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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
159/172

アルティメット

「確かにケンタウロス、前と違う……」


「何か言うたっ!?」


 敵戦車を蹴散らしながらリンジーが呟くと、チィコは周囲を警戒しながら急停車した。


「どうやら、落ち着いた様だな」


 何時の間にか隣に並ぶシュワルツティガーから、ゲルンハルトが穏やかに笑った。


「確かに前に比べたら頑丈みたいだがよ、他に何か違うのか?」


 首を捻りながら、イワンは頬杖を付いた。


「マリーを見て……」


 リンジーに言われるまま空を見上げると、イワンやハンスは更に首を捻る。


「確かに外装はやられてるけどな」


「ああ、武装は殆どオシャカだ」


「そう……後、アームが無くなれば……マリーは、ただの装甲車よ」


 少し沈んだリンジーの声だったが、イワンには意味が分からなかった。


「そりゃそうだが……」


「アームを失い、噴射剤が切れれば……捕獲できる可能性は更に大きくなる……」


 ヨハンは鋭い視線でマリーを見た。


「何だとっ!! 奴等、まだ諦めてないのか!?」


「当たり前でしょ……これだけの大戦力を投入して、破壊までしようとした……でも、全てが失敗に終わった……普通なら終わりよ……だけど、あいつ等……諦めてない……大戦力も破壊行動も全てシナリオ通りなのよ、全てはマリーを消耗させる為の作戦だった……」


 リンジーの暗く沈んだ声は、シュワルツティガーの全員に戦慄を走らせた。


「何だい、戦場の真ん中で止まるなんて」


 今度はアリスⅡが隣に止まり、ミネルバが呆れた様にリンジーを見た。そして、明らかに暗く落ち込むリンジーに、吐き捨てるみたいに言った。


「まるで、この世の終わりって顔だね」


「……嫌な予感がするの」


 震えながらリンジーは呟く。


「アンタ、信じてないのかい? 坊やの乗ってるのは、”世界最強”のまんまるだよ」


「信じてる! マリーは絶対にヴィットを守ってくれる!」


「なら、何故そんな顔をする?」


 叫ぶリンジーをミネルバは見据えた。


「……信じてる、けど……不安で堪らない……」


「フン、それで信じてるなんて片腹痛いね」


「私はっ!……」


 ミネルバの見下した様な言い方に、リンジーは声を上げるが後が続かない。悔しくて悔しくて、握りしめた拳が小刻みに震え、自然と涙が溢れた。


「嬢ちゃん、気負わんでもよいのじゃ。マリーちゃんは、絶対無敵なのじゃ。それにのぅ、グラマーな女盗賊さんは、嬢ちゃんを心配しているのじゃ」


 これまた何時の間にかオットーが、リンジーの隣に……いた。


 ”ジジィ、どこから湧いた”と言う言葉を、ゲルンハルトを始めシュワルツティガーのクルーは飲み込んで、緊迫した場面を見守った。


「アタシが心配してるだと! ジジィ何言ってる!」


 ミネルバは、そっぽを向きながら叫んだ。


「少年と嬢ちゃんは本当に似てるのぅ……おっと、マリーちゃんも似てる。三人、一緒じゃ、カカカ」


 オットーは眼鏡を光らせ、高らかに笑った。


「どこが、似てるん?」


 目をまん丸く見開いて、チィコが聞いた。


「それはのぅ、溢れる”勇気と元気”じゃ」


 その言葉に、リンジーはハッとした。瞬間にヴィットの笑顔と、マリーの笑い声が頭の中を駆け巡った。


 その途端、リンジーの胸の奥深くから暖かくて愛おしい、何かが噴水みたいに溢れだした。


「チィコ! 行くよっ!!」


「ほいなっ! オバちゃん、ええ人やなっ!」


 ハッチに飛び込んだリンジーは照準装置に顔を埋め、チィコはミネルバに手を振るとアクセルを蹴飛ばした。既に、リンジーは落ち着いていた。


 ”勇気と元気”なければ、自分じゃないと……。


「誰がオバちゃんじゃ……出しな、後を追うよ」


 言葉とは裏腹に、ミネルバは穏やかに微笑んでいた……しっかり、運転席の手下は思い切り蹴飛ばしていたが。


「俺達も行くか?」


「当然だ」


 ニヤリと笑うイワン、ゲルンハルトは凛として言った。直ぐにイワンはアクセルを蹴飛ばし、ヨハンは神速で砲弾を装填した……そして、当然ながらオットーはその場に置き去りにされた。


