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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第四章 姉妹
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悪口

「ねぇ、マリー……マリーはどうしたい?」


 リンジーは優しくマリーに聞いた。その言葉はヴィットの胸を揺さぶる、本来なら自分がマリーに掛けたい言葉なのに、ヴィットは言葉が出なかったから。


「ウチらはマリーの味方や。マリーのしたい事、応援するで」


「……うん。ありがと」


 マリーは小さく返事して、チィコはマリーに寄り添った。また自分が言いたかった言葉……ヴィットは拳を握りしめた。


「少年!」


 突然オットーがヴィットの背中を勢い良く叩いた。思わず前のめりになり、ヴィットは驚いた顔でオットーを見た。


「マリーちゃん。ヴィットが言いたい事があるみたいじゃ……ほれ」


「その……俺はさ……兄弟いないから、よく分かんないけど……何かさ、時間って言うか……暫く、間をさ……空けたら良いと思うけどな……」


「……うん」


 ヴィットの途切れる言葉に、マリーは小さく返事した。リンジーが何か言おうとしたが、ゲルンハルトはそっと制した。


 夜が更けて皆が寝静まると、ヴィットは一人崖の上で星空を見ていた。


「ヴィットらしくないよ」


 リンジーの声に、振り向かないでヴィットは黙っていた。リンジーはそっと横に座ると、暫く黙って夜空を見ていた。


「俺らしくないって、何だよ?」


 かなりの時間を要して、やっとヴィットが口を開いた。


「言っていいの?」


 リンジーは微笑んだ。


「何だよ、悪口か?」


「そう、悪口」


 眉を潜めるヴィットに、リンジーはまた微笑んだ。


「……言えよ」


 寝転ぶと、ヴィットは呟いた。リンジーは大きく息を吸うと、ゆっくり話し出した。


「じゃ、言うね……マリーが帰って来てから、ヴィットは変……過保護って言うか、腫れ物に触るみたいにしてる……でも、マリーは”物”じゃない」


 ”物じゃない”その言葉が、ヴィットの胸に突き刺さった。だが、ヴィットは言葉が出なかった。


「やっぱり変だよ……」


 リンジーは優しい顔で、ヴィットを見詰めた。


「……何がだよ」


 ヴィットは掠れる声で言った。


「今までのヴィットなら、すごい剣幕で言い返してた……」


「……」


 沈黙がまた、訪れた。暫くの間を開け、リンジーは消えそうな声で言った。


「……確かに、あんな事があったんだもの、分かるよ。二度と失いたくない気持ちも、痛いほど分かる……」


「……何が分かるって言うんだ……お前にはチィコだって、父さんだって居る……俺には、マリーしか居ないんだ……」


 ヴィットは声を振り絞った。その言葉を聞くと、リンジーは肩を震わせ立ち上がると、泣きそうな顔でヴィットを見下ろした。


「ヴィットは何も見てない! 私が居るじゃない! 私はヴィットが一番大事なんだよ!」


 そう叫ぶと、リンジーは走って行った。一瞬見えた横顔には、確かに溢れる涙が月の光を反射していた。残されたヴィットは大きな溜息をつくと、また満天の星を見続けた。


___________________



 長い時間、夜空を見ていた。星は瞬き、そして流れて行った……脳裏では、マリーに出会ってからの出来事を思い出していた。


 思い出はどれも、ヴィットを暖かく包み込むが、マリーが傷を癒す為に離れて行った時の喪失感は胸の痛みを伴った。


 そして、また思い出を見返し時間を消費した。


「そのまま寝転んでるだけ?」


 見上げると、ケィティが覗き込んでいた。


「あっち、行けよ」


 ヴィットは背を向けるが、ケィティは言葉を続ける。


「ボクは、あの子達を兵器として見ていた……だけど、生み出したのはボクだからさ……責任って言うか、その、使命感って言うか……でもね、チィコは”愛情”で、あの子達の”ココロ”を掴んだんだ。何のデバイスも介せずに、通じ合って……本当に驚きだよ」


「チィコはアホだからな」


 ヴィットは、ぶっきらぼうに言った。


「……そうかも」


 少し笑ったケィティは、更に言葉を続けた。


「でも……羨ましいって思った。ボクも……そうなりたいって、思った……どうして、あの子達と一緒に逃げたのか……言い訳を探してたけど……本音は、さ……ボクも、あの子達と通わせたかったのかも……ココロを」


「そうか……」


 ヴィットの中に、暖かいモノが少し流れた。


「じゃ、行くね……それとね……大切なら…守るしかないんじゃない?」


 ケィティは笑顔でそう言うと、背中を向けた。何時の間にか、周囲は朝日に照らされ冷たい空気がヴィットの頬を撫ぜた。起き上がったヴィットは、大きく背伸びをするとマリーの元に走り出した。


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