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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第四章 姉妹
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「説明を聞こう」


 指揮官からの要望に、リンジーが代表して答えた。自分達はタンクハンターで、村からの依頼で”怪物”の調査に来て、自分とチィコが拉致され、ヴィット達が助けに来た……と。


「何で君達が拉致された?」


「知らないわよ。あのマッドサイエンティストに聞いて」


 リンジーの答えに、指揮官は苦笑いした。


「ところで、君の姉さんは?」


「あ、一緒に逃げ出して、近くに隠れていると思うけど」


 一瞬、ヤバイと思ったが、遠くからチィコが走って来た。ゴリマルが気を利かせて、こっそり崖から降ろしてくれたのだった。


「ところで、マッドサイエンティストはどうした?」


「さあ、私ら置いて逃げたわよ」


 走ってくるチィコを見ながら指揮官は質問を被せるが、リンジーはぶっきらぼうに答えた。そして、暫し沈黙が続く……これから、どう対処するかとリンジーが思考を巡らせていると、マリーが済まなそうな声で言った。


「ごめんなさい……ワタシがもう少し早く着いていれば……あの人達を助けられたのに」


 報告資料でマリーが会話出来ると知ってはいたが、指揮官は少し驚いた。ヴィットはマリーには何も言わず、黙って見守っていた。そして、指揮官は戦車の残骸に目を移した後、命令を下した。


「遺体を回収次第、基地に戻る」


 作業を見守るヴィット達は、誰も言葉が出なかった。そして、帰り際、指揮官がヴィットを見据えた。


「あの赤い戦車は何なんだ?」


「俺達も今日初めて出会った……」


「……そうか……救援、感謝する」


 真剣なヴィットの言葉に、指揮官は凛と言って撤退して言った。その背中を見ながら、ヴィットはリンジーの横顔に言った。


「嘘、下手だな……」


「えっ、何よ……」


 リンジーは眩しそうに、お日様を見た。


「何で拉致した奴を庇ったんだ?」


「あっ、それね……」


 リンジーが言い掛けた時、ヴィットの目前にゴリラと熊、猪が出現した。


「ゴゴゴ、ゴリラ~」


 声を裏返すヴィットの横で、チィコが嬉しそうに言った。


「ゴリラ、ちゃう。ゴリマルや」


___________________



「私はケイティ、マッドサイエンティストよ」


 クマタンの背中ら降りたケイティは、ニヤリとしながらヴィットの方を見た。


「それは、その成り行きで……」


 赤面するリンジーの横で、ヴィットはリンジーが庇った訳を感じた。


「詳しく聞きたいな」


 ヴィットの問いに、ケイティは事の顛末を詳しく話した。そして、話し終えるとマリーに近付き、その車体をじっくりと見て回る。


「こんな素材見た事ない……」


 マリーの車体は至近距離からの機銃弾を大量に浴びて、火花と轟音を撒き散らしていたはずなのに、覆った埃を払えば車体には掠り傷一つなかった。


「機銃も見た事のない型……こんな小型のレーザー……可動部のホイールなのにロケット噴射? 通常ホイールと然程厚みは変わらない……」


 独り言を言いながらケイティは、マリーの周囲を回った。


「マリーどうしたの?」


 何時もと何かが違い、何も言わないマリーの様子に、小声でリンジーがヴィットに聞くと、ヴィットも小声で答えた。


「……アンナマリーに会ってから、マリーは変なんだ……」


「そう……ミリーみたいな感じの姉妹じゃないのね」


 人員も一緒に敵戦車を撃破、マリーにも実弾を叩き込んだ様子に、察したリンジーは声を落とした。チィコも悲しそうな目で、黙ってマリーを見詰めていた。


 そして、暫くするとゲルンハルト達が到着して更にオットー達も合流した。最初はゴリマル達を見て驚いた一同だったが、顛末をリンジーが話した。それより、皆は様子がおかしいマリーを気遣い触れない様にしていた。


 日も傾き、焚火を囲んで皆は座っていた。


「これから、どうするつもりだ?」


 ゲルンハルトは静かにケィティに聞いた。


「居場所がバレたから、また襲われる前に逃げる……しか、ないわね」


「俺達もどうする?」


 イワンがゲルンハルトに聞いた。


「一応、謎は解明した。我々も撤収するしか……」


「ゴリマル達はどうすんのや?!」


 ゲルンハルトの言葉に、急にチィコが立ち上がった。


「仕方ないよ……もう、野生には帰れないから」


 リンジーは優しくチィコの肩を抱いた。


「そう、この子達は私が……だから、責任があるんだ……ありがとう、この子達を気にしてくれて」


 ケイティはチィコに微笑んだ。


「そやかて……そうや、ヴィットはどう思う?」


 一度俯いたチィコは、縋る様にヴィットを見た。


「えっ、そっ、そうだな……」


 違う事を考えていたヴィットは、慌てて思考を巡らせた。その様子に、リンジーの胸は小さく痛みを感じた。


「奴ら諦めないだろうな」


「実検体を処分するまではね……まぁ、私もその対象かな」


 ヴィットの脳裏に今まで戦って来た組織の事が浮かんだ。ケイティは明るく答えるが、チィコは泣きそうな顔だった。


「ならば、正々堂々と名乗り出るのじゃ」


「へっ?」


 急なオットーの言葉に、ヴィットの目はテンになる。


「嬢ちゃん達は、食料を盗んではいるが人的被害は出しておらん。その、何じゃ、サルヤやクマは言う事を聞くんじゃろ?」


「えっ、まぁ、聞くけど」


 ケィティも首を捻る。


「即ち、謝罪と弁償じゃ。畑仕事や山仕事、そのデカい図体なら弁償など直ぐに終わる」


「その後、どうすんだよ?」


 ヴィットがオットーを半ば呆れ顔で見る。


「デカくともサルはサル、クマはクマ、イノシシはイノシシじゃ。ペットとして皆に認識させればよいのじゃ。なぁに、多少大きな街に行けば、奴らも簡単には手出し出来ないのじゃ」


 眼鏡をキラリと光らせたオットーに、チィコが飛び上って喜んだ。


「そうや! それがいい!! おじいちゃん天才や!」


「ペットねぇ~」


「凶暴性は無いみたい。それに、皆言葉もある程度理解してる様だし」


 溜息交じりのヴィットに、リンジーが笑った。


「……何か、色々考えてくれてありがと」


 ケィティは少し俯きながら、小さな声で言った。


___________________



「後は、あの赤い戦車だな」


 残された戦車の残骸を見ながら、ゲルンハルトは呟いた。


「……」


 ヴィットは無言でマリーを見るが、マリーは何も言わなかった。


「実は赤い戦車の噂は以前からあった。丁度、マリーが修理に出ている頃だ。マリーと瓜二つだが、明らかに違っていた」


 ゲルンハルトは声を落とした。


「俺、知りませんよ!」


 ヴィットは声を上げた。


「お主はマリーちゃんの事で、一杯一杯じゃったからのぅ」


 オットーは穏やかに言った。


「私達もそう……何も知らなかった」


 リンジーとチィコは肩を落とした。


「噂はさ。本来なら普通だったんだよ……強力な赤い戦車が、さ……異次元の強さで敵を撃破する……マリーみたいに、さ、敵の乗員は傷付けないって言うのが……その、普通じゃないと言うか……」


 済まなそうなイワンの言葉は、何も言わないマリーに被さり、ヴィットやリンジーの胸を激しく揺さぶった。



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