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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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弱点

 途中マリーは、ヨタヨタ走るマチルダを追い越した。追い越し様の風圧はマチルダの車体を大きく揺らす。


『なんちゅう、速さじゃ。まるで、榴弾じゃな』


 嬉しそうなオットーの声が、通信機から弾けた。


「じぃちゃん、何してるの?」


『わしらは、賊を追跡中じゃ。マリーちゃんの部品を盗んだ奴じゃな』


「って……追い付くの?」


 呆れ顔のヴィットは、大きな止め息を漏らした。


「うんにゃ、今年中には無理じゃ。カッカッカ」


 豪快に笑うオットーの声が無線機から響いた。ヴィットは更に大きな溜息を付き、マリーは笑い声で聞いた。


「おじぃちゃん達、相手を見た?」


『大型のトレーラーが一台と、小型トラックが一台じゃ』


「大型のトレーラー?」


 部品を運ぶなら小型トラックで充分なはずだが、ヴィットは妙に胸に引っ掛かった。


『多分、護衛じゃな』


「護衛って、トレーラーで?」


『それは行って見んと分からんが、注意は必要じゃ』


 オットーは普通に言うが、ヴィットの脳裏にはあの”ケンタウロス”の姿が浮かび、背筋を冷や汗が流れた。そして、頭の別の部分では大型トレーラーが変形して巨大ロボットに……なりかけてる時、マリーの明るい声が響いた。


「トレーラーで最強戦車を迎え撃つなんて、いい度胸ね」


『ワシらも生まれ変わったマリーちゃんの活躍を見たいとこじゃが、野暮用で少し遅れて行く』


「何? 用って?」


 オットー達の事だからと、ヴィットは少し期待した。


『昨日の夜食べた、くじらの焼き鳥がいかんかった。直ぐに便意を催し、ピィゴロじゃ……どゎぅ! ポールマン、ここではダメじゃっ!』


 前向きにコケたヴィットは、なんとか起き上がりながら目を細くして呟いた。


「ったく、どんな食べ物だよ? それより、お食事中の人もいるんだから……」


『とにかく、ワシらが行くまでは頑張るのじゃ……ヴっ』


 急に無線が途絶え、雑音だけになった。ヴィットは長く大きな溜息の後、アクセルを踏み込んだ。当然、唖然としたマリーは言葉が出なかった。


_______________________



「赤い戦車の部品奪取に成功しました」


「そうか……」


 副官の報告に、指揮官は表情を変えずに髭を触り続けた。


「ですが、離脱経路が空路ではなく何故、陸路なんでしょうか?」


「奴は飛べる、撃墜されれば終わりだ。それに最大の目的はデータ収集だ。部品の奪取は、おまけみたいなものだ。戦車のデータは、陸でないとな」


 首を傾げる副官に、指揮官はソファーに片肘を付いた。


「赤い戦車にコードネームが付いた。”アンタレス”火星に対抗するもの」


「火星に、ですか?」


「”アーレス”……我々のクライアントの組織名だ」


 初めて聞くクライアントの情報に、副官の背筋に悪寒が走る。どこの国でも”火星”と言えば”戦い”の象徴で、その地の戦神の名が付けられてるのは有名な話しだった。


 神話に登場する戦いの神”アーレス”は戦場での狂乱と破壊の側面を表す。副官は更に背筋を凍らせた。


「今度は新型戦車のテストも兼ねている」


「あれですか?」


 指揮官の言葉で現実に戻った副官は、背筋を伸ばした。


「データを最優先だ。データ収集後、機材の破棄は徹底しろ。離脱の援護は?」


「戦闘機、一個飛行中隊十二機。戦車隊、一個中隊十四両で編成しています」


「大袈裟な事だな」


 呆れた様な口調で、指揮官はソファーの肘で頬杖を付いた。


「赤い戦車、否、アンタレスの戦闘能力を考えれば少ない位です」


「そうか……失敗の報告は聞かんぞ」


 肘を戻し、指揮官は静かに言った。


「了解しました」


 敬礼した副官は部屋を出て行き、指揮官は脳裏に赤い戦車を思い浮かべ妖しく口角を上げた。


「さて、どんな進化を見せてくれるのか……」


________________________



「前方にトレーラー視認。マリー何か変わった事は?」


「そうね、別に……」


 大型のトレーラは、全体が黒塗りで車体には何も描かれてなかった。


「エンジンの反応は前を走るトラックから出てる。まずは足止めね。ヴィット、横の斜面から回り込もう」


「飛んで追い越さないの?」


「何か嫌な予感がするの。飛行性能は格段にアップしてるけど、その分燃費低下がしてるから、念の為に節約した方が……」


 前方に広がる山岳地帯が迫り、直ぐ先の道は追い越せない狭い道幅。この狭い範囲はマリーの示した地図では3km位で、その先は開けた岩場が多く、ヴィットは納得して了解した。


「オッケ。そんじゃ、斜め走り行くよ!」


 アクセルを吹かし斜面に向かう。斜面と言っても角度は四十五度近く、普通に見ても垂直の壁に見える。


 ヴィットは突入角度を考え、壁のは入口を瞬時に探した。前方二百メートル、そこだけが壁の角度がやや浅く前輪が取り付き易そうだった。


 抜群のタイミング、左前輪が斜面をガッチリ掴むとマリーの車体は一気に斜面を駆け上がった。ヴィットはバケットシートが幸いして転げ落ちる事はなかったが、身体全体が強烈に下向きに引っ張られる。


 そこで思わぬ誤算。斜面は砂岩質で崩れ易く、おまけに降りれる個所が見当たらないのだった。


「斜面の角度がキツイ! 足元も崩れそうだ!」


 ハンドルと格闘しながらヴィットが叫ぶと同時に、マリーは底面のロケットを噴射! ホイールロケットで姿勢を制御してトラックの前に着地した。

 

 だが、トラックはスピードを緩めることなく突っ込んで来る!。


 正面モニターに運転席のヴィットと同じ位の少年が映った瞬間、マリーは全速後退を始め、揺れる車内でヴィットが叫んだ。


「初めから飛べよ!」


「何事も練習よ!」


 叫び返すマリーにヴィットは後退の理由は聞かない。そんなの、分かり切っていたから。そして、狭い谷を抜ける寸前にマリーは同軸機銃でトラックのタイヤを撃った。


 それはまさに神業、素早く左右に動き微妙な角度から駆動輪だけをピンポイントで撃ち抜く。


 スピードが出ている所為で直ぐには止まらないが、丁度開けた場所の数十メートル手前でトラックは止まった。同時に後方で爆発音が響き、オットーの連絡が入る。


『後方は遮断した、袋の鼠じゃ』


「手を上げて降りてきなさい!」


 マリーが主砲で狙いを付けても、トラックからは誰も降りて来ない。そして、暫くの後にトラックの陰から黒い物体が姿を現した。


「何だ?」


「キャァァ~!!」


 ヴィットが目を凝らした瞬間、マリーが悲鳴と共に超全力後退した。



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