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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
160/172

リセット

「マリー!!!」


 リンジーの叫びが、大空を突き抜けた。


 爆音はマリーの後からやって来る。だが、誰もが地面に激突する場面を瞬間に思う……しかし、マリーはGや重力を超越して二機のケンタウロスの直前で超急停止! 止まると同時にアームでケンタウロスの腕を掴んだ。


「行くよっ!!」


「底面ロケットは無理だぞっ!!」


 マリーはそう言うが、一体化したヴィットにはマリーの損傷は手に取る様に分かった。


「パージっ!!」


 マリーが底面ロケットを切り離すと、奥の方から新たなロケットノズルが現れた。それはエンジンに直結し、全てのエネルギーを放出するのだとヴィットは瞬間に理解した。


「エンジンがオシャカになるぞっ!!」


「壊れる前に仕留めるっ!!」


 マリーは叫び返すと、新たなロケットに点火っ! しかも、最初から最大出力で噴射した。二機のケンタウロスの車体が宙に浮き、やがてマリー加速して大空に飛び上がった。


 だが、どんなに凄い上昇中の加速でも、二機のケンタウロスは暴れまわる。残された腕でマリーの車体を激しく殴打する。掴んだマリーのアームが激しく軋み、その激痛がヴィットをブッ叩いた。


