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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第一章 始動
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虚塔

 夜明け前の光に照らされたオアシス都市バンスハルは、廃墟だった。砂は建物を覆い尽くし、破滅の魔の手は静かに確実に生けるものを蝕んでいた。


「なんやここ、誰も居てへんやんか」


 街の入口でサルテンバのハッチから顔を出したチィコが目を丸くし、リンジーの背中を氷の様な寒気が襲う。この時代、廃墟なんて道端の雑草程に日常の光景だが、ここは少し感じが違う。


 人為的に破棄され急激に瓦礫となった家屋より、風化の様なナダラカな破壊は、敵わない強大なモノに侵される感覚だった。


 存在するのは絶対的な力は、恐れ平伏す以外に他には何も出来ないと悟らせる。リンジーが震えを押さえられないままハッチから飛び降りると、パウダーの様な砂が微かに舞った。


 胸の中では何故ここには敵が待ち伏せしてないのかと疑問が湧き出し、寒気を増加させる原因に気付いた。その疑問は、チィコを除くほぼ全員が感じていた。


「施設は生きてるのか?」


 ゲルンハルトもその光景に言葉を揺らす、廃墟というより遺跡の外見が待ち伏せの無い疑問と不安を増大させる。


『研究施設は地下にある。街の中心、タワーの前に来てくれ。君とお嬢さん達、それにマリーの乗員も』


 ガランダルはゲルンハルトの無線に告げると、今度は残存の車両に連絡を入れる。そして遠くで光を反射するタワーが、ガランダルの胸を激しく揺さぶった。


 それはまるで、ちっぽけな人間を“神”が無言で見下ろしているかの様に。ガランダルはそっと目を伏せ、もう一度軽く目を閉じた後、凛として通信を送った。


『正面にデァ・ケーニッヒスを配置する。各車両は施設の周囲に塹壕を掘り、補給と休息にあたれ。バンスハル守備隊の補給庫が街の南側にある、燃料と弾薬、食糧などもそこで補給出来る……』


________________



 マリーがチィコ達の待つタワーに砂煙と共に到着する。砂の中にそびえ立つタワーは、弱い太陽の光を所々に残る窓の破片のガラスが鈍く反射していた。


 外装のコンクリートは、油分の抜けたミイラみたいにカサカサと音を立てている様で、錆びの跡は流した涙を永遠に固定する退廃した絵画の雰囲気だった。


 泣きそうな顔で走ってきたチィコが、マリーに飛び付く。


「マリー、うちな、うちな」


 大粒の涙に、チィコの声が掠れる。


「怪我は無い? リンジーは大丈夫?」


 その穏やかな声に、チィコは声を上げて泣く。後から近付いてきたリンジーは、その声に母親の優しさを感じた。


「ありがと、マリー……助かったわ」


 そっとマリーに手を触れると、装甲がほんのりと温かい。


「よかった、無事で……」


 砲塔をゆっくりと旋回させ、マリーは呟いた。


「あぁあ、俺はどうでもいいのかよ」


 ハッチが開くと頭の後で手を組み、わざと大声を出すヴィットが顔を出す。


「ヴィットも無事やったんやな!」


 すかさずチィコが飛び付く、嫌そうにヴィットは払いのけるがチィコは怯む事無くまとわり付いた。その光景は微かにリンジーの胸に、小さな痛みを走らせた。


「よう、助かったぜ」


「もっと早く来いよな」


「全く、登場の仕方が映画のヒーローみたいなんだからな」


 イワン達が微笑みを浮かべる。ゲルンハルトは聞こえない様に、ありがとうと呟いていた。


「そうだ、おみあげ! ヴィットお願い」


「分かったよ」


 マリーに促され、ヴィットは渋々と砲塔の中からぬいぐるみを取り出す。


「めっちゃ可愛い!!」


「あ、ありがと」


 ぬいぐるみを抱き締めチィコは満面の笑みを浮かべ、リンジーは滲んだ涙をそっと拭いた。その様子は激戦の後の清涼剤となり、ゲルンハルト達の疲れ切った心身を穏やかに癒した。


