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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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本気

 全身の痛みで目を覚ましたヴィットは、操縦席で倒れているオットーを泣きそうな顔で揺り起こす。


「じぃちゃん! しっかりしろよ!」


 中々起きないオットーにヴィット全身は悪寒に包まれるが、暫くの後にオットーは急に飛び起きた。


「だぁっ!」


 驚いたヴィットが後退りするが、オットーは肩をポキポキ鳴らして笑顔を向けた。


「お主も無事のようじゃな……」


「なんとかね……でも、普通に起きてよ」


 微笑み返したヴィットは外に出て機体を見るが、一瞬で固まった。機体はバラバラ、原型を留めてるのはコクピット周辺だけで、後は何の部品か分からない状態だった。


 銅像みたいに固まるヴィットの傍に、音も無くミリーが着陸した。


「どうやら、無事みたいね。おじいちゃんは?」


「あそこ……」


 ヴィットの指差す方向には、ユタヨタと機体から這い出るオットーの姿があった。


「……よかった」


 大きな溜息を付きながらのミリー言葉は自然とマリーと重なり、ヴィットの胸は忘れていた重圧が重く圧し掛かった。直ぐに言葉に出すと、更に胸が締め付けられた。


「ミリー、マリーのエンジン、どうにかならない?」


「今のエンジンはワンオフの試作品なの。量産は前提としてない技術試験の為の作られたエンジンには、補修パーツなんて存在しないのよ」


「そんな……」


 落ち込むヴィットは、俯いたまま体を震わせた。


「耐久性や信頼性は未知数でも、マリーはあのエンジンを選んだの」


「どうして……」


 ミリーの言葉は優しかったが、その意味なんてヴィットには分からなかった。


「一番発電能力が良かったから……電磁装甲の為に」


「電磁装甲……」


 ヴィットの中に新たな問題が浮かび上がる。外装のハイパーセラミックは修理出来ても、電磁装甲は全く目途が立っていなかったのだ。


「そう……マリーが最優先させたのは武装や機動力じゃないの、乗員を守る装甲システム」


 分かっていた、気付いていた。マリーは何時も、どんな時も自分よりヴィットを守ろうとしていた事を。俯いた瞳からは涙が溢れた、今すぐにでもマリーの元に飛んで帰りたかった。


「あなたは、マリーの事を”家族”って言った……家族って何なの?」


 ミリーの質問にヴィットは黙り込む。今まで自分には無かったモノ、帰れるバショ、キヅナ、掛け替えのないソンザイ……その全て……。


「……タカラモノ」


 暫く考えた後、ヴィットはポツリと言った。


「タカラモノ……か。ねえ、新型の試作エンジンがあるんだけどな。出力は三倍、耐久性や信頼性は保証付き、大きさや重量は大体同じだからマリーに搭載可能よ」


「ほんと……」


 俯いていたヴィットの顔に輝きが戻る。マリーを直せる、そう考えただけでヴィットのココロは大空を駆け巡った。


「でも、条件があるの……あなたの本気が見てみたい」


 ミリーの言葉にヴィットは即答した。


「何でもやる、マリーの為なら」


 ヴィットは真っ直ぐにミリーを見詰める、その瞳には迷いや不安なんて一欠けらもなかった。


_________________________



「ホイールの曲りは修正出来たけど、ロケットの噴射はやってみないと分からないな」


 手を止めたヨハンは、エンジンルームから顔を出したTDに話し掛けた。


「噴射口は極めて高温となるからな、曲りを直せたとしても強度は分からない」


 見た目は元通りに出来上がったホーイールを見たTDは、小さく声を落とす。


「走行中のホイール破損か……最悪だな」


 足回りにの点検をしながら、ハンスは操縦手としての恐怖を思い浮かべた。


「新品が欲しい所だけどな……材質はチタンとタングステンの合金だけど、配分が難しいんだ」


 TDは眉を潜め首を傾げる。


「新しいエンジンが手に入ったとしても、飛ぶのはリスクがあるね」


 ハッチから顔を出したミルコも、心配そうな顔で言った。


「制御系を煮詰める事で、材質の低下はカバー出来るはずだ。ミルコ、設定を変えられるか?」


 今度はコンラートが、腕組みした。


「出来ないことはないと思うよ……ただ、設定は性能制限に振るしかないんだ。飛行性能に対する影響は計り知れないね。エンジンの不具合で、走行性能低下も避けられないし……」


