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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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嘘と真実

 リンジーは、そのままイワンに連れられ出て行った。ヴィットはその背中に作戦の成功を祈るが、マリーのエンジンルームから顔を出したTDの顔色に胸が冷たくなった。


「どうなの?」


「オーバーホールしたい所だけど……」


 言葉を濁すTD。ヴィットはリンジーの言葉が思い出し、更に胸が苦しくなった。


「ワタシは大丈夫だから」


 何度も聞いたマリーの”大丈夫”が、ヴィットの脳裏で呵責に変わる。落ち込むヴィットの様子は、モニターの中に沈着してマリーを暗い沈黙に誘うが、マリーは明るい声で説明した。


「エンジンは、ハイブリットガスタービンなの。小さな個体の中にタービンと超電磁モーター、高効率ジェネレーター、ギヤボックスも全部一体化されてるのよ。勿論メンテナンスフリーだから、心配しないで」


「そうなのか? ……」


 顔を上げるヴィットに、TDは目を見開く。何か言おうとするが、音も無く指向したマリーの同軸機銃の前に言葉を飲み、違う言葉を向けた。


「まあ、マリーがそう言うなら」


 TDは苦笑いするが、ヴィットの胸の痛みが消える事はなかった。マリーの全身はまさに満身創痍であり、電気系統以外にもホイールロケットや、足回り、各種兵装など問題は山積みだった。


「ヴィット……ちょっと」


 TDがヴィットを端の方に誘い、小声で囁いた。


「あの飛行機、確かミリーとか言ったな。なんとか探せないか?」


「どうして?」


「マリーの姉妹だろ? 見つけられれば、なんとかパーツの確保が出来るかもしれない」


 TDの言葉は”光”だった。ヴィットは忘れていた、急に目の前に道が見えた。ミリーを探せば、本当になんとかなるかもしれない。


「マリー、ミリーは何処にいるの?」


 駆け寄ったヴィットの顔は、希望に満ち溢れていた。


「ごめんなさい。ミリーは”自由”だから、どこにいるかは分からないの」


 マリーは、すまなそうに言うが、その言葉は想定済みのでヴィットはマリーに笑顔を向けた。


「そうか……俺、探してくるよ」


 そう言い残し、ヴィットは街に向かって走り出した。その背中には今までの後ろ向きなヴィットはいなくて、マリーは大きな溜息と共に胸を撫で下ろした。


____________________



「そろそろ、訳を話してくれる?」


 車の窓に片肘を付いたリンジーは、風に髪をなびかせた。


「マリーの修理には、どうしてもコンラートの力が必要だ。奴を動かす方法は唯一つ……綺麗な……お姉ちゃん」


「はぁ?」


 イワンの真剣な言葉に、リンジーは声を上げた。


「少し心許ないが現時点で用意出来るのは、お前だけなんだ」


「なぁにぃ?」


 リンジーは鬼の形相で、運転席に転がっていたハンマーを振り上げる。


「待て、落ち着け。コンラートは清楚で大人しい娘が好みなんだ。だから、せめて奴の前だけでも……」


 慌てたイワンは、顔面に残るスパナの後を摩った。


「無理に決まってる、私なんか……」


 急に声を落としたリンジーは、手にしたハンマーを見詰めた。リンジーの手元を横目で見たイワンは、顔面蒼白で言葉を震えさせる。


「だから、物を投げるのはやめろって。マリーを助けたいんだろ? 本当にコンラートしかマリーを直せないんだから」


「どうすれば……」


 消えそうな声のリンジーに、イワンは溜息の後に言った。


「いいか、男なんて所詮子供だ。騙すのは簡単な事なんだ……出来るだろ、マリーの為なら」


 リンジーはそっと頷くと、元気に走るマリーを思い浮かべた。


_______________________



 別に宛てがあった訳じゃなかった。街中を走り回って聞いても、誰も”赤い戦闘機”なんて知らなかった。


 舞い上がっていたココロは、あっと言う間に急降下してヴィットは俯きながら歩道に座り込んだ。落ち着いて考えれば、そんなに上手く行くはずはないと思っても、暗闇で急に見付けた光には誰だって焦る。


