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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第一章 始動
2/172

始まり

「操縦に慣れないと」


 プリラーの倉庫を後にしたヴィットは、満面の笑みだった。


「ぶつけないでよ」


 マリーも嬉しそうに言う。戦車の操縦は狭い、煩い、固いという三重苦が付き物だが、広い運転席に身体にフィットした運転姿勢、オートマの変速、全てが軽い操作性、操縦は拍子抜けするくらい簡単だった。


 何より戦車操縦の最大の難点の視界がモニターによって、まるで自動車の様に前後左右は勿論、後方まで容易に見渡せるのだから。


「火器制御、索敵はワタシがするからね」


 少し気合の抜けた様な顔をするヴィットに、マリーは優しく言う。瞬時に各種モニターは索敵モードに切り替わり、安全と告げるグリーンのランプが点灯する。


 表示されたモニター上方の数字は半径十キロのエリアを示し、ヴィットがモニターに映し出された一点の場所を指で触るだけで、目標までの距離が場所のすぐ傍に数字で表示される。


「そう、なんだ」


 唖然とヴィットは呟く。勿論、疑問なんて噴水みたいに止めどなく湧いたが、その疑問すら多すぎて口に出すのに戸惑う。


「ワタシの目と耳は最強なんだよ」


索敵モードを対空に切り替え、そして対空対地の複合モードも表示した。


「ふぅん……」


 マリーの言葉に元気なくヴィットは答える、胸の奥では後ろ向きの考えばかりが過る。


「違うよ、あくまで補助なの。ヴィットの」


 言葉を言い直す様に、マリーは呟く。表情なんて見えなくても、その言葉

の言い方だけで人付き合いの下手なヴィットにだって分る。相手の事を思いやる気持ちが、穏やかにココロの中に流れ込む。


 ヴィットは、体の中から熱いものが溢れてくるのを感じた。それは勇気であり元気だとなんとなく分った。そして同時にある考えが頭を過る。


 知らない内にマリーを擬人化している自分と、機械なんだと完結させる自分。客観的に省みても感情の揺れは、浅い場所だが確かに存在した。


「あのさ……」


 ヴィットは少し照れ臭そうに頭を掻く。マリーは機械だがパートナーなんだと、言い聞かせるもう一人の自分の存在が少し大きくなる。でも、気持ちが軽くなるのは確かに実感出来る。

 

 誰かと話す事がこんなにも気持ちを盛り上げてくれる、癒してくれる。当たり前の事なのに今までどうして……軽い後悔さえ、愛しく感じた。


「なぁに?」


「どうして、選んだの? 俺のこと」


 途切れながら聞く。


「ヴィットはワタシに乗る時……靴、脱いだでしょ?」


「えっ、うん」


「だから」


「よく分んない、けど」


「嬉しかったよ」


 マリーの声はとても穏やかだった。


「そう……」


 ヴィットの胸に優しい気持ちがゆっくり流れる。


「どうして靴、脱いだの?」


 今度はマリーが聞く。


「奇麗、だったから」


「ありがと」


 マリーの穏やかな言葉は、温かい毛布みたいにそっとヴィットに掛けられた。


「あっ、このヘルメット変わってるな」


 なんとなく間が悪くてモニターの端に掛っていたヘルメットみたいな物を、ヴィットは手に取った。


「それはダメ!」


「あっ、ゴメン」


 急なマリーの大声に、慌ててヴィットは元の場所へ戻す。


「ごめんなさい、急に大声出して」


 初めて聞くマリーの少し悲しそうな声は、ヴィットの胸をキュンとさせた。


「いや、俺のほうこそ勝手に触って。でも、何なの?」


 何故か照れ臭くてヴィットは頭を掻いた。


「それを被ると、脳ミソが溶けちゃうの」


 冗談みたな言葉だったが、マリーの声には笑いは無かった。


「そうなんだ、溶けちゃうのか……ハハ」


 ヴィットの引き攣った窮屈な笑いが、マリーの車内で不自然に木霊した。


____________________


 

 一度家に戻り荷物をまとめた。ほんの少ししかない荷物にヴィットは苦笑いする。今まで暮らしてきた証が、たったこれだけかと。使わなくなった農家の納屋、そこの屋根裏がヴィットの家だった。