「マリー! ホイールロケット最大出力っ!!振り回すぞっ!!」


「分かったっ!!」


 マリーはホイールロケットを点火! 最大出力でブン回した。その遠心力は最強で、流石のケンタウロスを動きを止める。


「回す方は任せろっ! マリーは上がる事だけに集中しろっ!」


「了解っ!!」


 ヴィットとマリーは分担してケンタウロスを押さえ込んだ。


____________



「物凄い回転だ……大丈夫か、ヴィットの奴」


「ああ、遠心力で内蔵が……」


「マリーが付いてるんだ、心配ない」


 滝みたいな冷や汗を流したイワンが呟き、ハンスが口を滑らすがゲルンハルトが素早く話を切り替えて隣を走るサルテンバに視線を向けた。


 そこには恐怖に慄くリンジーの姿があった。最早、心配するチィコの声さえ届かず、瞳孔は開き気味だった。


 そして、本能がリンジーの精神を崩壊させようとする……だが、物凄い勢いで回転する深紅の車体はリンジーを現実に押し止める。


 走馬灯……また、リンジーの脳裏を笑顔のヴィットが横切る……ヴィットは笑顔で何か言っているが、リンジーには聞こえなかった。


 体が震え出す……膝が全身を支えられない……リンジーは必死でハッチにしがみ付いて空を見上げた。


『何で上昇する!? 上から落とすのかっ!!?』


 通信機から、ミネルバの怒鳴り声が響き渡った。一度でリンジーは気付かず、何度か目かのスピーカーが爆発しそうな超怒号で、やっとリンジーは我に返った。


「えっ?……分からない」


『お前の専門だろっ! 素人のアタシでも分かる! 空から落とした位で、あの化け物が壊せるはずはないだろ!? 意図は他にあるはずだっ!! いいいから考えろ!!』


 確かにミネルバの言う通り、前より更に頑丈になったケンタウロス……落とすにしても、あんなに上がる必要があるのか? あのままじゃ成層圏まで……。


 そこまで思考すると、リンジーの心臓に恐怖が激突した。物凄い数の最悪の事態が、頭の中で洪水みたいに氾濫した。


『通信は聞いた。ケンタウロスに爆発物があるんじゃないか!? それも、我々を巻き込む凄まじいヤツが……』


『爆発物の可能性はある……だが、あの車体規模だ……我々を巻き込む規模の爆発を起こせるかは疑問だ……可能性があるとすれば……』


 ゲルンハルトが通信に割り込み、ヨハンが冷静に分析した。ヨハンの言葉の余韻が、リンジーの思考を結実させた。


「広い戦場の人を殺傷するなら……多分……化学兵器の類……」


『毒ガスか?……』


 ミネルバの声は震えていた。


『完全密閉の戦車なんて限られてる……特にタンクハンター達のオンボロじゃ、直ぐにガスに犯される』


 冷静なヨハンの声さえ震えていた。


____________



「どこまで上がる!?」


「散布しても安全な成層圏は極地で8000m、赤道付近で17000m!最低でも10000m以上は上がるよ!」


「よし、10000を越えた! もう直ぐ……」


 ヴィットが言った瞬間、マリーは巨大な二個の火球に包まれた。


____________



 ヴィットは静かな空間に漂っていた。目を開くと、足元には輝く”地球”が浮かんでいた。


「ここは?……」


「狭間だよ……思考と現実の……」


 振り向くと、輝く青い髪が光を乱反射し、吸い込まれそうな緑の瞳と、小さな赤い唇の少女が泣きそうな顔で立っていた。


「そうか……成功したんだ」


「……うん」


 穏やかな笑顔でヴィットが言うが、マリーの声は悲しく沈んでいた。


「そんな顔するなよ、覚悟は出来てるから」


 精一杯の明るい声で、ヴィットはマリーに囁いた。


「……簡単に言わないで」


「えっ?……でもさ、俺……」


 急にマリーは怒った顔でヴィットを見据えた。驚いたヴィットは思わず口籠る……。


「ワタシはリンジーと約束したの! ヴィットを必ず守るって!」


 声を上げるマリーの瞳からは涙が溢れた。


「でもさ、リンジー達も他の皆も守ったんだよ……俺達……だから、もういいんだよ……マリーのせいじゃ……」


「だから簡単に言わないで!!」


 ヴィットの言葉を遮り、マリーは泣き叫んだ。


「俺は……」


 ヴィットは俯いた。


「……皆、ヴィットの帰りを待ってる……」


「分かって……る」


 悲しそうなマリーの前で、ヴィットは俯いたままポツリと言った。


「分かってない……」


 マリーの声は、深く空間に沈んだ。


「……」


 ヴィットは言葉が出なかった。


「リンジーがどんな気持ちで、ヴィットを待っているか……ヴィットは知らない。知ってたら、言えるはずなんかない……ワタシは人を守る為に生まれた……でも、今はヴィットを守るって決めたの……」


 マリーの言葉は途中で空間に吸い込まれた。ヴィットはその言葉の先を聞くのが、何故かとても怖かった。暫くの沈黙の後、マリーは無理に微笑んだ。


「だから、決めたの」


「決めたって、何を?」


 マリーの笑顔は、ヴィットの胸に突き刺さった。


「リセットするの……ワタシは全てを忘れるけど……ヴィットはリンジーの元に帰れる」


「マリー……何言ってるんだ?……」


 ヴィットの全身を震えが駆け抜ける……そして、次の瞬間! マリーは地上に向けて落ちて行った。


「マリー!!」


 ヴィットは元の体に戻っていた。猛烈に揺れる車体と轟音! 全てのモニターは沈黙し、ただ一つ点灯した赤い非常灯だけの世界。そこは確かにマリーの車内だが、猛烈な違和感だけが存在していた。


