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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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復活

次の日の昼過ぎ、ヴィットの通信機にミリーからの連絡が入った。


『ヴィット、何ともない?』


「ああ、平気だよ。体中痛いけど」


 満面の笑みで、ヴィットは答えた。帰り道はずっとマリーと話をしていた。嬉しくて嬉しくて、修理とは関係の無い取り留めのない話もヴィットには宝物だった。


オットーは途中で迎えに来たマチルダ乗り、元気に帰って行った。ベルガーやキュルシナー、ポールマンは笑顔でオットーを迎え、傷ついたままのマリーにも優しい笑顔を向けた。


 ベルガー達はヴィットにも満面の笑顔を向けたが、その笑顔だけでヴィットには皆の気持ちが穏やかに流れ込んだ。


「少年よ、これからじゃ……」


 別れ際のオットーの言葉は、ヴィットに思い起させた。初めてマリーに会った時の、感動と喜びを。


 帰るなりチィコを押しのけリンジーが抱き付いて来たのには驚いたが、出迎えた皆の笑顔が嬉しい気持ちを加速させた。ずっと続いていた眠れない夜、不安で堪らない浅い眠り……だが、昨日は嬉しさで眠れなかった。


『オーバーペイロードなの。工場の前に着陸するから、交通整理よろしくね。五分後にアプローチに入るよ』


「なんですと!」


 飛び上がったヴィットの叫びに、直ぐにゲルンハルトが呼応した。


「ハンスとヨハンで交通遮断! イワンは防護ネットを用意しろ! オーバーランしたら反対側の店に突っ込むぞ! 他の者は周囲に知らせろ! 誰も道に出すな!」


 一斉に全員が動き出す! 工場前の道はそこそこ広く、舗装も新しいが直ぐ先はドン付きのT字路になっていた。周囲には店舗も多く、昼過ぎの周辺は歩いてる人も多かった。


「ヴィット、頑張ってね」


「任せといて!」


 マリーの少し心配そうな声に、ヴィットは元気よく返事して表に駆け出して行った。その背中を見守るマリーは何故が凄い安心感に包まれ、小さな声で言った。


「ヴィット……大きくなったね」


_____________________



 視界が捉えたミリーは機体下方に巨大な箱? をぶら下げていた。


「横幅、主翼ぐらいあるぞ……」


 呆れた様な口調で、ヨハンが呟いた。


「常識じゃ考えられない。空力もペイロードも完全に無視してる。一体、どんな強力エンジンなんだ……」


 目を丸くした、飛行機オタクのハンスが唖然と呟く。


「あれじゃあ、主脚が出ないな」


 TDは遠目に見える機体に、少し声を震わせた。


「箱の下に、小さな車輪が見える」


「2号……あっ、すまん」


 双眼鏡で見たイワンが報告するが、ハンスは双眼鏡をもぎ取ると解説した。ヨハンは何か言い掛けたが、イワンに睨まれ俯いた。


「貸せ! あれだけ車輪が小さいと、機体の水平精度は凄くシビアになる。少しでも傾けば、着陸した途端に横転だ」


 その言葉はリンジーやチィコを青褪めさせるが、笑顔のヴィットは平然と言った。


「ミリーなら大丈夫だよ」


「その自信は何?」


 ポカンとするミルコに、ヴィットは笑顔を向ける。


「だって、ミリーは最強戦闘機だから」


「俺は逃げるからな、リンジー行こう」


 逃げ腰のコンラートは足元を震わせ、リンジーの腕を取った。その腕を優しく振り解いたリンジーは、笑顔を向ける。


「逃げるなら、一人で逃げて。ミリーは危険を承知で、あんな大きな荷物を持って来てくれるのよ、私達が逃げてどうするの?」


「そや、ミリーなら大丈夫や」


 さっきまで青褪めていたチィコも、リンジーの笑顔に被せて笑顔になった。


「そんな……」


 コンラートは青褪めるが、ミリーは工場の前に音も無く着陸した。そして、ドラッグシュートを展開して想像より遥かに短い距離で停止した。必死の形相でネットを構えたイワン達も、目をテンにする位にあっさりと。


「ふぅ~重かった。主脚が出せないんで、皆で持ちあげてくれる?」


 着陸したミリーは明るく言うが、イワンは目を丸くした。


「こんだけの人数じゃ無理だ、応援を呼んで来る」


「ワタシは、そんなに重くないよ! それと、変なとこ、触んないでね」


 怒った声のミリーだが、その声が可愛くて一同が笑顔になった。一番驚いたのはハインツを始めとする技術者だった。試しにと、今いる十人程で持ち上げると簡単に持ち上がり主脚を出したミリーをそっと地面に降ろした。