 親戚も無いビットは、両親を失った時点で一人で生きるしかなかった。幼い子供が一人で生きるには、全てを捨て食べる事に集中するしかない。


 幸い、人の世は厳しい面も多いが、幼い子供を見捨てる程荒んではいなかった。農家や商人、軍属や時には盗賊などもビットに食事を与えてくれた。


 多くの人々のおかげで、なんとか生き延びたビットは、次第に知恵と体力を蓄え、人の持つ暖かさや思い遣り、そして善悪を学んで行った。


 何も無くなった部屋を振り返っても、感慨は湧いてこない。ただ、窓から覗くと見えるマリーの赤い車体だけが、明るい日差しと共にヴィットに期待をもたらせた。


 町を抜け草原の道に出るとヴィットはやっと気付く、最初は感動と興奮で分からなかったが、その乗り心地は驚異だった。


 戦車なんて所詮戦闘車輌であり、エンジンの爆音と履帯の駆動音が金属の擦れる雑音と混ざり合い、激しい震動が当たり前の世界。


 なのにマリーは戦車を微塵も感じさせない、柔らかな振動と静かな走行音が優しく響くだけだった。


「最高の乗り心地だね」


 ヴィットは満面の笑顔で嬉しそうに呟く。


「どういたしまして」


 マリーも嬉しそうに答える。町を抜ける時、人々は驚いた様な視線を向けた。それは明らかに軽蔑の視線で、初めのうちは正直ヴィットは恥ずかしいと思った。でも、まだ会ったばかりなのにマリーに対する気持ちは変化していた。


 それは、リスペクトに近いものかもしれない。だからマリーを変な目で見た人々に少し腹が立った、時間差は少しあったが。


「この辺りで休もう、かなり走ったし」


 夕暮れの草原で、ヴィットは道を外れてマリーを止めた。


「そうね、もうじき日が暮れる」


 マリーも賛成した。ヴィットは降りると、食事の為に火を起こす。


「マリーも一緒に食べられたらいいのにな」


 食事しながらヴィットは星空を見上げた。


「そうね……」


 ほんの少し、マリーの声が沈むのに気付いたヴィットは慌てて話題を変える。


「まだ信じられないよ、本当に戦車を手に入れたなんて」


「しかも、最強戦車だもんね」


「そうだね」


 ヴィットはマリーを見上げた、星屑の背景はマリーを輝かせた。


 マリーのベッドは最高の寝心地だった。昨日の夜は戦車を手に入れられるかもしれない嬉しさと、ダメだったらどうしようという不安が混ざって不安定な眠りだった。


 そして、それ以前の夜といえば眠る事は何も感じない、だだの習性でしかなかった。


 暗い夜、いつも部屋の隅で膝を抱え不安しかない未来を嘆くしかなかった。眠りはそれに疲れて、落ちて行くだけの事。


 しかし、マリーとの出会いはヴィットに未来を予感させてくれた。眠りは明日への希望なのだと。


 生まれて初めてヴィットは熟睡出来た。それは大きな安心に包まれているのと、同義だった。


__________________



「お早うヴィット、朝だよ」


 安眠は穏やかなマリーの言葉と共に明けた。


「お早うマリー……」


 ヴィットは目を擦る、疲れなんて微塵も感じさせない朝だった。誰かに起こされた記憶を辿っても、ヴィットのメモリーはその先が霞んでいた。


 別にマリーが朝食の用意までしてくれる訳じゃないが、でも起きた時に自分以外の人? がいる。そんな気分はヴィットに見えない力を与えた。


 朝食を食べ、またマリーと一緒に走る。本当は戦車を手に入れたら、やりたい事、やるべき事は何度もシュミレーションしていた。でも、ヴィットはその事を忘れる程に気分が浮かれていたのかもしれない。


「今日はどうするの?」


「そうだね、取り敢えず走る」


 ヴィットはアクセルに力を込める。


「この先の直線で、最高速のテストだよ」


 マリーの声に、ヴィットは更にアクセルを踏む。


「なんて速さなんだ……」


 その体感速度はヴィットの常識を軽く超え、握るハンドルに汗が滲む。生まれて初めての背中を蹴飛ばされるみたいな加速感、矢の様に流れる景色、それらは決して不快などではなく、むしろ快感だった。