 だが、地上に激突する僅か手前、猛烈なショックでヴィットをシートベルトに食い込ませた。


『大丈夫?』


「マリーがっ!!」


 ミリーの声は一瞬ヴィットを救うが、状況はヴィットを混乱させるだけだった。


『もう、マリーたら重いっ!! あっ、ワタシもアーム付けたんだよ。それで、マリーを持ち上げてるの。状況は理解出来た?』


「分かる訳ないだろ! マリーはどうしたんだ?!!」


『あなたを戻すため、マリーは全てをリセットしたの。それに、根本的に修理が必要だから連れて帰るね』


「待ってくれ、マリーはどうなるんだっ!!」


『安心して、元通りになるから……でも、あなたと過ごした記憶は失われる……』


「そんな……」


『大丈夫だよ……あなたが、マリーを忘れなければ……じゃあ、またね』


 ミリーがそう言うと、ヴィットは大空にペイルアウトされた。


「マリー!!!!」


 パラシュートはゆっくり地上に降下して行く……ヴィットは力の限り、飛び去るマリーとミリーに向けて叫んだ。


____________



 リンジー達が駆け付けると、ヴィットは地面に突っ伏せていた。


「ヴィット! 怪我したの!?」


 リンジーが泣きながら駆け付けると、ヴィットは曖昧な笑顔で首を振った。


「マリーは?……」


「ミリーが連れて帰った……根本的な修理が必要なんだってさ」


 立ち上がったヴィットは、服の埃を叩きながら言った。


「敵は撤退した」


「そうですか」


 やって来たゲルンハルトの言葉を受け、ヴィットは力無く笑った。


「なあ、マリー何時帰ってくるんや?」


 眉を下げるチィコの頭を撫ぜ、ヴィットは優しく言った。


「直ぐに帰ってくるよ」


「ほんま?」


「ああ……」


 無理して笑ったヴィットの横顔は、リンジーの胸の中を搔き乱すが、敢えて言葉を飲み込むリンジーだった。


「下がれ! 着陸するぞ!」


 イワンが叫ぶと、至近の草原に輸送機が強行着陸した。ハッチが開くと、タチアナが飛び出して来た。


「どうなったの!?」


「終わったよ……さあ、仕事を遂行しよう。リンジー、タチアナと俺を乗せてくれ」


「分かった」


 ヴィットは穏やかに笑い、リンジーは少し俯き加減でハッチを開いた。


「マリーは、マリーはどうしたの?」


「修理に戻った」


 焦るタチアナだったが、背中を向けたヴィットは小さな声で、それだけを答えた。


____________



「状況は失敗しました。成層圏で化学兵器は無効化されました……アンタレスの行方は不明です」


「そうか……また、次だな……」


 白衣の男の報告を背中で聞いた男は、強く拳を握りしめながら暗い窓の外を睨んだ。


____________



 ロマノヴィ家の屋敷までの道中に、既に妨害や攻撃はなかった。ただ、全員が黙り込み、サルテンバの車内は息が詰まる様な感じだった。


 ただ、ミネルバやリーデル、ハイデマンやカリウス達からひっきりなしに通信が入り、ヴィットはその度に戦いの結末や状況、マリーの事を順をおって丁寧に話した。


 リンジーは叫びたい衝動を必死に我慢した。普通ならヴィットは誰が何と言っても、どんなに困難でもマリーの修理に付いて行くと思っていた。


 それが、他人事みたいに……。聞きたい、聞きたくない、そんな思いがリンジーを激しく圧迫し続けた。


 そして、一行は屋敷に到着した。サルテンバやシュワルツティガーを先頭に、数十輌の戦車と共に。


 使用人と思われる人達は、他のタンクハンターに忙しく報酬を支払いながら、急いで追い払おうとしている様に見えた。


 カリウス達は、到着と同時に報酬は後日と言い残し、直ぐにその場を去った。屋敷に入ったのはゲルンハルト達と、チィコにリンジー、ミネルバとヴィットだけだった。


