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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第四章 姉妹
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再始動

長い間の待期期間がありましたが、マリーとヴィット達の新しい冒険の続きを始めたいと思います。

更新頻度は遅くなるかもしれませが、よろしくお願いいたします。

「凄いね、初めてとは思えないよ!」


 高原のワインディングロード、マリーは思わず声を上げた。未舗装の低速カーブや高速カーブが幾重にも連なる難コースだが、ヴィットの操縦は完璧だった。


 加減速のメリハリやコース取り、細かいブレーキンング、何よりコーナーの先を見通す感覚は速く走る事を可能にしていた。


「加速も、ハンドリングも、ブレーキも超絶進化してる……」


 コーナーのGに踏ん張りながら、ヴィットは呟いた。


「何か言った?」


「何でもない! マリーは最高だ!」


 聞き返すマリーにヴィットは最高の笑顔で言った。


「だって、最強戦車だもん! この先の平原で射撃をやるよ! 勿論、行進間射撃だよ!」


「分かった!」


 平原には、訓練用の的がかなりの数置いてあった。


「それじゃ、ワタシが操縦するからヴィットが撃ってね」


「了解」


 ヴィットはハンドルから手を離すと、座席の右側にある射撃スティックを握った。トリガーの横には主砲と機銃、対空レーザーを瞬時に切り替えるスイッチがあり、まるで戦闘機の操縦幹だった。


 そして、マリーのFCSは格段に進歩していた。前面モニターに映し出された緑のレチクルは、ヴィットの眼球の動きに連動して、ロックオン状態で赤に変わった。


「何か、凄い当たるんだけど」


 行進間でもマリーの車体の揺れは最小限で、瞬時に簡単に照準出来た。後は、トリガーを引くだけで、砲弾は狙った場所に命中した。


「凄いヴィット! 射撃も上手いよ!」


「ははは……上手いのかな」


 前のマリーでは、トリガー自体を動かして照準を合わせていたが、それだと走りながら敵の動きに追随するには、かなり難しくて揺れる車内では一層困難だったから。


「でも、駆け出しだって言ったけど、これだけ出来るなら対空戦闘も大丈夫だね!」


「それは、どうかな……」


 苦笑いのヴィットは、慌ててシートベルトを締め直した。


「おっ、準備はいいみたいね。そんじゃ、行くよ!」


 マリーはそう言うと、底面ロケット噴射した。大空に飛び上る感覚は、ヴィットの中で懐かしくも感じたが、回転を始めるとお約束の悲鳴を上げた。


「やっぱ無理っ!!!」


 そして、遅れて平原に着いたサルテンバのハッチから顔を出したリンジーは、太陽に目を細め呟いた。


「……マリーが飛んでる……」


「せやな……でも、前より回転速いんとちゃう?」


「確かに、倍は速いが……なぁに少年は大丈夫じゃろ……多分」


 更に遅れて到着したオットーも、マチルダのハッチから顔を出し、他人事みたいに呟いた。他のじい様達は、同じように別々のハッチから顔を出して笑顔で見ていた。


「どこが大丈夫なんだ? 通信機からは、断末魔の悲鳴しか聞こえないぞ」


「ありゃ、ダメだな……遠心力で水分飛んで干物に……ぐわっ!」


 そしてまた、更に遅れて到着したシュワルツティーガーのハッチからゲルンハルトが唖然と呟き、イワンも呆れ顔で言うが飛んできた巨大スパナが顔面に直撃して沈黙した。


「ほんまに、学習しぃよ……リンジーの前でヴィットの悪口言うたら、あかんねんで」


「やだ、チイコ」


 赤くなったリンジーは、75ミリ砲弾をイワンの顔面に炸裂させた。


「何も言ってないのに……」


 ボロボロになったイワンは、泣きながら呟いた。


__________



 着陸したマリーにリンジーが駆け寄ると、ハッチが開いて湯気を出しながらヴィットがフラフラで出て来て声を枯らせた。


「これだけは……慣れない……」


「でも、気絶しなかったじゃない」


「そうや、ウ〇チも漏らしてないやんか」


 笑顔のリンジーの横で、チィコは殺生な事を言った。


「誰が、ウ〇コたれだ……」


「せやかて、ヴィット小さい頃から……」


 慌ててチィコの口を押え、少し真剣な顔でリンジーを見たヴィットは小声で言った。


「全てが高次元で進化してる」


「見た目は、そう変わってないけどエンジン出力も倍増、電気系統も三重になってるって……しかも、配線類の殆どは伝導体に銀を使い、光学繊維を使ってる場所もあるって……TDやコンラートが目を丸くしてた」