「おじいちゃん達は?!」


 ふいにリンジーの脳裏に浮かぶ、オットー達の笑顔。


「それならほら」


 イワンが指差す先には、マチルダにハンマーを振り下ろす姿が飛び込む。


「ありがとう!」


「おおきになっ!!」


 大きく手を振るリンジーに、気付いたチィコも声を張り上げる。オットー達は全員が同時に向き直り、親指を立てニッコり笑った。泣きながらマリーに駆け寄るTDは、イワンのラリアットで砂の中にめり込んだ。


__________________



 近くで見たガランダルはヴィットの心を激しく打つ。それは亡くなった父親の面影とダブリ、自然と俯いた。クルトは小柄で優しそうな目、リンジーはその容姿にモニター越しに強く言った事を少し後悔した。


 動きそうもない扉もクルトがIDを入力すると、照明は復活しエレベーターの入口が開く。大事そうに小さな箱を抱えるクルト、その小さな箱が未来なんだとヴィット以下の全員が思いを馳せた。


 欠伸が出る程長いヘレベータの降下が終ると、器具に埋め尽くされた研究室に到着した。ガランダルの言葉が終らないうちから、クルトを先頭に研究員達は走って仕事に取り掛かる。


「触っちゃダメよ」


 装置を触りたくてまん丸な目を輝かすチィコに、苦笑いのリンジーが釘を刺す。怒られて眉をハの字に垂らす姿に、ヴィットも自然な笑顔になった。


「ここが研究室の中心だ、この場所を二十四時間死守して欲しい……勝利する軍隊は事前に勝つ為の条件を整えた上で戦い、敗北する軍隊は戦いが始まってから勝利の行方を模索する」


「兵隊さんになった覚えはあらへんけどな」


 皆を前にし訓示したガランダルは、ぬいぐるみを抱き締めたまま呟くチィコの様子に一瞬笑顔になった様に見えたが、直ぐに凛とした表情に戻る。


「具体的作戦をお教え頂きたい」


 軍隊式に背筋を伸ばしたゲルンハルトが、ガランダルに正対する。


「敵の目標はキラーバクテリアの奪取であり、ここに待ち伏せの無いのは途中の奪取を諦め作戦を変更した為だ。残った時間は少ない、君が敵なら一番効果的な攻撃は何だと思う?」


