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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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赤い戦闘機

「弾は何発あるの?」


「ほれ」


 ヴィットの問いに、オットーは袋ごと渡す。中には十発以上の照明弾があり、数発の曳光弾も混ざっていた。


「燃料投棄のタイミングは任せる、とにかく敵を後ろに付かせないと」


 ヴィットはコクピットの後ろのドアを開けた。幾ら低速とは言え、飛んでる事は間違いない。ドアを開けた途端に猛烈な風圧がヴィットを襲うが、足を踏ん張り手摺を握り締めると曳光弾を装填した。


 そして一機が九時方向から接近して来ると、曳光弾を続け様に発射した。勿論、命中するはずはないが、敵戦闘機を驚かせるのには十分だった。驚いた一機は翼を翻し、一旦距離を取ると、ヴィットの思惑通り輸送機の後ろに回る。


 作戦通りだが、同時に絶好の射撃ポジションは撃墜の危機でもある。


「今だっ!!」


 叫ぶと同時に照明弾装填! 引火の事も計算して先に初弾を発射! オットーが燃料投棄コックを開くと、空中に燃料が撒かれ輸送機の後方に虹の橋を架けた。


 だが、大量の空気に希薄された燃料にはそう簡単に引火はしない。ヴィットは立て続けに照明弾を発射するが、引火の気配さえ見えなかった。


「だめだっ! 着火しない!」


「ほんじゃ、ま……」


 オットーはメインタンクもサブタンクも、投棄コックを同時に全部開いた。一気に投棄される燃料、虹は濃く鮮明になり後方に付いた敵機が、ヤバイ! と感じた瞬間! ヴィット渾身の照明弾の炎が燃料に引火した。


 瞬時にオットーはコックを閉めると、そのまま急降下! 敵機は炎に包まれる。撃墜する程の威力はないが、炎で焦げたキャノピーは視界を遮り敵機は追撃を断念、帰投した。


「やった! 成功だ!」


 ヴィットが叫んだ瞬間、機体の中を機銃弾が横断した。残りの一機は様子を窺っていて、輸送機の奇想天外な戦法に驚きはしたが、普通に考えれば後方じゃなくても輸送機の撃墜位置などは何処でもよかった。


「少年よ、シートの下にパラシュートがある」


 最早手段は残ってない。再び高度を取ると、オットーはヴィットに促した。直ぐにシート下を探ぐりヴィットは慌ててオットーに装着させ様とするが、笑顔のオットーは拒んだ。


「ワシには無理じゃ……なんせ、歳じゃからな。お前さんだけで行け」


「何言ってんの?! そんな事出来るはずないじゃないか!」


 叫ぶヴィットに、オットーは穏やかな顔で言った。


「若いモンには、未来がある。生き延びる手段の放棄などはさせん。それにな、お前さんはマリーちゃんを助ける義務がある。同時に自分自身が生きる義務もあるんじゃからな」


「分かったから! じぃちゃんも行くんだ! 俺一人じゃ絶体行かないからな!」


 ヴィットは叫ぶが、オットーは悲しい目で振り返った。初めて見るオットーのそんな悲しげな目は、ヴィットの胸を激しく揺らす。そして、オットーが何か言おうとした瞬間、今までにない衝撃が機体を揺らした。


_________________________



 相手はヴィット達の遣り取りなど待ってはくれない。容赦ない銃撃が右のエンジンを貫通した。


「右エンジン被弾! 火が出るぞ!」


 ヴィットの叫びと同時に、オットーはエンジンの燃料供給を止めると煙を吐きながら右のエンジンは停止した。


「じいちゃん! 無理にでも……」


 無理矢理にパラシュートのベルトをオットーに着けようと、ヴィットが迫った瞬間! キャノピーの前方に敵影が見えた。真っ直ぐに突っ込んで来るその姿は、ヴィットに終わりを予感させた。


 走馬灯の様にマリーやリンジー、チィコやゲルンハルトたちの顔が浮かぶ、一瞬意識が体を離れそうになる。だが、その刹那! 腕にした通信機に、声が弾けた。


『左に回避して!』


 直ぐに反応したオットーが左に操縦桿を回すが、そうでなくても反応の鈍い機体は、片肺と言う事も手伝い、緩やかにしか姿勢を傾けない。


 そして、敵戦闘機の機銃が火を噴いた瞬間、目の前を赤い何かが過った。瞬間に鳥肌が立ち全身にが震えが走る、そして見開いた目には確かに赤い戦闘機が映った。


 ミリーはワザと敵戦闘機に機体を晒すと、敵の目標は瞬時に変わる。敵機が追い掛けようと、軸線を輸送機から逸らした瞬間、ミリーは神速で反転して敵戦闘機のエンジンに一発だけ機銃を叩き込んだ。


 直ぐに敵パイロットはペイルアウト。敵機は主人を失うと、煙を引きながら墜落して行った。


「ミリー……どうして? ……」


『そっちこそ、どうしたのよ? この辺りは危ないんだよ』


 唖然と呟くヴィットに、呆れた様に聞き返すミリー。


『まあ、その機体はもう駄目ね……話しは降りてから……付いて来て』


 ミリーはそう言うと、先導の為に前に出た。一気に力の抜けたヴィットはシートに沈み込むが、オットーはニヤリと笑って親指を立てた。


「どうじゃ? ミリーに会えたじゃろ」


 それは多分、物凄い偶然と、最高の奇跡と、究極のラッキーが重なったのだと、ヴィットは物凄い汗を掻きながら苦笑いした。


____________________



 ミリーに先導され、暫く飛ぶと前方にかなり広い草原が見えた。


『あそこなら、降りられるでしょ? でも、胴体着陸したことあるの?』


 ミリーの問いに、ヴィットの冷や汗は豪雨となった。


「ど、どうして、胴体着陸なの?」


 当然の疑問、震えるヴィットは声を裏返す。


『だって、その機体車輪が無いよ』


「へっ?」


 ヴィットの目がテンになる。


「カッカッカ、離陸の時に落としたんかのぅ」


「落としたって、財布じゃないんだよ! 車輪だよ! それより、胴体着陸はやった事あるの?!」


「うんにゃ、胴体どころか、着陸はやった事はない」


「ほへっ?」


 ヴィットの目がテンどころか、白目になる。


「何しろ、今日が初めての操縦じゃ……カッカッカ」


 大笑いするオットーの横で、ヴィットは亡骸の様にシートに沈んだ。


『まぁ、飛んじゃったんだから、後は降りるしかないね。機体を出来るだけ地面と平行にして、失速させない様に優しくね。後は、燃料の投棄を忘れずに』


「心配いらん、もう燃料は無い」


 ミリーの指南にオットーが平然と答えたと同時に、残る一基のエンジンが止まった。


「マジかよ……」


 シートベルトを手で探りながら、ヴィットは青褪めた。


 機体はゆっくりと高度を下げる。幸い軽量化した輸送機の失速速度は遅く、うまく地面と水平を保ちながらアプローチに入る。


 一回目のバウンドで左右の主翼が脱落し、二回目で尾翼、三回目で垂直尾翼と後部が千切れた。物凄い振動と、轟音の中、ヴィットの叫びが広い大空に響き渡った。


「二度と乗らねぇからなぁ!!!」


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