 見た事も無い貴族の邸宅。大広間に通されると、豪華なご馳走が湯気を立てていた。


「話には聞いてたが、物凄いな……」


「ああ、豚の丸焼きなんて想像を超えてる……」


「しかし、気後れするな……」


 イワンは目を丸くし、ハンスも口をあんぐりと開け、ゲルンハルトでさえ後ずさった。


「でも、もう食ってる……」


 ヨハンが指さす方向には、鳥の丸焼きを頭に乗せたチィコが食べ物の突進していた……そして、その横では……オットー達がワインをラッパ飲みしながら豪快に騒いでいた。


「何処から湧いた……」


 目をテンにするゲルンハルトの横では、腕組みしたミネルバがヴィットに囁いた。


「お姫様は何処に行った?」


「さあ、とにかく仕事は完遂した」


 ヴィットは辺りを見回した。そして、荘厳な扉が開くと穏やかそうな老人が、数人の召使を従え、出て来た。顔中の白い髭と優しそうな眼には何故か見覚えがある気がした。


「私が当主のロマノヴィです……ヴィットだね」


「そうですけど」


 ロマノヴィは、慈しむ様にヴィットを見た。


「目元がエリザベータに似てる……」


「エリザベータ? 誰です?」


「君の母親……エリーだ」


 首を傾げるヴィットに、ロマノヴィは優しく微笑んだ。


「母さん?」


「そう、エリザベータは私の娘だ……私は君の祖父なのだよ」


「爺ちゃん?」


「ああ、そうだ……」


「母さんは孤児だと聞いていた」


 ヴィットは混乱するが、確かにロマノヴィには母の面影が見え隠れしていた。


「私の護衛じゃなくて、あんたをお爺様の所に連れて来るのが本当の依頼よ」


 ドアの向こうから、タチアナが出て来た。そして、ロマノヴィがエリザベータやヴィットを探し続けた事、ロマノヴィの仕事など一気に説明した。


 そして、腰に手を当てたタチアナが薄笑みを浮かべて言った。


「あんたは、ロマノヴィの御曹司……この家も財産も、全てあんたの物」


 ”武器商人”と言う言葉が、傍で聞いていたリンジーを揺らした。そして、ヴィットは拒絶すると思った。


 だが、ヴィットは顔色一つ変えなかった。


「ヴィット……」


 情けない顔で肩を揺らしたリンジーは、ヴィットが穏やかに微笑んでいるのを見て驚きと不安に包まれた。


「そうか……俺は一人ぼっちじゃなかったんだ。爺ちゃんもいるし、タチアナ、お前は従妹なのか?」


「ええ、そうよ」


「そうか、よかった」


 笑顔で頷くヴィットだったが、タチアナが従妹だと言う事実が追い詰められたリンジーを救った。ゲルンハルト達も全てを理解し、安堵に近い溜息を漏らした……当然、オットー達は豪快に酒宴を続けていた、が。


「何がよかったのよ?」


「親戚がいるって事さ」


 ムッするタチアナにヴィットは笑顔を向けた。


「とにかく、これからはお爺様と暮らすのよ」


「待ちなさいタチアナ、ヴィットにも心の準備と言うものがある。返事を急がせてはならない」


 言い放つタチアナを、ロマノヴィは困った様な顔で制した。


「ごめんね、爺ちゃん……今はまだ、帰れないんだ。俺には絶対やらないといけない事があるんだ……でも、たまには里帰りするから」


「そうか……」


 ロマノヴィは元気なく俯くが、ヴィットは駆け寄ってロマノヴィを抱き締めた。


「探してくれてありがとう、俺……爺ちゃんが、いてくれるだけで幸せだよ」


「ヴィット、すまなかった……」


 抱き締められたロマノヴィは、強く抱き返して涙を流した。


「やらないと行けない事って、何なの? お爺様はあんたの為だけじゃなく、全従業員や、その家族の為に事業を頑張ってるのよ! 確かに、あんたやマリーは……嫌な仕事かもしれないけど……あんたには、責任があるのよ。近頃は異常気象も収まって来たし、事業は拡大しなくても十分に需要が……」


