表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第四章 姉妹
163/172

真珠の耳飾りの少女

 村に到着したのは、次の日の夕方だった。村は山間部にあり、深い森林に囲まれた風光明媚な場所だった。


 また、村と森林の間には広い牧草地があり、壮大な山々は頂に冠雪を有して、緑と白のコントラストが夕暮れのオレンジと相まって、絵画の様な美しさだった。


 しかし、ヴィットは森林の深さを懸念した。深い森ではマリー以外では行動が制限され、捜索や戦闘は困難を予想させた。


 出迎えた村長は想像より若く、40代後半ぐらいで整った顔立ちと無精髭が更に若く見せていた。


「お待ちしてました。村長のデーラーです」


 デーラーは歩み寄ると、ゲルンハルトと握手した。


「宜しく」


 握手を交わすと、デーラーは漆黒のシュワルツティーガー見ながら笑顔を向ける。


「まさか高名なティーガーⅠで来られるとは、もう安心です……それで、あの見た事もない戦車は?」


 今度はサルテンバに視線を向けたデーラーに、リンジーが簡単に紹介した。


「父が開発したプロトタイプなので量産はされてませが、自動装填システムを採用した2名乗車の新型です」


「あなた達二人で動かすのですか?」


 驚くデーラーは、リンジーとチィコに目を見開いた。


「そうやで、ウチが操縦でリンジーが車長と砲手や」


「そうですか、うちの娘と同じ位なのに……」


 幼く見えるチィコや細くて小柄なリンジーを見返し、デーラーは目を伏せた。ヴィットは次は自分の紹介の番だと前に出ようとするが、今度はオットーの方に向かうデーラーだった。


「まさに、歴戦の勇者ですね。弾痕さえ、風格がありますね」


 確かにマチルダには歴戦の貫禄はあり、言動や行動を知らなければ、枯れ果ててクタびれたオットー達の容姿も頼もしく? 見える? かもしれない……。


「マチルダとは新兵の時からの付き合いじゃ。経験と実践に裏付された、正に鋼鉄の手足。例え旧式でも、動かす者次第では最新型にも引けは取らないのじゃ」


 ワザとなのか、オットーは凛とした威厳のある声で言った。


「なるほど……正に、こちらのチームの精神的主柱なのですね……更に、あらゆる事態を想定したサポート態勢も万全と言う事ですね」


 大いに納得したデーラーは、TDの装甲車に積まれた無数の資材に目を移して頷いた。


 そして、今度こそはとヴィットが前に出るが、先を越してデーラーは首を捻った。


「……失礼ですが、あの装甲車は……丸くて赤くて、趣はありますが……まあ、何と申し上げればよいのか……」


「例えば、何に見えますか?」


 デーラーの言葉は肯定的に聞こえ、嬉しそうにマリーが聞いた。勿論、マリーは褒められる事を想定し、デーラーは勿論、マリーが話したんじゃなくてリンジーかチィコの声だと思った。


