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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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追跡

「何やこれは……」


 勢いよく工場のシャッターを開けたチィコは、目を丸くした。工場内はパーツが散乱し、爆撃の後の様に荒らされていた。


 表のシャッターには異常はなかったが、裏口のドアは壊されマリーの外されたパーツの一部が無くなっていた。


「直ぐに無くなったパーツを調べろ!」


 ゲルンハルトの号令で直ぐに調査は開始されたが、ヴィットはミリーとの約束を思い出し言葉を失った。TDは荒らされた室内を見て、疑問を抱く。


「全部を盗んだ訳じゃない、残されたパーツもある」


「多分、ホイールや足回りなど複数ある物は一部だけね。材質や形状を調べたいのなら持っていく分は選別出来るわ」


 的確に分析したリンジーに、ミルコが補足する。


「電子部品としてモニター類は価値は少ないだろうね。基本的に重要な各ユニットは交換してないから、問題はないと思う」


「配線はシステム構成の手掛かりになる、何しろ殆ど交換したからな。だが、交換と同時に細かく切断したから、リスクは少ないだろう……一応は持って行かれたみたいだが」


 腕組みしたコンラートも顔を強張らせた。


「小型トラック一台あれば、充分って事だな」


 イワンは状況を分析するが、ヨハンは更に突っ込む。


「数台に別れたら、面倒だな」


「ああ、そうなると追跡は困難だ」


 逃走ルートを考えながら、ハンスは呟いた。


「今回の修復に対する図面や書類は焼却済みだが、新装備のマニュアルが見当たらない」


 顔を曇らせるハインツだったが、TDが済まなそうにマニュアルを出した。


「持ってた……別に、どうこうって言うつもりじゃなくて……」


「まあ、盗まれなかったんだから、結果オーライだ。直ぐに焼却しろよ……それより」


 少し笑ったゲルンハルトは、何も乗ってないエンジン架台に視線を向けた。


「直すつもりなら分解は不可能だけど、壊すつもりなら解析は可能だよ」


 ミルコの言葉はヴィットを更に追い詰めた。俯き身体を震えさせるだけで、まだ言葉が出なかった。


 リンジーも何と声を掛けていいか分からず、黙り込むヴィットを心配そうに見詰めるしか出来なかった。


「大丈夫よ、皆。エンジンには追跡装置が付いてるの、ヴィット。モニターを見て」


 明るいマリーの声は、ヴィットを救った。慌てて乗り込むと、確かにモニターに示された点は、移動していた。ヴィットは小声で聞いてみた、心に引っ掛かる疑問を。


「知ってたの?」


「うん……」


「なんで早く言わなかったんだよ」


 少し声が強くなった。


「だって……皆、喜んでくれてたし、せっかくの楽しい気分を壊したくなくて……」


 マリーの声はヴィットのココロを、また救った。相手を思い遣る気持ち、それは何時も暖かくて、自然と周囲を笑顔にする。


「皆、心配かけたけどエンジンは補足したよ……行って来る」


 ハッチから顔を出したヴィットは、元気な声で言った。


「私も……」


 言い掛けたリンジーを、ゲルンハルトが優しく制した。


「あいつは、一人で解決したいのさ。行かせてやろう……私達には仕事が残ってる」


「うん……」


 小さく頷くリンジーの手を、チィコが優しく握った。


「大丈夫や、今度はマリーが付いてるんやで」


「さあ、マリーに実弾と噴射剤の補給を急げ! 燃料も忘れるな!」


 ゲルンハルトの号令で、全員が作業を開始した。


_______________________



 マリーを見送った後、各自は残りのパーツの処分を開始した。殆どの金属部品は、エルレン近郊の製鉄所で溶かして処分する事に決まった。


 トラックに部品を積みながら、浮かない顔のリンジーにゲルンハルトが声を掛けた。


「どうした? 付いて行きたかったって顔だな」


「そんな事ないよ」


 無理して笑うリンジーだったが、その笑顔は直ぐに消えた。溜息を付いたゲルンハルトは、仕方なさそうに話し出した。


「本当は、後で驚かそうと思ったんだが、もう直ぐサルテンバが修理を終えて戻って来る」


「ホンマかっ!!」


 物凄く遠くにいたのに、チィコが凄い形相で走って来る。


「なんて、地獄耳してるんだ……」


 呆れたゲルンハルトは、二人に笑顔で話した。


「サルテンバの損傷は大した事はなかった。リアクティブアーマーと、砂地の地面のおかげでな。直撃の部分も、防御性能に低下は見られない。交換パーツも最小限で済んだ」


「何時や! サーちゃんが帰ってくるのは?!」


 満面の笑みのチィコは、ゲルンハルトの顔を食い入る様に見た。


「今日の夕方には来ると思う」


「なんだ、せっかく驚かそうと思ったのにな」


 パーツを運びながら、イワンも笑った。


「直ぐに後を追うんだろ?」


 ハンスも笑顔を向ける。


「テストは必要ないだろう、直ぐに出れるさ」


 既にヨハンはサルテンバの補給準備を始めていた。リンジーは皆に微笑み返すが、直ぐに真剣な顔をゲルンハルトに向けた。


「私、行きたい場所があるの……」


「どこだ?」


 腰に手を当てたゲルンハルトは、溜息交じりに聞いた。


「シュトゥットガルトル……ポルシェと言う男を探したい」


「探してどうする? マリーは直ったんだぞ」


 小さな声で答えるリンジーに、ゲルンハルトは穏やかな視線を向けた。


「確かめたいの……」


「……誰が何の目的で、マリーを作ったか……きっとヴィットは、どうでもいいって言うと思うがな」


 確かにリンジーもそう思った。でも、ココロの半分は確かめたいと言うのが本心だった。だから、次の言葉がリンジーの口からは出なかった。


「丁度、シュトゥットガルトルに帰る所なんだ、乗せて帰ってよ」


 黙り込むリンジーに、ミルコが笑顔を向けた。


「えっ……」


 顔を上げたリンジーに、今度はTDが言う。


「俺もシュトゥットガルトルに、パーツの買い出しに行く所だ。一緒に行っていいだろ?」


「私も用があって、シュトゥットガルトル行く所だった。乗せて行って欲しい」


 今度はコンラートも話に加わるが、チィコは速攻でクギを刺す。


「ミルコはサルテンバに乗したるけど、アンタはあかん。行きたいなら、TDに頼みや」


「チィコ……」


 驚いた顔でチィコを見たリンジーには、何も言わなくてもチィコの気持ちが流れ込んで来た”いつも一緒だよ”って。


「仕方ない、鉄工所まで護衛してくれ。その後に、行けばいいさ」


 全く、と言った表情でゲルンハルトはリンジーの肩を叩いた。


_________________________



「マリー、相手の動きはどう?」


 走り出して直ぐに、ヴィットが聞いた。


「まだ、そんなに遠くないよ。今は山岳地帯の入り口辺りかしら」


 モニターを確認しながら、マリーは言った。


「あの……ごめんね……ミリーと約束したのに」


 ヴィットは小さい声で謝る、胸の片隅の痛みを抑えながら。


「大丈夫だよ……きっと上手くいくから」


「うん」


 マリーの優しい声はココロの薬になる、どんな困難でも克服出来ると思えたヴィットは少し笑顔を取り戻した。


「さあ、暗くなる前に追い付くよ」


「分かった」


 マリーの言葉に、ヴィットは思い切りアクセルを踏んだ。事態が解決した訳ではないが、ヴィットのココロは暗さを感じなかった。


それは全てマリーのおかげなんだと、目の前に続く道を見詰めながら思った。


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