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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第四章 姉妹
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秘密

「あれ、何で子供がおるんや?」


「どうして、ここに居るの?」


 チィコは丸い目を更に丸くして微笑み、リンジーは膝を屈め優しく言った。


「どうしてって、ここはボクの研究所。それに、ボクは子供じゃない」


 少女は顔を赤くして、腰に手を当てた。金色の綺麗な髪をショートボブにして、フレームレスの眼鏡は可愛らしい顔を更に幼く見せた。


「でも、どう見てもお子様だし……」


「せやな、ウチより背ぇ低いし……」


「キミ達は外見で人を判断するのか? ボクはこれでも24才なんだぞ」


 少女? は更に顔を真っ赤した。


「うっそ……そうなの?」


 リンジーは少女の肌艶の良さや髪のサラサラ感に、驚きを隠せなかった。


「堪忍な……ウチ……」


 素直に謝るチィコに、リンジーはその優しさが嬉しく思った。


「まあ、いいよ……ボクはケイティ生物物理学者」


「ウチはチィコ、こっちは妹のリンジーや」


「妹って……」


 ケイティは不思議そうに首を捻った。


「二卵性なんだ。一応」


「そう言う事ね」


 愛想笑いのリンジーだったが、ケイティは直ぐに理解した。そして、続けた……。


「ボクの研究所に招待した理由は二つ。一つは、チィコが何故NO,47と意思の疎通が出来たのか、その訳を知りたい。そして、もう一つは、君たちの仲間の赤い戦車について知ってる事を教えて欲しかったから」


「そう言う事か……それなら、まずチィコの事。チィコは小さい頃から、動物が大好きなの。犬や猫に始まってウサギとかカメとかインコとか、とにかくいっぱい飼ってたの」


「聞きたいのはそう言う事じゃなくて、NO,47が初見から警戒心を抱かなかって事で……」


「ちゃう! ゴリマルや!」


「えっ?」


 ケイティの言葉を遮り、満面の笑顔でチィコが叫んだ。驚いたケイティは目を丸くしたが、リンジーが苦笑いで言った。


「ごめんね、チィコは勝手に名前を付けるの……変な名前が多いけど」


「あっちがイノマン、向こうがクマタンや」


 興奮したチィコは、他の二体の名前を叫んだ。


「イノマンにクマタンって……」


 ケイティは、苦笑いした。


「最初のゴリラ……」


「ゴリマルや!」


 言い掛けたリンジーに、チィコが満面の笑顔を向けた。


「あっ、そうねゴリマルね……それは、チィコ自身に警戒心や敵対心が全く無かったからじゃないかしら。あるのは、出会えた事に対する大きな喜びや楽しさ……見て、チィコの笑顔」


 リンジーに促されて見たチィコの満面の笑顔は、疑心を抱くケイティの心さえ優しく暖かく包んだ。


「ボクが苦労して……あっと、ゴリマルだっけ、繋ごうとした信頼関係って言うか絆は、そんなに簡単に築けたのかな……」


「そうね……まず、相手を好きになる事からだと思うよ」


 俯いたケイティは、目から鱗が落ちる気分だった。そして、リンジーの言葉が、優しく寄り添った。


 周囲は暖かい何かに包まれたが、リンジーは今度は真剣な顔で言った。


「次はマリーね。あの赤い戦車はマリーって言うの。本人がそう言ってるの」


「本人?」


 当然、ケイティは怪訝な顔をした。


「自律思考戦闘システムって知ってるよね?」


「あの戦車に搭載されてるの?!」


 リンジーの問いに、ケイティは飛び上った。


「そんな単純なモノじゃない……マリーには”心”があるの」


 どうして、初対面のケイティに何故そこまで話すのか? リンジー自身も分からなかった。


「心……」


 多くの戦闘データを見て来たケイティの脳裏に、一筋の光明が見えた。


_____________



 無言で疾走するマリーに、違和感を感じたヴィットが話し掛けた。


「どうしたマリー? 何か気になる事でも?」


 記憶を無くす以前のマリーなら、かなり取り乱してたと予想出来るが、今は取り乱すと言うより怒っている様に感じたから……。


「……何か変なの……胸の奥が熱いって言うか……これって、何なのかな……ヴィットやリンジー達、ゲルンハルトさん達やおじいちゃん達、他にもTD達とは出会って間もないのに……なんか、こう無性に苛立つの……」


「俺が拉致されたら、助けに来てくれる?」


 声を沈ませるマリーに、ヴィットは明るく言った。


「当たり前じゃない!」


 マリーは声を荒げた。


「そっか……で、聞きたいんだけど」


「何?」


 落ち着いたヴィットの声で、少しマリーも声を落とした。


「この先で、大量の敵戦車に遭遇したらどうする?」


「そんなの撃破するに決まってるじゃない!」


 ヴィットの問いに、マリーは即答した。


「敵に死傷者が出るね……」


 ヴィットは、わざと声を低くした。


「ダメよそんなの!」


 マリーはまた即答した。


「それなら、どうするの?」


 ヴィットは、少し笑って言った。


「敵戦車の火力と行動力だけを奪うの! 乗員は無傷のままで!」


 マリーが声を上げると、ヴィットは大声を被せた。


「そうだよ! それでこそマリーだっ!!」


「えっ?」


 唖然とするマリーに、ヴィットは笑顔を向けた。


「さあ、マリー。リンジー達を助けるぞ」


「えっ、あっ、うん」


 ヴィットの笑顔は、マリーの揺れる気持ちを穏やかに包み込んだ。だが、最初の疑問……知り合ったばかりなのに何故? と、言う気持ちはマリーの中で微かに揺れていた。


______________



「しっかし、凄げえ加速だな……」


 マリーを見送ったイワンが呟くが、オットーはゲルンハルトに視線を送った。


「嬢ちゃん達の戦車は、ワシ等が町に回送する。お主達は後を追うのじゃ」


「追うってマリーの痕跡なんて見えないぞ」


 直ぐにイワンが言うが、TDが装置を取り出した。


「これは簡易方向指示器だ。ヴィットに発信機を預けてるので、大体の方角は分かるはずだ」


「それを先に言え!」


 ハンスはシュワルツティーガーに飛び乗ると、乱暴にエンジンを始動した。


「爺さん達は、回送した後どうする?」


「もう一つ指示器はある。後で、追うのじゃ」


 ゲルンハルトの問いに、オットーは親指を立てた。


「先に行く。ハンス! 全速だ!」


 コマンダーズハッチから、ゲルンハルトが指示を出すと、ハンスは思い切りアクセルを踏み込んだ。


「俺たちは?」


「まあ、留守番だな……てか、お前いたのか!?」


 横で呆然と呟くコンラートに、驚いたTDが飛び上った。


「……最初からいたのに……」


 コンラートは涙に咽た。


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