 最後の質問は、俯くヴィットに向けられる。


「……次に欲しいのは完成したヤツだろ。それなら時間まで待って、一気に勝負を掛けて来るんじゃないかな」


 ほんの少しの沈黙の後、ヴィットはボソボソと言った。


「惜しいな、それではお嬢さんは?」


 小さく頷くと、今度はリンジーに微笑むガランダル。


「完成の時間を逆算し、少しづつ戦力を削げば最後の仕上げは簡単。一点突破の電撃戦でジ・エンド。勿論、製造の過程は邪魔しない――」


「そうか、反対に言えば戦力を保持する為には、ココに張り付いていればいいって事だな。そうすれば迂闊に手は出せない」


 リンジーは腕組みしたまま静かに答える、ヴィットはその答えに更に言葉を被せる。


「ほぼ百点だ。この戦いは戦争じゃない。時間まで持ち応えればこちらの勝

ちだ」


 ガランダルの微笑みはヴィットに胸の痛みを増幅させる。それは懐かしくて切なくて、悲しみが混ざる不思議な痛みだった。


『ところで艦長さん、二十四時間で全世界分のお薬が出来るんでしょ。散布はどうするの? ここから撒いても知れてると思うんだけど』


 ヴィットの腕の通信機から、マリーの声がした。


「持ち出した所をモグラ叩き状態でしょうね。それに世界旅行する程、時間も人数も体力も足りないしね」


「うちはマリーと世界旅行がしたいなぁ」


 溜息を付くリンジーは必至に働く研究員の背中を目で追い、モジモジとチィコが床に爪先で絵を描く。


「心配無い、あそこを」


 ガランダルが指差す先に、鈍く光を放つ円柱状の物体が群れを成す。


「何や、柱かぁ?」


「まさかロケット弾頭……」


 目をパチパチさせるチィコをよそに、ゲルンハルトは声を震わせた。


「気象観測用のロケットだ、固体燃料の旧態依然としたやつだがな」


「なんや、打ち上げ花火みたいなもんか」


 呟くチィコにガランダルは笑った様な顔になる。


「まだ軍事転化は先ね。飛行特性や命中精度、燃料や弾頭なんか問題は山積みよ」


「ほう、ロケットに兵器の資質はあると考えるのかな?」


「大有りよ、今はRPGや指向性のロケット砲程度だけど未来にはMBWになる。遠隔戦闘だけでなく、近接戦闘でもね」


「軍事顧問に雇いたい程だ」


 真顔で見解を述べるリンジーに、またガランダルは優しく微笑む。その眼差しはヴィットの胸を揺らす、嫉妬という振動で。


「なんや、Mなんとかって?」


「俺が知るか」


 テンになった目でチィコが隣のヴィットに聞く、ヴィットの目もテンになっている。


「メイン・バトル・ウェポン、主力兵器ってことだ」


 呆れ顔のハンスが説明したが、二人目はテンのままだ。


『どうせバラつきはあるでしょうけど、平均到達高度は?』


 今度はマリーが聞く。ガランダルは人間相手に返答するみたいな自分に、何故か違和感を感じなかった。


「打ち上げ条件にもよるが、八千から一万五千ぐらいかな」


『なるほどね。対流圏でもそれだけの高度まで打ち上げられるのなら、偏西風を使い世界散布は可能かもね。一万メートル以上も上がればジェット気流も使えるし』


 マリーの感心した様な声、チィコとヴィットだけは置き去りにされた子犬みたいに小さくなっていた。マリーの的確な見解は、ガランダルの脳裏に違和感を送る――それは良し悪しが入り乱れる不思議な感覚だった。


「迎撃作戦は君達に任せる、我がデァ・ケーニッヒスもそれに従う」


 ガランダルの言葉に全員が顔を見合わせ、ヴィットは拳を握り締めた。


________________



 デァ・ケーニッヒスから降りた研究員に代わり、バティースタ達などの自分の戦車が戦闘不能になった者が交代要員となった。


「ガランダル大佐殿と御一緒出来て、光栄であります!」


 直立不動のバティースタが貧弱な敬礼をする、横のミューラーに頬杖を付いたガランダルが聞く。


「使えそうか?」


「戦車乗員としての資質はかなりのものです」


「それより、あのジィさん達をどうにかしろ」


「大目に見てやって下さい」


 ガランダルは大きな溜息で頭を抱え、ミューラーは苦笑いした。デァ・ケーニッヒスの戦闘艦橋はオットー達が中心となり大宴会場と化していた。安酒の臭いが充満し、変態的な踊りと音程の外れた音楽が危機的状況を別の意味で和らげていた。


