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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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一番欲しかったモノ

 上空に上がるだけで最悪の事態は把握出来た。トレーラーの後方は斜面が崩れ、土砂で埋まっていて、直ぐにマリーが叫んだ。


「ヴィット! シートベルト!」


「敵は?!」


 慌ててシートベルトをしながら、ヴィットは叫び返した。


「後回しよっ!」


 マリーは電磁装甲を展開すると、回転飛行に入った。例によって、全方向からの物凄いGがヴィットを襲うが、歯を食いしばりヴィットは耐えた。


 高度を落としたマリーは回転を上げ、水平方向から土砂に突っ込む。電磁装甲が土砂や岩を弾き飛ばし、回転を上げる事で巨大ドリル効果を発揮し、マリーが通り過ぎた後は平坦に土砂が削れていた。


 当然車内は強烈なGプラス爆音と超振動でメチャクチャな状態になるが、ヴィットは頭の中も体もグチャグチャだが、不思議と意識を保っていられた。二度ほど往復すると、マチルダの砲塔ハッチが顔を出し、マリーは回転を緩め着地した。


「ヴィット大丈夫! 起きてる!」


「なんとか……」


 立ち上がろうにも頭の中はグルグル回転し、目の前の物が二重三重に見えた。だが、自分の頬をブッ叩き意識を強引に引き戻すと、ヴィットはフラ付きながらもマチルダのハッチに近付いた。


「じぃちゃん!! 返事しろっ!」


 震える手でハッチの土を払いのけ、ヴィットは叫びながら開閉ハンドルを回すが土砂の圧力で曲がったのかビクともしない。気は焦り喉はカラカラになるが、ヴィットは渾身の力でハンドルにしがみ付いた。


 どんなに力を入れても、どんなに蹴ろうが叩こうがハンドルはピクリとも動かない。泣き叫んでも、オットー達の返事は無い。だが、後ろから近付いて来たマリーは優しくヴィットに声を掛けた。


「ヴィット、下がって。大丈夫だから」


 泣き顔のヴィットが下がると、マリーの前方機銃に位置にある両方の蓋が開いた。そこから銀色に輝くアームが伸びて、ハッチのハンドルを掴んだ。


 先は四本の指? の様になっており、途中は数か所の関節で自由に曲がっていた。そして、掌にあたる部分には小径の機銃口みたいな物も見えた。


 唖然とするヴィットを尻目に、マリーはハンドルが折れない様に慎重に回す。固い所からグッと力を入れると、ハンドルは回りハッチが開いた。


 直ぐ様飛び付いたヴィットの顎に、顔を出したオットーの頭が激突した。


「どわっ!」


 目から火花を出し、ヴィットは尻餅を付いた。


「ふぅ~死ぬかと思ったわい」


 よろよろとオットーがハッチから出ると、やせ細り青い顔をしたベルカー達も次々に出た来た。


「じぃちゃん!」


 ヴィットがオットーに抱き付くと、オットーは優しく頭を撫ぜた。


「ヴィットよ、敵は倒したか?」


「うん……」


 ヴィットは涙が溢れて止まらなかった。そんな光景を、マリーも嬉しそうに見守っていた。だが……ほんの少し遅れ、ヴィットの鼻腔に異臭が漂った。


「じぃちゃん……なんか、臭い」


「酸欠の心配は無かったんじゃが、なんせオットーの奴がピーゴロでのぅ」


 青い顔したベルガーが、髭と体を震わせた。


「あれはまさに、ゴウモンじゃな」


 泣きそうな顔でキュルシナーは、震える手で葉巻を咥えた。


「この世のモンとは思えなんだ……マニアにはウケるかもしれんが……」


 白目になったポールマンは、呪文みたいに呟いた。当然、ヴィットは前向きに勢いよく倒れ、マリーはアームで仰ぎながら、悲鳴を上げて全速後退した。


___________________



「意外に手こずった様だな」


 腕組みする士官は、マリーの戦闘に薄笑みを浮かべた。


「はい、おかげで良いデータが取れました」


 研究員は満足そうな顔で、データの紙を捲った。


「しかし、S-66の弱点と不具合、同時に見抜かれた。搭乗員も、中々の手練れだ」


「でも、あれ……」


 感心する士官に、オペレーターが促す。そこにはマチルダのハッチを開けようと、泣き叫ぶヴィットの姿があった。


「子供じゃないか……」


 呆れて目を疑う指揮官は、モニターを凝視した。


「あと少しで応援部隊が到着します、もう少しデータが取れそうですね」


 眼鏡に触れた研究員は、嬉しそうに言った。


「そうだな……さて、総員撤収準備に掛かれ」


 指揮官はモニターから目を離すと、凛として指示を出した。


_______________________



「ヴィット! そろそろお迎えが来るよ!」


 マリーは遠くから声を掛けた。立ち上がったヴィットは、オットー達に声を掛けるとマリーの元に走った。


「じぃちゃん! 敵のお迎えが来る! 取り敢えず安全な場所に退避して!」


 走って行くヴィットの背中を見ながら、オットーは感慨深げに呟いた。


「頼もしくなったもんじゃ……」


 ベルガー達も、同じ様に笑顔で頷いた。


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