理矢理にとヴィットは苦笑いするが、少し考えるとヴィットは作戦を話した。


 鉱山に続く三本のうち一本が町の中を通っている。ヴィットの考えでは、その一本に戦力を集中配置して町を守るという事だった。他の二本は鉱山の主力に任せ、敵が二本を使ったなら、素早く後方から回り込み挟み撃ちにすると言う内容だった。


「それなら、町に続く道は見通しの良い平原だ。待ち伏せには不利だぜ」


 確かにモスの言う通りだったが、ヴィットには意図があった。


「待ち伏せしてるのが分かったなら、通らないと思う」


「そうか、誘導か……敵は残り二本のどちらかを通る。三本で待つより、確率は50%だな」


 嬉しそうな顔でモスは頷き、他の皆も一様に同意した。


「ただ、備えは必要だよ。敵が町を通るコースを選ぶ可能性はあるからね」


「そうだな、また穴掘りに精を出すか」


 モスの少し情けない声に、周囲は大爆笑になった。マリーは、そんな遣り取りを黙った見ていた……ヴィットの成長に、喜びを噛み締めながら。


___________________



 町に続く平原に着くと、先に塹壕掘りをしている一団がいた。


「じぃちゃん……何で?」


 驚いた様な表情でヴィットは呟く。穴掘りをしていたのは、紛れも無くオットー達だった。


「お前さんの意図は分かっとる。優先させるべきは、石っころより人の命じゃ」


 笑顔のオットーはスコップを振るいながら、グルグル眼鏡の奥でウィンクした。


「ありがとう、じぃちゃん達……」


 本当は、ココロの奥には怖さがあった。少し体が震えたヴィットは、改めてオットー達の存在に感謝した。


「凄いけど……プッ」


 モスは両手? にスコップを持って物凄い勢いで穴を掘るマリーの姿に噴き出した。


「何よ? プッって」


 スネた様なマリーの声が可笑しくて、ヴィットも思わず吹き出した。


「マリー、やっぱ変……腕の動きが有り得ない」


「ほんと、何よ皆して……」


 周囲は笑いの渦に包まれ、戦闘前の緊張を解き解した。


「ワシも穴掘りには自信があるが、マリーちゃんには敵わんわい、カッカッカ」


 豪快に笑うオットーだが、とても老人とは思えないスコップ捌きにヴィットは冷や汗を流した。


「じぃちゃん、穴掘り世界大会があれば、絶対上位入賞だね」


 褒められたオットーは気を良くして、更にスピード上げた。しかし、腕の回転がピークに達した瞬間、平原にお間抜けな悲鳴が響き渡った。


「はうっうぅ!」


「これは、腰をやったの」


「どこがピストンオットーじゃ」


 ベルガーは青褪めながら髭を触り、キュルシナーは呆れた様に葉巻を燻らせた。


「普通に掘ればよいものを……」


 溜息交じりのポールマンは、どっこらと巨体を揺すって助けに向かった。その場の全員の目がテンになるが、急に見張りの男が大声で叫んだ。


「十二時の方角、土煙!」


 一斉に全員が振り向く、同時にマリーの通信機に凛とした声が届いた。


『撃つなよ、遅くなった』


「ゲルンハルトさん!」


 思わずヴィットは叫んでしまった。まさに一騎当千、ゲルンハルトの到着はヴィットを含めた全員を力強く鼓舞した。



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