「ウチらが、やったんやで!」


 タチアナの言葉を途中で遮ったチィコは、油でベトベトになった顔で叫んだ。


「何よ、どう言う事?」


「ウチらがな、ロケットをな、ボワーンと上げてな、何とか言う奴をやっつけたんや!」


「意味が分からない」


 満面の笑顔でチィコが説明するが、あまりの語彙の少なさにタチアナは閉口した。


「説明します……」


 そんなチィコを笑顔で制し、リンジーはオアシス都市バンスハルの事件を簡潔だが、誰もが理解しやすく話した。


「そんな、まさか……」


「まあ、殆どマリーの手柄だけどな」


 唖然とするタチアナだったが、ヴィットは照れた様に頭を掻いた。


「ヴィット……君を誇りに思う」


「だから、マリーだって。リンジー、マリーの事も説明してくれ」


 頭をたれ感動するロマノヴィだったが、ヴィットは更に照れてリンジーに助けを求めた。直ぐにリンジーが、笑顔でマリーの説明をした。


 そして、一旦時間を置くことになったヴィット達は屋敷を出る事にしたが、玄関付近でブルダが待っていた。


「御曹司、警備隊長のブルダです」


「タチアナが呼んだ援軍の人ですね……申し訳ありませんでした」


 頭を下げるヴィットに、ブルダは困惑した。


「頭をお上げください。我々はロマノヴィ家の私兵です、御曹司が謝れる事など微塵もありません」


「武器を持って襲って来る敵に、話し合いは通用しないことは俺でも分かります。でも、俺もマリーも誰も死なせたくないんです……味方も敵も……」


 ヴィットの言葉にブルダは、ハッとした。


「でも、あのマリーが量産されれば……」


「それは、無理ですね。マリーは唯一無二ですから……それに、マリーには”心”がありますから”良心”と言う心が……マリーは”兵器”ではないんですよ」


「なら、マリーって一体何なのですか?」


「家族ですよ、俺の」


 ヴィットはそう言って背中を向けた。唖然と見送るブルダに、隣で黙って聞いていたチィコが振り向くと”ベー”っと舌を出し、リンジーはキチンと一礼した。


____________



「ねぇ、これからどうするの?」


「タンクヒルに帰る」


 帰り道、リンジーの質問にヴィットは風を受けながら明るく答えた。


「それで、マリーを待つんやな!」


 運転席から振り返ったチィコが、笑顔で叫んだ。


「ああ、そうだよ」


「別れ際、マリーは何て言ったの?」


「マリーは……喋れなくて、代わりにミリーが言ったんだ……”またね”って」


「そうなんだ……」


 ヴィットが大人に見えたのは、きっとマリーのせいだとリンジーは笑顔になった。そして、もう一つ気になった事を、勇気を出して聞いてみた。


「お爺さんの仕事……」


「そうだな……戦いの無い世界を作って、総合商社にでも鞍替えするさ」


「そっか」


 リンジーは風に金髪をナビカセ、大空に笑顔を投げた。


「ソーゴー何とかって何や?」


 ポカンとするチィコに、ヴィットも笑顔で言った。


「幸せを売る会社だよ」


「そうなんや……でも、何か忘れてる様なんやけど……」


「何? 何も忘れてないわよ」


 笑顔で頷いたチィコは急に首を捻ねり、リンジーは笑顔で答えた……が、完全にコンラートの事を忘れていた……しかも、今回はTDも一緒に……。二人は、鉱山跡で敵も味方も撤退した後で呆然と立ち竦んでいた。


____________



 タンクヒルの町に戻って三か月が経った。ヴィットは前に住んでいた屋根裏に寝泊まりして、毎日プリラーの店? に通った。


 当然プリラーの仕事を手伝いながら、一日千秋の思いで待った。


「ビンボー小僧、そこの部品はじゃな、もっと丁寧に繊細にじゃな……」


「誰がビンボー小僧だ……爺さん、戦車なんてブッ叩かないとボルトなんて外れないんだぜ」


 呆れ顔のプリラーが、ガンガンブッ叩くヴィットを見ながら溜息を付いた。


「見て見ろ、リンジーちゃんなんか働き詰めでも、手袋以外は汚れて無いじゃろ。あれが、本当の達人なのじゃ」


「怪力なだけだろ」


「誰が怪力ですって?」


 スパナを投げる態勢で、リンジーが凄んだ。


「しかし、爺さん。仕入れるなら、もっと高年式の奴をだな」


「そうだ、こんな装甲じゃ、初戦でお陀仏だぜ」


「まあ、そう言うな。こんなモンでも需要はある」


 呆れ顔のイワンが溜息を付き、ハンスは錆びに塗れた車体を撫ぜた。ゲルンハルトは笑顔で溶接機を使い、ヨハンは黙々と砲身を磨いていた。


「大体、お前等何なんじゃ? そうでなくても狭いのに……そこのジジィ! ここは禁煙じゃし、禁酒じゃ!」


 猛烈に大きな溜息を付いたプリラーは、工場の隅で宴会するオットー達を煙たそうに見た。


「こんなの配線と呼べるか!」


「エンジンなんて、掘り出した発掘品みたいだ……」


 別の場所ではコンラートが頭を掻きむしり、TDはあまりの酷さに愕然としていた。


「アンタも、おったんやな……」


 お菓子を食べながらチィコが唖然と言うと、コンラートは悲しそうに言った。


「毎日会ってるだろ……」


 そして、その日の夕方……工場の壊れそうな錆びた扉が、いきなりフッ飛んだ。煙と轟音、埃が晴れると、そこには小さな赤い戦車が”いた”。


「こんにちは、最強戦車のマリーです」


 ヴィットを先頭にリンジーやチィコ、ゲルンハルト達や、オットー達、TDやコンラートが泣きながらマリーに突進した。


「何なのよ~!」


 マリーの声が、壊れかけた工場に日々渡った。ヴィットは靴を脱ぎ捨てると、砲塔に飛び乗り抱き付いた。


「マリー!! 会いたかった!!!」



          第三章  完


長い間、ご愛読ありがとうございました。第三章は完結しましたが、マリーとヴィットはまだまだ、旅の途中です。


近い将来、マリーの続きを書きたいと思います。


次作も応援と、ご愛読をお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です&第三章の完結おめでとうございます(*^▽^)/★*☆♪ 新年一回目の更新で完結となっていて驚きましたが、まだまだ続く様で一安心(´∇`*) しかしマリーが戻って来たからに…
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