「……そうですね……赤いタコ、とかですかね」


「……タ、コ……」


 少し考え、デーラーは笑顔で言った。マリーは輝度を増しワナワナと震えた。


「マリー、押さえろ……クライアントだぞ」


 苦笑いのヴィットは小声で制するが、マリーも小さな声で言い返した。


「撃っていい? 当てないから、撃っていい?」


「頼むからやめて、お願いだから撃たないで……」


 思わずマリーに抱き付いたヴィットは、大汗を流しながら懇願した。だが、そんなやり取りには気付かず、デーラーはゲルンハルトの方に向き直った。


「それではリーダー、詳しくは私の家で」


「いいえ、私はリーダーではない」


 薄笑みを浮かべたゲルンハルトが否定すると、デーラーはオットーの方を見た。


「とするとリーダーは、あの立派なご老人ですか?」


「ワシではない。リーダーは、その少年じゃ」


 キラリと眼鏡を光らせ、オットーはヴィットを指した。


「この少年? この子は見習いか何かかと……」


「ヴィットです。そして、こっちはマリーです」


 戸惑うデーラーにヴィットは明るく挨拶した後、マリーを紹介した。


「こんにちはデーラーさん。最強戦車のマリーです」


「へっ?……」


 今度は確実にマリーから可愛い声がして、デーラーは目を点にした。


__________



「先程は、大変失礼しました」


 家に着いてリビングに通さると、デーラーは深々とヴィットに頭を下げた。村の中でひと際大きなログハウスが、デーラーの家だった。


「いえ、俺はリーダーなどではありませんよ。だだ、戦力として最強なのはマリーのおかげなんです」


「正直、驚きました……話す戦車なんて」


 笑顔のヴィットにデーラーは恐縮するが、マリーの存在は現実を目の前にしても驚愕でしかなかった。


「マリーはな、最強の戦車なんや、空も飛べるんやで」


「そんな、バカな……戦車が飛ぶなんて」


 嬉しそうに言うチィコを見ながら、デーラーは唖然と呟いた。


「装甲はどんな砲撃にも耐え、火力はロケット榴弾や対空レーザー、自動車よりも速く走り、水上及び水中戦闘、勿論空中戦も可能です」


「そして、マリーは意志を持っています」


 そして、マリーの性能をリンジーは簡潔に説明し、ヴィットはその根源を補足した。


「とても簡単には信じられませんが……」


 だが、デーラーの脳裏には明るいマリーの声が浮かんだ。


「それでは、現在の状況をお願いします」


「ここ数日、目撃情報はありません……ですが依頼時にお話した通り、現在も被害は続いています。頻繁な被害ではありませんが、やはり魔獣となると……人的被害も懸念されますし、村を出て行く者も出始めました」


 ヴィットは話を本題に移し、デーラーは現状を報告した。


「そうですか……実は昨日、魔獣と遭遇、交戦しました。依頼の情報通り、機銃や砲撃でも倒せませんでした。ただ、村までかなり距離があったので、違和感を感じますね」


「確かにそうね。村で食料を調達出来るのに、あんなに遠くまで来る必要性はないと思うわ……それとも、他に何か理由があるのかしら?」


 ヴィットは昨日の事を話すが、リンジーも胸のモヤモヤを感じていた。


「偵察に来たのかもな」


 ゲルンハルトはヴィットに視線を向けた。


「そうですね……村が応援を呼んでる事を知ったからですかね」


「ちょっと待って下さい。話が見えないのですが?」


 頷くヴィットに、デーラーは顔を曇らせた。ヴィットは、昨日皆で話し合った魔獣に対する見解を話した。


「確かに、それなら辻褄は合いますね……それで、対策は?」


「今晩から交代で見張りに立ちます。策は、これから考える、と言う事で」


「分かりました。宜しくお願いします」


 落ち着いたヴィットの言葉を受け、デーラーは静かに頷いた。


__________



 他の皆はデーラーの家で宿泊する事に決まり、最初の見張りの為に準備するヴィットに少女が話し掛けた。


「これ、あなたの戦車?」


 年恰好はリンジーと同じ位だが、薄いブラウンの髪を肩で切添え、同じく濃いブラウンの愁いを帯びた大きな瞳、濡れた様な小さな唇、胸元の開いた服が自然の色香を漂わせたいた。


 そして、耳元には真珠の耳飾り……リンジーには無縁の艶やかさに、ヴィットは少しドキッとした。


「俺の”モノ”じゃない。家族だ」


 ヴィットは目を逸らして言った。


「こんばんは、最強戦車のマリーです」


「私はマーリア」


 少女はマーリアと名乗り、普通にマリーと挨拶した。


「驚かないね」


「ええ」


 初めてマリーに会って驚かなったのは、リンジーとチィコ、そしてオットー位だったからヴィットは意外な感覚に包まれた。そして、驚かなった者に共通するのは、よく言えば大らか、悪く言えば変わり者だと言う事だった。


 後ろ手でマリーの周囲を回るマーリアを横目で追うヴィットだっが、風に運ばれマーリアの良い香りに鼻孔が膨らんだ。


「ヴィット、顔が変」


「なっ、何を」


 マリーに指摘され、慌てたヴィットは赤面した。


「中、見せて貰ってもいいかな?」


 マーリアは、直接マリーに言った。


「いいけど……」


 身軽にマリーに乗ったマーリアを、ヴィットは唖然と見てるしかなかった。そして、少しの違和感……ヴィットと飛び越して、直接マリーと話したマーリアの様子はヴィットに不思議な感覚を抱かせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