「いったい、何で出来ているんだ……」


 驚くハンスの問いに、笑い声のミリーが言った。


「内緒。それより皆さん、マリーの事、宜しくお願いします」


「ミリー、ありがとう、こんなに早く……」


 鳴き声のヴィットに、ミリーは優しく言った。


「泣き虫さん、お礼はマリーを直してからね。あっ、それと外したパーツは、直ぐに完全処分してね。そうしないと、次に何かあっても助けられなくなるから」


「完全処分……」


 TDにはマリーとミリーの素性が少し分かった気がした。オーバーテクノロジーは、時として世界に混乱をもたらすと、TDには痛い程分かっていたから。


「約束するよ」


 涙を拭ったヴィットは明るく返事した。


「それじゃ、行くね」


 エンジンを始動したミリーは直ぐに飛び立って行った。リンジーとチィコは見えなくなるまで手を振っていた。


______________________



 箱の中身はエンジンだけではなかった。六個のホイールと、通信機、各種モニター、少し大きな円筒形の物、それに木箱に入った光線銃みたいな物、そして厳重に梱包された二対の棒状の物、足回りやドライブシャフトなどの部品までが入っていた。


 そして、大きな包みには赤いリボンが付いていて、ミリーからのメッセージが書かれたていた。


”ヴィット、あんまり無理しないでね”と。


「これ、超高圧セラミックコンデンサだ……」


 ミルコが信じられないと言う顔で、円筒形の物を摩った。


「何? それ?」


 ポカンとしたヴィットに、TDが満面の笑顔で説明した。


「電磁装甲の電力供給の要だよ。今あるコンデンサは、完全にパンクしてるからね」


「それって……」


「ああ、電磁装甲が直せる」


 笑顔のTDの言葉に、ヴィットのココロは遥か彼方まで飛んだ。ミリーに対する感謝は、もう言葉に出来ないくらい大きくなっていた。


「新品のタイヤも届いたぞ」


「配線も、今朝届いた」


「対空機銃も砲も修理完了だ。でも、対空機銃は損傷が大きくて、ニコイチになったけどな」


 ハンスやヨハン、イワンからも立て続けに報告が入る。


「対空機銃は一丁で十分だ、コイツは対空レーザー。敵機を撃墜するにはパワー不足だが、対戦車ミサイルの迎撃は完璧。相当な電力を消費するが、新エンジンの発電能力で補えそうだ。だだ、電磁装甲との併用は注意が必要かもしらないけどな。それとヴィット、面白い新装備もあるんだよ」


 TDは説明しながら、喜びを抑えられないと言う感じだった。


「新装備?」


「出来てからのお楽しみだけどな」


 唖然とするヴィットに、ブ厚い説明書を見ながらTDは笑った。


「さあ、作業開始だ!」


 ゲルンハルトの一言で、全員が作業に取り掛かった。


__________________________



 寝食を忘れて作業する皆に、マリーは何度も心配そうに声を掛けるが笑顔で大丈夫と言う答えが返ってくるだけだった。


 そして数日後、マリーは完成した。当然、新品のペイントには”オシャレ迷彩”が施され、砲塔のドクロマークも新しく書き直されていた。


 新品の様に輝く車体。砲塔後部の対空機銃は、一基が対空レーザーに代わり、二丁の前方機銃は外され、蓋の様な物が付いていた。


「外部のセラミック装甲や武装の修理も完璧。足回りも全部新品部品で組んだ。取り付け部位には損傷や曲りはなかったから、事実上の新品だ。当然、アライメントも完璧、エンジンのパワーアップに対処したドライブシャフトやブレーキ、ショックアブソーバー関係も新品だ。電装系は強化された電線のおかげで信頼性は格段に向上してるし、パネル類や無線も新品交換した。何より超高圧セラミックコンデンサと、新型高性能エンジンによる発電能力の向上で電磁装甲もパワーアップして、完全復活だ!」


 胸を張ったTDが唾を飛ばし、一気に説明した。


「ヴィットの話ではエンジンパワーは三倍になったと言うけど、どれ位スピードや機動性が向上したかは、テストしてみないと分からない……けど、修理と言うより完全に生まれ変わったと言った方がいいね」


 ミルコも嬉しそうな顔で補足した。


「配線の強化は下手なチューンアップより効果がある。電装品が120%の能力を発揮出来るんだ。今回は特に電磁装甲関係の配線を重点的に強化した。余程の事が無い限りオーバーロードも気にしなくていい」


 ニヤリと笑ったコンラートが、流し目でリンジーを見た。悪寒が走るリンジーは、愛想笑いで答えた。


「外装のハイパーセラミックと中間材は殆ど交換した。特に最新の素材を使ったから、装甲防御だけで、従来の倍は強度が増した。塗装も特殊セラミック塗装だから、機銃弾くらいじゃ傷も付かない」


 腕組みしたハインツも、自信タップリに言った。


「みんな……ありがとう」


 マリーの声は完全に掠れていた。リンジーやチィコも自然と最高に嬉しい涙を流した。


「マリー、テストに行こう」


 微笑むヴィットの言葉に、マリーは元気よく返事した。


「うん!」


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