「戦車の性能の良し悪しは、火力と防御力。そして何より機動力は最大の武器なのよ」

 

 マリーの言葉はヴィットを納得させた。地上の王者であるはずの戦車は、空からの攻撃には成す術も無い。何に負けるのか?……それは正にスピードだった。


___________________



 数日、走るだけの日々を過ごす。ヴィットの中では初めて走った時から感じていた感覚、何かじゃなく誰かが傍にいるみたいな不思議な感覚が、次第に鮮明に強くなっている事を確かに感じていた。


 起きた後、ベッドの上で天井のリベットを見ていた。このままで……と、ヴィットは考えていた。それは目的を達成した安堵感にも似ていた、欲しいモノを手に入れた時の様に、嬉しさと同時に感じる脱力感が混ざる感覚だった。


 でも太陽が斜め前方に登り、朝日の優しい光が力強い光に変わる頃、マリーがふいに言う。


「この先に戦車が集まってるよ」


 少し不思議そうなマリーの声、起き出したヴィットは索敵モードのモニターを少し不安げに見た。確かに何もないはずの広大な草原に、沢山の戦車が集まっていた。


「どうしたのかな?」


「行ってみようよ」


「そうだね……」


 マリーの言葉にヴィットはそこに何があるか知りたいと思ったが、何故かそれはとても小さかった。好奇心なんて前からあったが、マリーの存在がヴィット思考を複雑に絡める。


 本当なら、マリーに言われるまでもなく行くって言ってたはずなのに、素直に踏み出せないヴィットがそこにはいた。


「よし決まり、でも朝ご飯食べてからだよ」

 

 マリーは母親みたいな口調で言う。


「うん」


 素直な返事と笑顔は、今のヴィットの気持ちとは少し違ってた。食事の後移動し、少し離れた大きな木の近く、日陰にマリーを止めたヴィットは上着を取りながら言う。


「見てくる、待ってて」


「待って、これ」


 ベッドの横の棚が開き、腕時計みたいな物が出てくる。


「何、時計?」


 手に取ったヴィットは顔を近付けた。


「通信機、離れてても話せるよ」


「分った」


 ヴィットは手首に巻くと、外に出た。見渡すと重戦車や中戦車が、広大な草原に所狭しと並んでいる。駆逐戦車や対空戦車など特殊戦車も多く、超駆逐戦車エレファントや超重戦車メガマウスまで混じっていた。

 

 そして中には博物館クラスの骨董品もあり、砲塔の上ではヴィットの祖父ぐらいの老人が白い鬚を撫ぜている。


 多くの戦車は色々と改造されており、オリジナルの外見なんて無いのに等しく、後付け装甲や武装で訳の分からなくなっている車輌ばかりだった。各自が自分の戦車の性能向上や塗装など、好き勝手に楽しんでいるみたいにも見えた。


「カスタム戦車の展覧会か?」


 呆れた様にヴィットは呟いた。そして、その中心には小山の様な巨大な戦車があった。その転輪はヴィットの背丈より大きく、履帯の幅なんて一枚で貴族の長テーブルぐらいありそうだった。


「何だこれ? エレファントがおもちゃに見える」

 

 思わず呟くヴィット、見上げただけで首が痛くなった。


『陸上戦艦、デア・ケーニッヒス。全長二十メートル、全幅八メートル、巡洋艦並みの二十八センチ連装主砲、副砲も十五センチ単装砲が前後に三基、他にも二十ミリや十二.七ミリの対空砲座が八基、戦車というよりほんと、戦艦ね。装甲だって、エレファントでもゼロ距離じゃないと貫通は難しいし、乗員なんか二十名近くいるの』