「のぅ、将軍閣下!」


 ウィスキーの瓶を持ったまま、鼻の頭を真っ赤にしてオットーが大声を出す。呆れた様なガランダルが、面倒そうに答えた。


「大佐ですよ、ただの」


「砲弾が足りん、機銃弾は山程あるがの」


「だから?」


 分かり切った事だった、度重なる戦闘で弾薬は不足している。守備隊補給庫の砲弾は数は十分に残っていたが、腐食がその殆どを使用不可にしていた。


 燃料は完全密閉タンクがなんとか保護していたが、蒸発により残存の全車両のタンクを満たすには至らない。


 それに個人商店の賞金稼ぎには、あまり縁の無い大規模集団戦闘が続いている。各車両の損耗や搭乗員の疲弊も限界に達し、士気は落ちている。


 気分転換は今後の作戦において必須だとは思ったが、大騒ぎするオットー達にガランダルはまた溜息が出た。


「あんたの噂は聞いとる。数々の武勲は、わしとて感服したぞ。じゃが、その英雄がやる戦じゃないのぅ」


「それはどうも。そちらは、この戦いをどう思いますか?」


「補給無しの戦なんか、金の無い博打と同じじゃ。まぁ、切り札に頼るしかないのぅ」


「私もそう思います」


 オットーの酒焼けした笑顔に、ガランダルも笑顔で答えた。切り札と言う言葉を、頭の中で何度も繰り返しながら。


____________________



「燃料はこれを入れるんだ」


 燃料補給をしようとするヴィットに、ゲルンハルトが持って来た給油缶を差し出す。


「えっ、ここのじゃダメなんですか?」


 驚いた顔のヴィットは、給油の手を止めた。


「マリーには最高の燃料を飲ませたい」


 ゲルンハルトの中でもマリーを機械だと思わない思考が、次第に大きくなるのを感じていた。マリーの声も弾む。


「それはご馳走さま」


「そうだ、マリーには大きな借りがあるしな」


 給油しながらイワンが笑う、勿論給油口には新品のフィルターを装着して異物の混入などを細心の注意をはらいつつ。


「ロケット榴弾も三十発確保したぜ」


「機銃弾、錆のない極上品だ、補給はマリー優先だぜ」


 ハンスがマリーの足回りの点検の手を止め笑い、ヨハンが手押し車を押して来る。


「ところでマリーの具合はどうなんや?」


「かなりのダメージね、本当なら専門工場で整備したいわね。流石の私もお手上げ、見た事無いパーツのオンパレードよ」


 バケツを頭に乗せマリーの車体を洗いながらチィコが眉を下げて聞く、電気系統を見ていたリンジーがハッチから溜息を付いた。


「ワタシは大丈夫よ、チィコもリンジーも心配しないで」


 包み込むみたいな優しい声、二人は自然と笑顔になる。


「砲弾は残弾を含めて四十五発、機銃弾はフル装填だけど推進剤は残り半分、電磁装甲はどうなんだ?」


 力ない声のヴィットはハッチから顔を出すリンジーに聞く。


「オーバーロード気味ね、ケンタウロスとの戦闘でかなり無理したから」


 焼けた配線や焦げた基盤がリンジーの脳裏を悲しみで覆い、周囲を暗い雰囲気が降り注ぐ。


「これ、使ってくれ」


「こいつも役に立つぜ」


 振り向いたヴィットに他の車両の乗員が近付く、手に手に対戦車RPGや対戦車手榴弾を抱えていた。


「マリーは俺達の希望だ、弾薬が切れてもこれだけあれば離脱に役立つ」


「こいつは最新式の車載ロケット砲だ、一門で四発の装弾がある」


「あんた達……」


 二門のロケット砲を運んできた連中もいる、驚いた顔のヴィットが言葉を詰まらせた。


「ほう、後部の端に搭載出来そうだ」


 ハンスは近付くと、マリーに装着出来るか確認する。


「自分達はどうすんだ? 攻撃力が落ちるぞ」


「なぁに、心配いらねぇ。逃げ足には自信がある、それよりマリーに借りを返したいんだ」


 ヴィットの心配した言葉に、男達は豪快に笑った。


「みんな、ありがとう。でも、その装備は皆が使ってくれた方が嬉しいな」


 穏やかなマリーの声。


「そう、かい」


 男達は一様に俯く、受けた事の無い優しい気持ちに包まれた。


「あのぅ……」


 端で小さくなるTDが呟く、マリーが優しく言った。


「TD、電磁装甲に詳しかったわね。ちょっと見てくれる」


「よっ! 喜んで」


 満面の笑みでTDは電子部品に飛び掛かる。


「変な事したら死刑やで」


 チィコがすかさず付いて行き、TDの背中を叩いた。


「電磁装甲は完全にオーバーロードだ、他の各システムにも作動限界の表示が出ている」


 さっきまでの笑顔は消え、TDは深刻な顔をハッチから出した。


「そんな……」


 見た目の傷でもヴィットを締め付けるのに、見えない傷がマリーを侵している事実は更に胸の痛みを増加させる。


「で、どうなの?」


