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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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実力

「主砲残弾十六発、機銃弾は同軸八百発、対空二千発だな」


 モニターを見て残弾を確認したヴィットは、少し渋い顔で腕組みをした。


「敵は戦闘機十二機、戦車十四輌だよ」


 普通に報告するマリーの声が可笑しくて、ヴィットは噴き出した。


「なんか、全然普通だね。残弾を考えると、ギリギリだよ」


「そう? 大丈夫と思うけど」


 やはりマリーは普通に言った。


「そんじゃ、戦闘機から行きますかね」


 笑顔のヴィットはシートベルトを締めた。


「オッケ。じゃあ行くよ!」


 マリーは底面のロケットを噴射、高く上空に舞い上がった。回転を始めると、何時もの様にヴィットのヨダレと悲鳴が大空に響き渡った。


 以前と変わらない回転数だが、スピードと機動性は飛躍的に上がっていた。回転数の上昇は乗員負担を招く為に、回転を抑え尚且つスピードと機動性を上げる為に、ホイールスラスターの推力と角度制御が各段に向上していた。


 マリーが高速で接近すると敵機は散開、高位置をキープしようと上昇する。だが、水平飛行の状態から垂直に上昇出来るマリーの機動性から見れば、空中に止まってる様なものだった。


 マリーは対空レーザーで、次々と敵機のドロップタンクをピンポイントで撃ち抜いて行った。シザース、エルロン・ロール、シャンデル、スライスバック、インメルマンターンどんな高度な技を使って回避しようとしても、マリーの超絶機動の前では無力だった。


「ほあ~。マリーちゃんから光の帯が出ると、敵機は一瞬で墜落じゃ」


 空を見上げたベルガーが、風に髭をなびかせた。


「最早戦車にとって、戦闘機は天敵ではない……最も、マリーちゃんの場合に限られるがのぅ」


 オットーは何時もの様にカッカッカと笑い、ポールマンも大きなお腹を摩って頷く。


「空飛ぶ戦車か、そりゃ最強なはずじゃな」


 キュルシナーは、大空に葉巻の紫煙をくゆらせた。


 あっと言う間に全機を撃墜、毎度の落下傘が空を覆った。マリーは回転を緩め、敵戦車の前方に着陸した。


「ヴィット、大丈夫……」


 心配そうなマリーの声が、ヴィットのボヤけた思考に届く。強く頭を振り、ヨダレを拭ってヴィットはシートに座り直した。回復には多少時間が掛かる、マリーは敵戦車が近付いてもじっと動かないでいた。


 至近弾が弾着しても動かない。命中弾はレーザーで狙撃、破片や機銃弾は電磁装甲で防いで動こうとしない。やがて、ある程度ヴィットが回復すると、マリーが声を掛けた。


「ヴィット、運転出来る?」


「まだ目が回る……任せた」


 ヴィットは声を途切れさせ、シートに沈み込んだ。


「分かった、直ぐに片付けるからね」


 マリーは全速で敵戦車に向かう。狙いは敵戦車の主砲、一撃必殺でロケット榴弾を叩き込み、擦れ違い様に機銃掃射で履帯と転輪を破壊した。


 相手戦車がマリーを攻撃したくても、素早くサイドキックで位置を変えるマリーに照準さえままならず、照準無しで撃つしかないが当然、命中弾などあり得なかった。


 マリーは戦場を縦横無尽に駆け抜け、擦れ違うだけで敵戦車は一瞬で戦闘能力を失った。連携や隊列など、マリーの戦闘力の前では何の役にも立たずに、敵戦車隊は成す術なく全滅した。


 例によって、撃破された戦車から顔を出す敵兵たちの顔は鳩が豆鉄砲を喰ったような顔で、戦車を降りても放心状態だった。


____________________



「凄いデータが取れました。空戦も陸戦も、全ての常識を覆しますね」


 嬉しそうな研究員に、指揮官は少し憮然とした。


「見てれば分かる……だが、データは取れてとしても、現実的にはどうなんだ? あんな化物を作るのは可能なのか?」


「現時点で言わせてもらえば、不可能ですね。あまりにも懸け離れています。ですが、もしも、今あれと同じ物を量産出来れば、世界の征服も現実となります」


 研究員は、目を輝かせた。


「先では可能と言う事か?」


「どうでしょうか……我々も前進や進歩を続けてはいますが、あれに追い付くにはどの位の年月が必要なのか想像も出来ません」


 士官の問いに、研究員は眼鏡を押さえながら俯いた。


「そうだな」


 士官にも、それは想像出来た。遠い未来から来た、あるいは全く違う世界から来た……そんな空想の世界しか思い浮かばなかった。


「しかし、赤い戦車は現実に存在しています」


 顔を上げた研究員は、マリーの姿を脳裏に浮かべた。


「それは、紛れも無い事実だ。さて、諸君、撤収を開始する。我々を逃がす為に掛かった費用は莫大だ、給料分の仕事をしよう」


 指揮官は遠く戦場を見ながら、その場にいる者全員に声を掛けた。


_______________________



 マリーはオットー達の所に戻った。


「マリーちゃん、全ての性能が格段にアップしておるのぅ」


 眼鏡の奥のオットーの目がキラリと光った。


「ありがとう。それより、マチルダ掘り起こさないと。ワタシも手伝います」


 そう言うと、マリーはアームを伸ばしスコップを掴むと掘り始めた。少し遅れてヴィットがハッチから顔を出す、首を摩りながら苦笑いで。直ぐに笑顔のオットー達が声を掛ける。


「ヴィットよ、見事な戦いじゃった」


 オットーは胸を張り、自分の事の様に笑顔を向ける。ポールマンやベルガーもスコップを振るいながら同じ様に笑顔を向け、ツルハシを振りながらキュルシナーも笑った。


「俺も手伝う」


 マリーから飛び降り、ヴィットも穴掘りの輪に入る。しかし、マリーが穴を掘る姿が可笑しくて、ヴィットは噴き出してしまった。


「マリー、スコップが小さく見える」


「何が可笑しいのよ!」


 マリーの少し怒った声に、オットー達も大笑いした。



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