 腕の通信機からマリーの声は呆れた様に響く、ヴィットも見上げて口を半開きにした。


「ほんと、真近で見ると戦艦だね」


『地上最大最強の陸戦兵器よ』


「噂には聞いてたけどさ、でも最強はマリーだろ?」


 ヴィットは太陽さえ遮るその巨大な陸上戦艦と、遠くマリーを見比べて笑った。通信機からのマリーの声も笑ってるみたいだった。


『まぁね……』


_________________



「これ、じいちゃんの戦車だ」


 ヴィットは多くの戦車の中に、見覚えのある戦車を見付けた。それは古い写真にあった祖父の乗っていた型に違いなかった。駆け足で近付くと、懐かしそうに車体を眺め回す。


 錆が交る装甲の薄そうな車体、小さな主砲、すり減ったキャタピラ、避弾径始など考えも及ばないカクカクの車体デザイン。


車体には、戦闘とは無縁のスコップやツルハシ、ハンマーや斧、訳の分からない部品などが満載してありヴィットは少し首を捻った。


「これ、少年。何か珍しいかのぅ?」


 ハッチが開くと、ツルツル頭でグルグルメガネの老人が顔を出す。その老人が降りると、またツルツル頭の鬚の老人、次は少しは毛の残る葉巻を銜えた老人、最後は一人だけ太ってはいたが、頭だけはツルツルの老人が戦車から降りて来た。皆、笑顔を溢れさせながら。


「いえ、その、じいちゃんと同じ戦車だったから」


 取り囲まれたヴィットは頬を染めた。


「そうか。ワシはオットー、鬚がベルガー、葉巻がキュルシュナー、デブがポールマン、そしてこれはマチルダ」


 グルグル眼鏡のオットーがニコやかクルーを紹介し、最後は戦車に腕を広げた。


「ヴィットです、宜しく」


 差し出した手を順番に握手した。


「じいさん達その棺桶、横にどけな!」


 汚いヘルメットの大男が後方から怒鳴る。乗ってる重戦車も、男と同じで凶悪な面構えで巨大な主砲を揺らしていた。


「そっちが避ければいいだろ!」


 ヴィットは思わず怒鳴り返す。


「よいよい、わしらが退こう」


 オットーは笑うと、唖然とするヴィットを尻眼にマチルダを移動した。


「じいちゃん達、あんな事言われて腹が立たないのか?」


 少し声を荒げたヴィットに、横に立つベルガーがまたニコやかに言う。


「奴の言う通り、マチルダはワシ等の棺桶じゃ」


 その横のキュルシュナーもポールマンもベルガーも、笑顔で頷く。納得のいかないヴィットに、移動を終えマチルダから降りて来たオットーが笑った。


「少年よ、怒る事はない。ワシ等は半世紀マチルダと供にある、最後までそれは変わらんよ」


「でも、あんな言い方……」


 ヴィットは離れて行く、さっきの男を睨んだ。


「なぁに少年よ、大きく広いココロを持つのじゃ」


 オットー達はそろってカッカッカと笑い飛ばした。その大らかな笑顔は、ヴィットの怒りの気持ちさえ何でもないと笑い飛ばす。


「でも、いろんな戦車がいるね」


 ヴィットもつられて笑い、三段重ねみたいな砲塔の車輌に視線を向ける。


「あれか、あれは見ての通り三段重ね砲塔じゃ。一番上がやられても真ん中が攻撃を続け、真ん中がもやられても、まだ一番下で攻撃が出来るのじゃ」


「最初に一番下がやられたら?」


 当たり前の疑問、ヴィットは素直に聞いた。


「ワシも奴等にそう言ったんじゃが、もう出来た後じゃった」


 オットーはまた豪快に笑った。


「作る前に教えてやったら……そんじゃ、あっちは?」


 苦笑いしたヴィットは、今度は違う戦車を見て首を捻った。それは砲塔や車体と言わず、後付けの増加装甲で、悪魔の城みたいに訳の分からない形になっていた。


「アイツは防御力を限界以上に特化したのじゃ。車重は三倍となったが防御力は通常の五倍じゃ、際限なく増加する車重を少しでも防ぐ為に主砲まで大幅グレードダウンしたのじゃよ」


「でもさ、攻撃力は減るし機動力は大幅低下だね」


 腕組みしたヴィットは、戦闘力を自分なりに分析する。


「そこじゃ、運用限界を超えての戦闘には戦術を駆使するしかないのじゃ」


「戦術……」


 ヴィットは生唾を飲んだ。


「即ち、牛歩戦術」


 胸を張るオットー、思い切り前のめりにヴィットがコケた。


「戦闘の戦術じゃないだろ……」

 

