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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第四章 姉妹
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機械の魔獣

「仕事内容じゃが、ある村からの調査の依頼じゃ」


 ヴィットとリンジーが戻ると直ぐに、オットーは笑みを浮かべた。


「まだ、やるって言ってないけど」


「何言ってるの」


 照れ隠しにヴィットは苦笑いするが、リンジーは肩をぶつけて笑った。


「今の、俺ならスパナが飛んできてたぞ」


 驚くイワンだったが、次の瞬間にスパナが顔面にメリ込んだ。


「ご要望にお答えして」


 リンジーは笑顔だが、横に居たハンスとヨハンは顔面蒼白になった。


「それでは、気を取り直してじゃな。調査の内容は、村に出没する怪物の正体をじゃな……」


「今、怪物って言った?」


 オットーの言葉に青くなったヴィットが聞き返すが、オットーは平然と答えた。


「多分、怪物じゃが、オバケかもしれん」


「オバケっ!?」


 今度はマリーが声を裏返した。


「オバケ怖いんか?」


「……ちょっと」


 目をテンにしたチィコが聞くと、マリーは小さな声で答えた。


「虫とオバケが弱点の最強戦車か……」


 気の抜けた様に、ゲルンハルトは呟いた。


「オバケや怪物なんか、リンジーと比べたら……ゴワッ!!」


 起き上がったイワンの顔に、今度はシュワルツティーガーの予備履帯が炸裂した。


「あれ、一コマ30KGあるぞ……」


「片手で投げたね……」


 ハンスが冷や汗を流し、ヨハンは平然と言った。


「そんじゃ、続きを……その村では頻繁に家畜が襲われるのでじゃ、夜中に見張っておると……そ奴は現れたのじゃ」


 一同はオットーに刮目し、コホンと咳をしてオットーは続けた。


「何と、見た目はゴリラの様でもあり、クマみたいでもあり、猪かもしれんと言う事じゃ」


「何、それ? ただの動物じゃん」


 苦笑いのヴィットだったが、今度はポールマンが汗を拭きながら補足した。


「それが、なんと通常の三倍以上の大きさじゃったそうじゃ」


 ”通常の三倍”ってとこに、ヨハンがピクッとするが、真顔のハンスが腕を掴んで押さえた。


「それで、その変な動物を見付けて退治? それとも捕獲?」


 ヴィットは少し安堵しながら言った。化け物やオバケは嫌だが、動物なら怖くはないとココロで呟きながら。


「退治と言っても、簡単じゃないのじゃ」


 オットーがキラリと眼鏡を光らせると、またポールマンが補足した。


「散弾や小銃弾は軽く跳ね返し、唯一村にあった軽戦車の37ミリ砲弾でさえ弾き返したそうじゃ」


「装甲ゴリラ? 装甲クマなのか? 或いは装甲猪?」


 自分で言って、訳の分からないヴィットだった。


「ともあれ、軽戦車でも倒せんと言う事じゃ」


 葉巻を燻らせ、キュルシナーが平然と言うと、髭をクルクルしながらベルガーがキラリと目を光らせた。


「手榴弾や擲弾筒も効かんやった、と言う事じゃ」


「ヴィット~」


 マリーは情けない声で、ヴィットのズボンをアームで引っ張った。


「大丈夫だよ。銃砲弾が効かないって事は、生物じゃないかもしれないよ」


 そう言いながら、ヴィットの脳裏には難敵ケンタウロスの姿が浮かんだ。だが、マリーを心配させないように、声は穏やかだった。


「本当……」


「ああ、本当だよ。マリーの火力なら、一撃で撃破だよ」


「そうなら、いいげど……」


「ヴィットの言う通り。銃弾や戦車砲を弾き返す生き物なんて存在しないよ……マリーは最強戦車なんでしょ?」


 マリーの車体を優しく撫ぜながら、リンジーは微笑んだ。


「そやで、ウチも本当は怖いけど、マリーが一緒なら平気や」


 チィコもマリーの車体に抱き付いて笑った。


「うん、そうだね。そうだよね」


 やっと元気が出たマリーの声は少し弾んで、ヴィットも笑顔になった。


「それじゃ、先方に連絡しようかのぅ」


「俺達も行くの?」


 オットーの言葉に、イワンが泣きそうな顔をした。


「なんや、おっちゃん。オバケが怖いん?」


 山賊みたいに厳ついイワンの顔を、嬉しそうにチィコが覗き込んだ。


「……少し」


 イワンは、ボソッとチィコだけに聞こえる様に言った。


__________



 マリーだけなら一日で着く距離だが、快速のサルテンバは良いとしても、重戦車のシュワルツティーガーと、超鈍足のマチルダとTDの装甲車(資材を積みすぎ)が居ては移動の時間は掛かる。