____________



「ケンタウロスは二機とも健在、腕以外の武装は無力化されましたが、アンタレスもアーム以外の武装を消失した模様です」


「後は飛行能力だけだな」


 白衣の男の報告を受けた男は、頬杖のまま怪しく笑った。


「ですが、破壊は難しいかもしれません」


「そんな事はどうでもいい……もう直ぐアンタレスは燃料が切れて着陸する、ケンタウロスの自爆タイマーを作動させろ」


 男は氷の様な目で、白衣の男を見据えた。


「まさか……味方の兵士にも被害が……」


 震える声で言い掛けた白衣の男は、次の言葉が出なかった。見据える男の目は、最早人の眼ではなかったから。


「兵器の中で最も安価なのは”人”だ」


「……」


 男の言葉に、白衣の男は何も言い返せなかった。


「……あと三分で、全てが終わる」


 男はモニターに映るマリーを見ながら、口元だけで笑った。


____________



『マリー、ヴィット大丈夫?』


 旋回するマリーにミリーが近付いて通信を送った。


「俺もマリーも大丈夫だ」


『あと、何分?』


 シンクロしている事を分かってるミリーは、落ち着いた声で聞いた。


「もう十分を切った」


 ヴィットは落ち着いた声で答えた。


『そう……なら、急ぎましょう。ケンタウロス、自爆装置のタイマーが入ったみたい』


「そうなのか? なら、終わりじゃないか」


 急に力が抜けた様に、ヴィットは声を震わせた。


『そうね、終わり……でも、敵も味方も地上にいる全ての人が……』


 ミリーは言葉を濁した。


「そんなに凄い爆発なのか?!」


 察したヴィットは驚きの声を上げるが、そんな大爆発なんて信じられなかった。


『爆発自体はそうでもないの……でも、ある化学兵器が撒き散らされる……半径十数キロの全ての人が……死ぬ』


「何だと!!?」


 ヴィットは声を荒げた。


『ごめんなさい……ワタシも油断してた……ケンタウロスの砲撃手段が無くなってから、近付いて……それで、センサーに反応したの』


「残り時間は?」


 落ち着いたマリーの声に、焦るヴィットは叫んだ。


「マリー!」


『三分を切った』


 叫ぶヴィットを他所に、ミリーは落ち着いた声で言った。


「ミリー、二機を近付ける様に誘導をお願い」


 マリーもまた、落ち着いた声でミリーに指示した。


『分かった』


 ミリーは急降下すると、二機のケンタウロスの誘導を始める。


「ヴィット、聞いて」


 焦りまくるヴィットに、マリーは穏やかな声で言った。


「聞くから早く!!」


「二機のケンタウロスを成層圏まで運ぶ。そこなら、化学兵器も無害化出来る。その為にはヴィットの協力が必要なの。二機同時は最大ペイロードを超えてるの、だからアルティメットモードを使うの……でも、それはヴィットが戻れなく……」


「やるぞマリー!!」


 震えるマリーの言葉を遮り、ヴィットは精一杯の声で叫んだ。


「……うん」


 聞こえないくらい小さな声で、マリーは返事した。そして、車体を捻ると超急降下でケンタウロスへ向かった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ 相変わらず美味しい処を持っていく妖怪オットー爺さん! ホントにどうやって湧いた?(笑) ミネルバおばさん(笑)も、若い者のケツ持ちが板についた感じですね(´ー`…
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