 他の戦車にタコ殴りに合いながらもヨタヨタ這う姿を思い浮かべ、ヴィットは苦笑いした。


「あっ、あの戦車カッコいい」


 自慢げなオットーに閉口しながらも、砲身が三本もあるスマートな戦車を見付けたヴィットが微笑んだ。


「真ん中だけが本物じゃ、後はただの鉄パイプなのじゃ」


 また胸を張ってオットーは解説する。


「意味ないじゃん……」


「威嚇じゃよ」


 オットーはまた胸を張る。威嚇してどうするって胸の中で呟いたヴィットは、大きく肩を落とした。そんな様子のヴィットに、笑顔のオットーが聞いた。


「少年よ、戦車の強さは何だか分かるか?」


「攻撃力、防御力、機動性……かな」


 マリーの請け売りを呟くヴィット。


「アタリでもあり、ハズレでもある」


「どういう事?」


「カタログデータだけでは無いと言う事じゃ。整備性や航続力、扱い易さも戦車の性能の大切な一部なのじゃ」


 オットーの言葉は、ヴィットを納得させる。


「なるほどね」


「少年よ、あれを見るがいい。最新型のメルガバルじゃ」


 それまで笑って見てるだけだったキュルシュナーが、遠くの新型戦車を指差す。


「あっ、始めて見たよ。二名乗車のハイテク装備なんでしょ?」

 

 目を輝かせたヴィットの脳裏に、最新型装備の頼もしさがマリーと重なる。


「確かにハイテク装備は、最強の艤装じゃ。が、じゃ――電気仕掛けは、脆さもある。最前線の厳しい条件下で、威力を発揮できなければ意味はない。後方支援とバックアップの行き届いた状態ならよいが、我々個人の賞金稼ぎには運用は難しいのじゃ」


 キュルシュナーの言葉はヴィットの中に不安を過らせ、同時にまたマリーが脳裏に浮かぶ。


「全く、世の中の変化に付いて行けんわい」


「新しいモノと古いモノ、混じり合ってるのが世の中じゃ。それだけは昔から不変じゃよ」


 ポールマンのボヤキに、ベルガーが微笑んだ。


「戦車の強さはそれだけではない」


 少し不安そうな顔になったヴィットに、オットーが笑顔を向ける。


「まだあるの?……」


 考えても何も思いつかないヴィットは、曖昧に他の戦車を見る。


「要は乗る人間じゃ、せっかくの戦闘力も人間次第。その能力を減らす事も、増大する事も出来る」 


 オットーは豪快に笑う、キュルシュナー達も一応に頷く。


「そうだね」


 新米の自分が少し恥ずかしくなったヴィットに、オットーが背中を叩く。


「ワシらみたいな旧型人間とマチルダの様な旧型戦車でもな、戦い様はある」


「どういうこと?」


 優しく微笑むオットーに、ヴィツトは首を傾げる。


「経験じゃよ、それはどんな新型や強敵にも勝る」


「経験、か……」


 分かりきっていること、自分でも気付いていたこと。人に言われると、改めて不安に包まれる。ヴィットはほんの少し肩を落とした。


「少年よ、大きく、強くなれ。これからじゃ」


「……うん」

 

 穏やかな優しいオットーの声、ヴィットは俯いていた顔をそっと上げ大空を見上げた。 

 

 オットー達と別れ歩いていたヴィットは、何だか気分が明るくなっていた。今まで考えてもほんの少し先しか思い浮かばない未来が、大きく明るいモノの様に感じた。


 確かに不安も存在したが自分も頑張ばらなければ、という使命感はヴィットの目標になった。


『どうしたの? なんか嬉しそうだね』


 他の人達にも明るく挨拶するヴィットに、通信機のマリーの声もなんだか嬉しそうに声を掛けた。


「そうかな」


 ヴィットは上機嫌で返事した。オットーの”これから”って言葉は、気持ちを大空に羽ばたかせた。軽くなる身体は気を付けないと浮かび上がりそうで、自然と笑顔になった。


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