 頷きながら、リンジーも真剣な顔で呟いた。


「装甲も前より数段強固になってるのは勿論だが、足回りも別物だ」


「ロケット噴射機構も見た事もない新型に刷新されている」


「総合的に見ても、戦闘力は倍増以上だ」


「確かにな……」


 ハンスが腕組で言うとヨハンが呟き、ゲルンハルトも真剣な声で言うと、珍しくイワンが真剣な顔になった。


 皆の顔は驚きを超え、その先に行こうとするが、オットーとチィコの声に現実に引き戻された。


「そんでも、マリーちゃんの本質は何も変わっとらん」


「そうや、マリーはマリーやで!」


「……そうだな」


 ヴィットは深紅の車体を、愛おしそうに見た。


「何、何? 何の話し?」


 そして、明るいマリーの声はヴィットに勇気と元気を与えた。


「マリーが凄いって話だよ」


「そうかぁなぁ、それ程でもないんだけどなぁ」


 アームを出して、頭(砲塔)掻く仕草のマリーに、皆が笑顔になった。


「さて、慣熟走行も終わった事じゃし、そろそろ仕事の話しでも……」


「あっ、それはまだいいや」


 オットーの言葉を、反射的にヴィットは遮った。


「えー、大丈夫だよー。やろうよー、ヴィット」


「えっ、ああ、そのまだ少し慣れてないって言うか……」


 マリーの嬉しそうな声に苦笑いのヴィットだっが、急に顔色を変えたリンジーに腕を引っ張られ少し離れた丘に連れて行かれた。


 追い掛けようとするチィコの腕を優しく取ったオットーは、笑顔で言った。


「嬢ちゃんに、任せておくのじゃ」


「そやけど……」


 一瞬、眉を下げたチィコだっが、リンジーの背中を見て笑顔になった。


「そやな……」


__________



「どうしたの?……」


「どうって、何がだよ?」


 少し笑顔を見せながら言うリンジーに、顔を背けてヴィットは呟いた。


「どうして仕事を受けないの? ヴィットはタンクハンターでしょ?」


「だから、まだ慣れてないんだよ!」


 穏やかなリンジーの声に、思わずヴィットは声を荒げた。


「気持ちは分かるよ……」


 リンジーは少し声を落とした。


「分かるって……何がだよ?」


 ヴィットも同じように声を沈ませた。


「……あのね……」


「どうした? 言えよ」


 口籠るリンジーに、ヴィットはボソッと言った。暫く間を空け、リンジーは静かな声で話し出した。


「……マリーが傷付く度に、ヴィットは身を引き裂かれそうだった……と、思う……今度は再起も危ぶまれる大破って呼べるくらい大怪我で……マリーは大切な記憶まで失った……幾ら車体が綺麗に治っても……マリーを傷付けてしまったヴィットの傷は……」


「分かった事言うな!」


 大声で遮るヴィットに、リンジーはビクッとした。だが、堪える様に無理して笑顔を向けた。


「ごめんなさい……でも、これだけは言わせて」


「……何だよ?」


「マリーは”物”じゃないの……」


 その言葉は、ヴィットの胸の中の一番痛い所を突いた。無意識のうちに、マリーは大切な宝物と同義になっているかもしれない事に、衝撃を受けた。


 宝物……宝の”物”……それは、マリーはに対する冒涜だと、ヴィットは自分自身を蔑んだ。


「俺は……」


 言葉が出ないヴィットの顔を、泣きそうなリンジーが見詰めた。


「……マリーは私達にとっても掛け替えのない存在……大切な仲間……だから……」


 リンジーの声は、途中で掠れた。空はどこまでも高く、蒼かった……そして、ヴィットの耳の奥に、元気なマリーの声が蘇った。


 ”やろうよ、ヴィット”


 かなりの時間を要して、ヴィットは立ち上がった。


「そうだな、マリーの望みは……」


 振り返ると、遠く丘の向こうに赤い車体が太陽を反射していた。そのか輝きは、ヴィットの迷いや恐れを、空の彼方に吹き飛ばした。


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