 その光が幻だと分かった時は、更に深い暗闇が待っていた。だが、ヴィットは立ち止まる訳にはいかない。大切なマリーの運命が掛かっているのだ、立ち上がると一点を見詰めヴィットは、また走り出した。


 ヴィットは一度、工場に戻るとゲルンハルトを探した。ゲルンハルトはハイパーカボンの窯の前で、パネルに数値を打ち込んでいた。


「ゲルンハルトさん」


「どうした?」


 振り返るゲルンハルトは、完全に職人と言った感じだった。


「この街に情報屋はいませんか? ミリーの居場所を探したいんです」


 ヴィットの顔には決意みたいな強さが溢れていた。


「そうだな、街外れの居酒屋にストーンと言う男がいる。だが、その居酒屋は……」


 ゲルンハルトの言葉を最後まで聞く事はなく、ヴィットは飛び出して行った。


「大丈夫か? あそこは盗賊が多いし、この街の黒い部分だぞ」


 手を止める事なく、ハインツは心配そうに言った。


「何、あいつもタンクハンターさ」


 走り去るヴィットの背中に、ゲルンハルトは微笑みを向けた。随分、逞しくなったものだと。


________________________



 コンラートの自宅兼作業場は、リンジーの想像を遥かに超えていた。壁一面の見た事も無い工具が所狭しと飾られ、室内配線は色取りまで計算されワザと見せる為に張り巡らされ、床には塵一つ落ちて無い。


 その清潔感と整然感は、工場である事を忘れさせた。応接間で待つリンジーは周囲を眺め回すが、その美しく張り巡らされた配線は期待感を高めた。


「これは……」


 出た来たコンラートは、リンジーに目が釘付けになった。確かに黙っていれば、リンジーはコンラートにはド、ストライクだった。高い身長に甘いマスク、艶のある黒々とした長い髪と耳に優しい声は、多分多くの女を虜にして来ただろう。


「お願いします。あなたに配線作業をして頂きたい戦車があります」


 立ち上がったリンジーは深々と頭を下げるが、コンラートは横目でイワンを見た。


「確か、ゲルンハルトの……」


「俺は、この娘を連れて来ただけだ」


 イワンは、目を逸らせ呟いた。


「作業してあげなくもないが……条件がある」


 コンラートは、怪しい微笑みでリンジーを見た。


「条件?」


「ええ、あなたが私の傍に、ずっといる事」


 コンラートの目は、真っ直ぐにリンジーを見た。


「それは……」


 俯くリンジーに、イワンはハッとした。簡単に考えていたが、コンラートを動かすには”対価”が必要だったのだ。直ぐにヴィットやマリーが頭に浮んだイワンは、急に立ち上がった。


「帰るぞ、リンジー。話は終わりだ」


「でも……マリーが」


 泣きそうな顔のリンジーに、イワンは頭を下げた。


「すまない。俺の考えが甘かった。こうなる事は予想出来たのに……お前に何かあったら、ヴィットやマリーに顔向け出来ない」


 その姿を見たリンジーは、曖昧な笑顔をイワンに向けた。


「ヴィットに行かせなかったのは、私とマリーを天秤に掛けさせたくなかったのね。目の前で、ヴィットがマリーを選んだら……私……」


「お話し中に悪いんだが、君は戦車を直すために来たんじゃないのか? 誰だね、そのヴィットとか、マリーとか」


 明らかにコンラートは動揺していた。初めて会ったリンジーの魅力に取りつかれたのは確かだが、そのリンジーに男の影がチラ付くのには我慢が出来なかった。手に入りそうにないモノ、他人のモノ……それこそが、所有欲を刺激する。


 イワンは、コンラートの態度に光明を見出した。作戦は失敗、直ぐに撤収と考えていたが、作戦の続行を決めた。


「あんたが、その目で確かめるんだな。リンジーの好きな男を」


「何っ! やだっ!」


 リンジーは反射的に椅子を投げ、イワンの顔面で砕け散った。


「えっ……」


 コンラートは目をテンにして、その場で固まった。


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