「負荷を減らす為に攻撃システムの一部を防御に振り分ける。ヴィット、火器管制と操舵システムの一部が手動になるけど――」


「構わない、少しでもマリーの負担を減らしてくれ」


「分かった」


 覚悟を決めた様なヴィットに、TDは真剣な顔で頷くと作業に掛る。


「ヴィット、ワタシ――」


「何も言わないで、俺に出来る事をしたいんだ」


 マリーはそれ以上何も言わなかった、モニターカメラで見たヴィットの表情がとても頼もしく見えたから。


_______________



「どっせいっ!」


 リンジーが大鍋を揺する、傍で見ていたチィコが目を丸くする。


「リンジー、凄いやんか」


「ほら並んで!」


 男達を並ばせリンジーが食事を配る。何故かヴィットの皿は、他の者に比べて大盛りになっていた。


「俺だけ、多いけど?」


「坊主、鈍いな」


「何だよ、坊主って言うなよ」


 不思議な顔をするヴィットを、イワンが小突く。


「あの娘、気があるんだよ」


「そんな、まさか」


 ヴィットが笑いながら見ると、リンジーは真っ赤になって視線を逸らせ、同時にフライパンをイワンに投げつけた。もちろん、顔面直撃のイワンはその場で昏倒した。

 

 目がテンになるヴィットの横で、他の者の大笑いが空に響いた。


______________



 食事が終るとヴィットとマリーは二人きりになった、リンジーが気を利かせて皆を遠ざけたからだ。まだ夜が明けたばかりの砂漠は、日中の暑さがウソみたいに涼しい風を吹かせている。


「ねぇ、ヴィット大丈夫?」


「ああ、大丈夫だよ」


「少し眠ったほうがいいよ」


「なんだか眠くないんだ」


「……ごめんね。ワタシがもっと強かったら、皆を守れるのに」


 すまなそうなマリーの声にヴィットは地面に座り、マリーに寄りかかったまま、ほんの少し笑った。


「強いって何だろうね……例えば味方の危機に一発で敵を全滅させる爆弾なんかも、強いって呼ばれるかもしれない。正直に言うと初めてなんだ……戦うのって。相手を倒さなければ自分が倒される、そんな緊張した中でさ、マリーの戦いを見た。綺麗事なんていうつもりは無いし、戦いの現実も傷を負った痛みも経験した。あの爆発の向こうで誰かが傷付き死んでいるって、ぼんやり思う瞬間もあった。その人達には家族がいて、仲間がいて、恋人がいるんだって思った――」


「………」


 自分自身に言い聞かせる様なヴィットの呟きに、黙ったままのマリーは微かに車体を震わせていた。


「でもこんな戦い方が出来たらって、マリーの戦いに思えた。仕事だからって、自分が生きる為って思う戦いもあるけど、本当は誰だって思ってるに違いない、出来ずにいるだけなんだ。甘いって、良い子ぶるなって言われるかもしれない、でも……俺は戦うならマリーみたいな戦いがしたいんだ」


「ヴィット、ワタシは――」


「俺は思うよ、本当にマリーが最強だって。優しさも強さのうちだって、思う」


 モニターカメラに写るヴィットの顔は、頼もしさにプラスして大人の男の雰囲気に包まれている。


「ありがと……」


 マリーの声が微かに震えているのに、ヴィットは何故かその時だけ気付いた。


___________________



「リンジーちょっと」


「何?」


 ふいにTDが声を掛け、人のいない場所に誘った。


「変なんだ」


「あなたの変なのは、今に始まったことじゃないでしょ」


 茶化したつもりでも、TDの顔は真剣だった。


「見当たらないんだ」


「何が?」


「自律思考戦闘システムのユニット」


 リンジーの顔色が変わる、様々な思考が脳裏を超高速で駆け抜ける。


「TDだってユニットの形なんて知らないし、被弾に備えてどこか奥の方に……」


「重要なユニットは確かに被弾に備えた場所に設置する、同時にメンテし易い場所の必要もあるんだ。マリーの言動や動作から判断しても、それなりの大きさになるはずなんだけど、やはり見当たらない」


「そんな……」


 ”見当たらない”って言葉がリンジーの胸を締め付ける。マリーの存在が神秘的に以上に霊的に感じられ、それは人知を超えた感覚で脳裏に迫った。


 数分の沈黙の後、少し思考を整理してリンジーは言葉を絞る。


「見間違えの可能性は?」


「俺は専門家だ、一番の興味のユニットだからデータは多く持っている。掴んでいる情報では、人間ぐらいの大きさだと言う事なんだ」


「TD」


「何だよ?」


「皆には言わないで、特にヴィットには」


 真剣な顔のリンジーが詰め寄る、TDは小さく頷いた。


「分かった」


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