表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第一章 始動
20/172

新しい扉

 ヴィット達はバンスハル守備隊の補給庫の前で、大修理大会をしていた。ガランダルからの報酬は十分で、補給庫のパーツは使い放題だった。


 各自の車輌の修理に勤しむ人々の前で、ヴィットは途方に暮れていた。マリーのタイヤは修理不可能な位に焼け爛れ、補給庫にはパーツなんて見当たらない。


 TDは他の戦車の修理はそっちのけで、マリーの修理に当たっていたが応急処置さえままならなかった。何しろ外装のハイパーセラミックなどは、設備が無ければ修理不可能だし、電子部品も言うに及ばず、細かなパーツさえ使える部品は皆無だった。。


「ヴィット、ごめんね」


 泣きそうな顔のヴィットに、マリーが小さな声で謝る。


「何で謝るんだよ……謝るのは俺の方なのに」


 声が霞む、自分の非力さが悔しくて拳を握りしめた。そこに、少し浮かない顔でTDが声を掛ける。


「ヴィット、此処では何も出来ない……マリーは全てが規格外なんだ」


「……」


 言葉が出ないヴィットは、俯くしか出来ない。振り返って見るマリーは、焼け爛れた外装に潰れたタイヤ、その外見がヴィトを激しく痛めつける。


「本格的に修理するなら、マリーが造られた所に行くしかないんだが……」


 TDの声が沈む。何度聞いても、マリー自身も知らないのだった。


「取り敢えず、エルレンに行くしかないな。腕の良いハイパーセラミック関連の技師が居る」


「そうや、まずは化粧直しや」


 腕組みしたゲルンハルトがやって来て、笑いながら言う。動きそうにないボロボロの戦車トランスポーターの運転席から、笑顔のチィコも顔を出す。


「古い積車じゃが、わし等が修理したんじゃ、暫くは動く……多分」


 オットー達は街の隅に放置してあったトランスポーターを必死で修理し、動ける状態にまでしていた……多分。


「電子基板の修理なら、俺の伯父貴が一番だ」


「兵装は俺の従兄が天才だぜ」


 ハンスやヨハンもやって来る。


「タイヤや足回りは、俺の兄貴に任せておけ」


 イワンはニヤリと笑い、頭を掻く。


「皆……」


 全身に震えが来る、背筋を嬉しい悪寒が走る。ヴィットには眩しい太陽の元、マリーが輝いて見えた。丁度その時、フィーゼラー連絡機が近くに着陸した。中からはリンジーが笑顔で降りて来る。


「ガランダルさんに、借りちゃった」


「お前、何処かに行ってたのか?」


 唖然と呟くヴィット。どおりでサルテンバは、修理もしないで補給庫の前に放っていたか分かった。


「プリラーさんの所。中々白状しなかったけど、お金を握らせたら簡単に吐いたよ」


「あの変態業突くジジィめ……って、何を吐いたんだ?」


「マリーの仕入れ先」


 光が見えた、明らかに眩しい光が見えた。


「何処だ! 誰だっ!」


 慌てたヴィットは、リンジーに詰め寄る。近付き過ぎたヴィットの顔に、リンジーは真っ赤になった。イワン達が冷やかすが、ヴィットは気付きもしない。


「話を持ちかけたのは、ポルシェと言う男。シュトゥットガルトルから来たらしいよ」


「シュトゥットガルトルと言えば、ハイテク産業の巣窟だ。そこのヘンシェルク社が、ケンタウロスを試作したという噂だ。もしかしたら、電磁装甲も修理できるかもしれない」


 TDの言葉はヴィットを更なる光で包み込む。


「話は大体決まったな。まずはエルレンで外装と足回りの修理、電気系統はシュトゥットガルトル、ついでにポルシェとか言う奴を探し出して、真相究明と行くか」


 話をまとめるゲルンハルト。柄に無く嬉しそうな顔で、声もいつもと違いとても穏やかだった。


「皆、ありがとう……嬉しいげど……やっぱり先に、自分の戦車を修理してよ」


 すまなそうなマリーは、声を震わせる。チィコが寄り添い、車体を撫ぜる。


「何言ってねん。マリーが先に決まってるやんか」


「そんなの後回しだ、マリーが治らないと飯も喉を通らねェ」


「お前、さっきも食ってたじゃん」


「お代わりもしてた」

 

 イワンにハンスが突っ込み、ヨハンが笑う。


「皆、気持ちは一緒だよ」


 リンジーもまた、マリーに寄り添う。


「でも、完全修理なんて……」


 ヴィット、は予算が心配になる。ハイテク装備の修理の金額なんて、想像も付かない。


「なんて顔してる。君が心配するのはマリーの事だけでいい」


 ケルンハルトは、ヴィットの顔を覗き込んで肩を叩く。


「そうよ、何の心配もいらないよ。サルテンバは、このままガランダルさんに預かってもらう事にしたから」


 平気で笑うリンジーに、ヴィットは俯き加減で言う。


「お前らの修理は?」


「だから言ったやんか、後回し猿回し皿回しや。マリーが治らんと何も始まらんねん」


 笑顔のチィコに、ヴィットはそっとマリーを見詰める……変なギャグは当然スルーして。


「そうしたいの……いえ、そうさせて」


 真っ直ぐにヴィット見詰めるリンジーの瞳には、迷いなんて微塵も無い。 

 

「ほんでな、ウチら戦車が無いんで暫くはリンジーをマリーの砲手に、ウチを操縦手に雇ってや。報酬はいらんけど、ごはんだけは食べさせてな」


 チィコはリンジーと肩を組んで笑う。


「俺は? ……」


「ヴィットは指揮。どうマリー?」


 ヴィットは言葉が続かない。少し俯くヴィットに、リンジーは凛とした笑顔で言い放ち、今度はマリーに聞いた。


「うん……ありがとう」


 マリーの声は微かに掠れる。改めてヴィットは感じた……仲間の存在を。それは何も怖くない、何でも出来ると言う嬉しくて堪らない気持ちとリンクする。


「しっかりしろ、お前は何を一番望む? ……それは俺達と同じだろ?」


 イワンが柄に無く穏やかな声でヴィットの肩を抱く。


「……そうだね、そうなんだよね」


 俯いていたヴィットの顔がミルミル笑顔に変わる。


「さあ、マリーを積車に積み込むぞ!」


 ゲルンハルトの号令で、全員が一斉に動き出す。勿論、ヴィットも笑顔で加わる。誰もマリーを手荒に扱わない、まるで動けない病人を扱うみたいに丁寧に慎重に運ぶ。


 その気持ちはマリーに痛いに程伝わる。嬉しさが車体全体を駆け抜け、マリーは小刻みに震え続けた。


 新しい扉は開く、未来は素敵で優しい……と。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