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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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未知

 掘り出したマチルダにマリーの交換したパーツを積んで、そのまま郊外の製鉄所に向かった。護衛? の為にマリーは先導し、マチルダに合わせてゆっくりと進んだ。


「なんか、少しストレスが溜まるね」


 あまりの遅さに、ヴィットがシートで背伸びをした。


「仕方ないよ」


 優しい声のマリーの言葉が、ヴィットに穏やかに浸透した。口ではストレスと言ったが、ゆっくり流れる景色をヴィットは気に入っていた。


「ねえ、あの腕? あれが目玉新装備なの?」


 気になっていた事を聞いてみた。


「うん……前から欲しかったの」


 嬉しそうなマリーは、車体を震わせた。更に疑問が膨らんだヴィットは、直ぐに聞き返す。


「どうして?」


「補給とか、自分で出来るし……」


 マリーは少し照れたみたいな口調だった。


「何だ、そんな事気にしてたの?」


「うん……戦闘の後でも、皆が一生懸命働いてるの見て……何も出来なくて……」


 マリーは、済まなそうに声を揺らした。ヴィットは、なんだか嬉しくて声を弾ませた。


「マリーは凄いね」


「どこが?」


「とにかく、全部」


 ヴィットはマリーの事が、もっと好きになった。好きで好きで堪らなくて、満面の笑顔で言った。


______________________



「なあ、何なんだろうな、マリーって?」


 シュトゥットガルトルに向かうTDの装甲車の中で、コンラートが呟いた。


「修理は出来たが、パーツを交換したに過ぎない。殆どの主要部分がブラックボックスで、性能や意味なんてまるで分からなかっった」


 呪文の様に呟くTDは、ハンドルを持つ手を震わせた。


「そうだな、技術者としてのプライドなんか吹っ飛んだ。まるで、大量生産の生産ラインにいるみたいな気分だった……今、自分は何をしてるのか? これは何の部品で、何が出来るのか? そんな事ばかり考えてたよ」


 シートに深く座ったコンラートは、天井のリベットをボンやり見ていた。


「俺もさ……機械工学やら電子工学、金属工学に材料工学……戦車に関するあらゆる勉強をして来たつもりだよ。最近じゃ高分子材料工学なんかも頑張ってさ、巨大なメーカーや研究所で出来ない事を現場でやるんだって……でもさ、マリーは全てが違うんだ、全てを超えてるんだ。常識や理論、方式や既存の原理なんて全く当てはまらない、本当に”未知”なんだ」


 言葉を紡ぐ様にTDは話した。それは、コンラートに言ってるのか、自分に言ってるのかTD自身にも分からなかった。


「アンタも知りたいか? マリーを作った奴の事」


 暫くの沈黙の後、コンラートが静かに聞いた。


「さあな……」


 正直なTDの言葉に、コンラートも少し笑って頷いた。


_____________________



「マリー……エンジンの処分、終わったよ」


 製鉄所の駐車場で待つマリーの元に、ヴィットが帰って来た。


「ご苦労様」


 マリーの声は、とても穏やかだった。太陽はまだ高く、風がとても気持ち良く吹いていた。


「こらから、どうするの?」


「さあ、まだ考えてない」


 マリーの問いに、タイヤに凭れたヴィットが呟いた。


「仕事ならある」


 遅れてやって来たオットーは、眼鏡を光らせた。


「仕事? どんな?」


 本当は少し休みたいと思ったが、マリーの修理に掛かったお金の事もある。ヴィットは思い切って聞いてみた。


「ランスベルクの奥にハルツという小さな町がある、そこが最近盗賊に襲われてのぅ。護衛のタンクハンターを探しておるのじゃ。報酬は破格、どうじゃ?」


 なんだか、嬉しそうは顔のオットーは張り切って説明した。


「小さな街なのに、報酬は破格? どう言う事?」


 オットーの話は分かるが、疑問もある。


「最近、鉱山で希土類が出たそうじゃ。どうも襲ってる盗賊も、どこかの組織に雇われてるみたいな話じゃ」


「えっ……」


 背中に悪寒が走る。バンスハルの時と似ている感じがした。ヴィットは暫く考えるが、マリーは何も言わずに見守っていた。


「希土類って、どんなの?」


「ワシも詳しくは知らんが、充電池や発光ダイオード、セラミック合金の材料、磁性体の材料になるそうじゃ」


 首を傾げながら説明するオットーの言葉を、マリーが補足した。


「先端技術には必要不可欠、特に軍需産業には必需品よ」


「そうなんだ……でもさ、護衛ってずっとなの?」


 疑問は更に膨らむ。鉱山の護衛なら、相手が諦めるまで永遠に続きそうに思えたから。


「何、軍に支援要請してるからの、到着するまでじゃ……それより、どうするんじゃ?」


 少し考えたヴィットはマリーの方を見た。以前なら、きっとマリーの方から”やろうよヴィット”って言っただろう。でも、マリーは何も言わなかった。


「そうだね……行くよ」


 ヴィットはマリーの方に歩きながら、穏やかな声で言った。”マリーの気持ち”そんなものを暖かく感じながら。


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