 一日目の野営は、海岸に近い平原にした。もう少し、距離を稼ぎたかったが森に入ると虫が多くなるので、手前に決定した。


 焚火を囲みながら、ヴィットはTDに聞いた。


「どう思う?」


「例えば獣に鎧の様な物を着せれば、小銃弾くらいなら防げるだろう。だが、小口径とは言え戦車砲だ。貫通しなくても、生物なら衝撃で内臓や骨は砕けるだろうな」


「そうだよね」


 頷くヴィットも同じ考えだった。


「そこは、やはり精霊とか妖精とかの部類かもしれないな」


 偉そうに頓珍漢な事を宣うコンラートに、チィコが唖然と言った。


「アンタ、来てたんか?」


「出発の時に会ったろ!」


 声を上げるコンラートだっが、イワンも不思議そうに言った。


「えっと、コンクリートだったか? 居たっけ、初めから?」


「誰がコンクリートだ……私は建築資材か」


 泣きそうな顔でコンラートは呟くが、リンジーの一言で地面に突き刺さった。


「イワン、失礼よ。コンロッドだよ」


 そして、夜……ヴィットはマリーの横で寝た。


「ヴィット、寒くない?」


「大丈夫、今日は暖かいよ」


 優しいマリーの声で、毛布に包まるヴィットの心まで温かくなった。だが、暫くするとマリーは急に真剣な声で言った。


「動態レーダーに感。距離、南に2KMだよ」


 ヴィットはマリーに飛び乗ると、モニターを確認する。直ぐに赤外線映像に切り替えると、海岸付近に怪しい影が映った。


「マリー拡大」


「了解」


 最大望遠で見たソレは、人の形だった。だが、全身は太い体毛で覆われ赤外線を反射する鋭い目と牙がヴィットの背筋を凍らせた。


「ヴィット~」


「皆を起こして! 戦車内に退避させるんだ」


 情けない声を出すマリーに、ヴィットは凛とした声で言った。その声は、マリーを勇気付け、元気に返事した。


「分かった」


 マリーの声で、全員が戦車内に退避すると。ヴィットとマリーが威力偵察出た。


「ライトは点けないで、静穏で近付くぞ。出来れば鮮明な映像を撮りたい」


「了解」


 マリーはエンジン音を絞る。すると、無音では無いが波の音に掻き消えそうな位に静かになった。


 だが、ソイツはマリーが移動を始め半分ほど距離を詰めると、直ぐに海岸沿いを逃亡した。


「何て速さだ! マリー静穏解除! 全力で追うぞ!」


「えっ、はい!」


 ヴィットはアクセルを踏み込む! 六輪が爆煙を放ち地面を蹴った! シートに押し付けられる強烈な加速! だが、ソイツの加速もマリーに引けは取らなかった。


「逃げられる! 飛んで映像は撮れるか!?」


「多分、無理! アイツが速すぎる!」


「仕方ない! 飛んで機銃が効くか試すぞ!」


「了解!」


 マリーは底面ロケット噴射! 大空に舞い上がりソイツを追った。飛べば地上を走るモノなど止まってるの同じで、急降下でマリーは機銃弾を浴びせた。


 だが、火花を散らし、ソイツは機銃弾を跳ね返した。


「もう一撃!」


 反転したマリーは、今度はロケット榴弾を叩き込む! 爆発と爆煙! 轟音が周囲に響き渡るが、煙が晴れた時にはソイツの姿は無かった。


 着陸すると、ヴィットは頭を振って、意識を強引に引き戻す。視界が安定するまで、少し掛かったが、目を擦りながら言った。


「どうだった?」


「機銃は効かなかった。ロケット榴弾を撃ったけど、何処かに消えちゃった」


「そうなんだ……映像は撮れた?」


「出してみる」


 マリーは録画した映像を正面モニターに出す。鮮明ではなかったが、確かにそこには映っていた……類人猿の様な姿と、機銃弾によって剝がされた毛皮の間に鈍く光る、金属の様なモノが。


__________



 交代でマリーの車内に入り、モニターで確認した。


「確かに金属の様に見えた」


「機銃弾を跳ね返したんだ。生身であるはずはないな」


 剥がされた箇所の映像を頭に浮かべながらTDが呟くと、ゲルンハルトも頷いた。


「不整地でもマリーなら、100KM以上出る。ただ、奴はそれ以上に速かった」


 ヴィットが補足すると、リンジーが腕組みで言った。


「四つ足で走ってた……形状は類人猿だけど、そんなに速く走れる獣っている?」


「チーターみたいな形状ならマリー位は出るが、類人猿では無理だよ」


 TDは眉間に皺を寄せて言った。


「結論から言うと、生身では無いのぅ。あれは、人工物じゃ……じゃが、機械が家畜を襲う訳が分からん」


「そうだね。そこが謎だ」


 オットーの結論に頷くヴィットだが、確かに訳は分からなかった。


「アイツを動かしよる人が、食べるんとちゃう?」


「えっ?……」


 ヴィットはチィコの言葉に、ドキッとした。


「チィコ天才。そうだよ、それなら説明が付く。あれは、機械で操縦者がいる、家畜は彼らの食料として襲ったんだよ」


「そうとしか、考えられないな」


 リンジーの言葉に、ゲルンハルトも頷いた。


「すると、何だ。どっかのコソ泥が獣型ロボットを作って、メシを盗んでやがるって事か?」


「でも、あれだけのモノを作るって……」


 イワンの言葉は、ヴィットの脳裏にマリーを付け狙う組織が浮かんだ。


「とにかく、村に行くしかないようじゃな」


 オットーの言葉に、全員が頷いた。


「マリー、もう怖くないやろ」


「うん。大丈夫だよ」


 寄り添うチィコにマリーは明るい声で答えるが、ヴィットだけは深刻な顔をして、リンジーはその様子を不安そうに見ていた。

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