 声を落とすミルコの頭の中では、制御のプログラムは出来上がってはいた。しかし、戦車としての資質を語る場合、走行性能低下は防御性能と並び最大の懸念だった。


「何だ、お前ら暗い顔ばかり並べやがって。俺達は出来る事を精一杯やるしかないんだよ」


 物資を運んでいたイワンが笑う。


「何や、たまにはマトモな事言うんやな」


 荷車押しを手伝うチィコも笑う。


「イワンの言う通りだ、考えてる暇があれば手を動かせ。エンジンは必ずヴィットがなんとかする」


 ゲルンハルトの言葉は、リンジーの胸に刺さる。今、この瞬間もヴィットは必至で頑張っているのだ。遠くから見ていたリンジーは、ヴィットの事を思うと自然と笑顔になった。


「何だ? リンジー顔が赤いぞ……さては……おごっわっ!」


 毎度の事、茶化したイワンの顔面に台車が命中した。


「あちゃあ~……ちっとは、学習しぃな……」


 大の字になるイワンを、しゃがんだチィコが棒で突いた。その様子にハンスやヨハンは苦笑いするが、コンラートだけは夢見る乙女の様に頬を染めていた。


「気は確かか?」


 呆れ顔のTDは、冷や汗を拭きながら呟いた。


 マリーは黙ったまま、皆の話を聞いていた……嬉しさと心配が織り交ざる複雑な心境は、マリーから言葉を奪い微かに車体を震わせるしが出来なかった。


____________________



 ミリーの出した条件は、単純だった。ヴィットがミリーに乗り、曲技飛行をして気絶しなければいい、との事だった。


 オットーは心配そうにヴィットに声を掛けた。


「ミリーの飛行は見たじゃろ、機動性は常識を覆しておる。思い切り旋回されたら、あっと言う間にG-LOCじゃ」


「何だよそれ?」


「失神じゃよ……よいか、体の軸に対し上方向の大きなGがパイロットに掛かった際に血液が眼球内の血管に集中し、視野が赤くなるのがレッドアウトじゃ。これに対して体の軸に対し下向きの大きなGがパイロットに掛かった際、心臓より上にある脳に血液が供給できなくなり、完全に視野を失う症状がブラックアウトじゃ。どちらも人間の限界サインじゃ、それを超えればG-LOC、即ち失神じゃ」


 深刻な顔で説明するオットーに、ヴィットは笑いながら言う。


「大丈夫だよ、マリーが飛ぶの見ただろ? あれに乗ったんだよ、ミリーの飛行なんか平気さ」


「マリーちゃんは、お主が気絶せん様に飛んだがのぅ、ミリーは違うんじゃ、お主を気絶させようと飛ぶんじゃ」


 大きな溜息のオットーは、シャッを脱ぐとビリビリと破り始める。確かにヴィットは違うと思った……マリーが回転を止めて、対空砲に晒される場面が脳裏を過った。


 もう、絶対にマリーを泣かせない、心配なんて掛けさせない。ヴィットは拳を握り締めながら、心に誓った。


「何してんだよ?」


「ワシに出来るのは、これぐらいじゃ」


 シャッを包帯状にすると、オットーはヴィットの足に巻き始める。


「何だよ、ちょっと痛いよ」


 かなり強く縛られるシャツに、ヴィットは顔を歪めた。


「これで、少しは耐えられる。後はお前さん次第じゃ」


 下を向いて縛りながら、オットーは言った。


「そうだね……ありがと……じぃちゃん……」


「何じゃ?」


 顔を上げたオットーに、ヴィットは笑顔を向けた。


「どうして、何時も助けてくれるの?」


「助けるのに理由が必要か?」


 手を止めないで、オットーは呟いた。暖かいモノがヴィットの中に流れ込む。勇気と元気が自然と溢れ出し、ヴィットは笑顔になった。


「ペン、貸してくれる?」


「あっ、ああ……」


 不思議な顔で手渡すと、ヴィットは遥か彼方の大空を見上げた。


「ミリーに見せてやるさ……俺の本気を」


「少年よ……」


「えっ、何?」


 聞いた事の無い穏やかなオットーの声に、ヴィットは不思議そうな顔を向けた。オットーは言葉に力を込めて、思いを込めてヴィットに投げた。


「誰にでも負けられない戦いをする時がある……ならば、無理をせい。力の限り無理をせい……骨は、拾ってやるでのぅ」


「うん! やるよ、思い切り!」


 笑顔のヴィットは、大声で返事した。


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