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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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ヘッドギヤ


マリーとケンタウロスのドツき合いは、長く続いていた。初めは笑みさえ浮かべていたが、見守るリンジー達は次第に不安に包まれる。


「マリー、大丈夫やろか……」


「……うん」


 眉を下げて呟くチィコに、リンジーは視線をマリーに向けたまま消え入りそうな声で答えた。既にマリーの対空機銃やレーザーは破壊され、残る武装は主砲と同軸機銃だけになっていた。


 何よりケンタウロスにより車体に付けられた激しい傷が、リンジーの胸を激しく締め付けた。


「二対一では分が悪い……」


 呟くゲルンハルトだったが、自分達の後方に迫る敵戦車に舌打ちした。多くの敵はカリウスの隊が排除したが、残敵はまだ多い。ケンタウロスの支援の為、迂回して回り込んだ集団が迫っていた。


「後方警戒! 敵が後ろに回り込んだぞ!」


 マイクを取ってゲルンハルトが叫ぶ。至近距離のアリスⅡは、直ぐに反転! 迎撃に向かうが、サルテンバは動く気配はなかった。


「マリーを信じろっ! 今は敵を近付けさせるなっ!」


『……了解』


 怒鳴るゲルンハルト! 無線機からはリンジーの返答が雑音に混ざって聞こえた。


「十一時、敵突出部の先頭から行くぞ!」


「了解!」


 ゲルンハルトの指示に、叫び返したハンスはアクセルを蹴飛ばし、イワンはレクチルに先頭車輌を瞬時に補足、ヨハンは素早く次弾装填準備を整えた。


 悪い予感を振り切る様に……。


____________



「大丈夫かっ!?」


「平気っ!」


 もう何度、ヴィットが叫んでマリーが叫び返したのか……。ヴィットは衝撃を受ける度に、自身の身が引き裂かれる想いだった。


 二輌のケンタウロスはマリーの打撃を受け、かなりの損傷を受けているはずだが、一向に弱体する気配も無く、むしろ攻撃の威力を増しているようだった。


 そして、二輌は連携してマリーに打撃を加えていた。時間差攻撃や、同時攻撃などあらゆる打撃で、次第にマリーを凌駕していた。マリーが両腕? の砲身で前から来るケンタウロスの打撃を受け止めても、瞬時に後方に回り込んだ、もう一輌の打撃を後部に受けると言う感じだった。


 電磁装甲も度重なる打撃を完全には受け止めきれず、次第に損傷は蓄積して行った。


「先に片方だけでも仕留めないと」


「そうね……でも、向こうも分かってるみたい」


 二対一のアドバンテージをケンタウロスも手放す気は無い様で、片方に攻撃が集中するのを抜群のコンビネーションで避けていた。


「このままじゃ、ジリ貧だな……」


「砲身も、これが最後よ」


 既に砲身の残りは尽き、折れ曲がった砲身が周囲に散らばっていた。だが、悲壮感などヴィットには欠片もなかったが、衝撃の度にマリーが一人で痛みと戦ってる事を考えると、二人で戦う意味も曖昧に霞んだ。


 全身を貫く痛み……それは、物理的痛みではなく、見えない棘の様にヴィットのココロを蝕んでいた。


____________



「もう嫌っ!! チィコ行こうっ!!」


 リンジーは同時に二輌に攻撃され、火花と轟音を散らすマリーの姿に叫んだ。


「確かに、前とは違う様じゃのう」


 何時の間にかサルテンバの砲塔に乗るオットーが、眼鏡を光らせた。


「どこから来たん?」


 チィコは冷や汗を流して、顔を強張らせた。


「そう言えば……」


 リンジーは戦慄した。ケンタウロスは盾で攻撃を防ぎ、卓越した機動力で相手を殲滅する戦車……だが、盾や腕は格闘戦では最高の武器となっていた。


「奴はマリーちゃんと同じく、戦車の基本概念を覆す近接戦闘特化型じゃ」


「なら、マリーが不利やん」


 オットーの言葉はリンジーの胸を締め付け、チィコは泣きそうな声を上げる。


「行かないと!」


「ワシ等は、マリーちゃんの足枷となる……それは、今も変わらん」


 乗り出すリンジーに、オットーは静かに言った。


「なら、どうすればいいのよっ!?」


 本当は分かっていた。そんなの言われなくても、自分自身が嫌と言う程に分かり切っていた。だから、リンジーは叫ぶし事しか出来なかった。


「せめて敵戦車を近付けない事が、ワシ等に出来る全てじゃ……ほれ、二時の方向、ゲルンハルト達の隙をついて向かって来る」


「……チィコ……行くよ……お爺ちゃん……そこに居ると、実弾食らうよ」


 一旦、目を閉じたリンジーは顔を上げると、静かに言った。ココロの中に噴水みたいに湧き上がる自己嫌悪を、激しく流れるままに……任せて。


____________



 車体に衝撃が走る! インパネ付近から小さな火花が出る。外装は確認できないが、ヴィットにはマリーの損傷がかなり深い事は分かった。それは、砲身で受け止めた衝撃ではなく、確かに車体に直撃した衝撃だった。


 ヴィットは体全体の震えが止まらなかった。マリーが衝撃を受ける度に、何の痛みも感じない自分が悔しくて悔しくて、歯を食いしばっていた。


 しかも、次第に車体に直撃を受けるマリー……”大丈夫か?”って聞いても、きっと”平気”って言うに決まってる。


 ヴィットはインパネの下に手を伸ばし、ヘッドギヤを取った。


「それはダメっ!」


「大丈夫だよ」


 マリーは声を震わせるが、ヴィットは静かに言った。そして、もう決めていた……これ以上、マリーだけで戦わせないと。


 ヘッドギヤを被った瞬間、ヴィットの全身を”痛み”が駆け抜ける。気を抜けば、叫んでしまいそうな痛みを、ヴィットは拳を握り締めて耐えた。


 直ぐに視界はケンタウロスを捕え、ヴィットは叫んだ。


「マリーは後ろを頼む!」


「……うん」


 マリーは小さな声で返事した。


「こいつっ!」


 ヴィットは振り上げた砲身でブッ叩くが、ケンタウロスは盾で受けると同時に機銃の腕で殴り掛かる。避けようと下がった瞬間に、後ろのケンタウロスが殴り掛かって来る。


 何とか距離を取り一息付こうとしても、ケンタウロスは許さない。


「マリー……」


 こんな苦しい状態が、ずっと続いていたのかと思うとヴィットの胸は更に痛んだ。だが、マリーは自分の事よりヴィットを心配した。


「ヴィット! 大丈夫っ!?」


「ああ、大丈夫。とにかく、一息つかないと」


 ヴィットはそう言うと、ホイールロケットを点火! サイドキックで一気に距離を取った。だが、二輌のケンタウロスは全速力で追って来る。


「しつこい!」


 ヴィットは全力で反対方向に向かうと、小さな窪みを使ってジャンプする。そして、車体が浮き上がって瞬間! 四隅のホイールロケットを点火! 大空に舞い上がった。


「どうするの!?」


「そうだな……」


 ヴィットはケンタウロスの上空を旋回しながら、考えを巡らせた。だが、マリーは震える声で言った。


「ヴィット……二度目だよ、前よりシンクロ率は上がる……戻れる時間は10分くらいしかないのよ」


「それだけあれば、十分だ」


 ヴィットの声には自身が溢れ、マリーの壊れそうなココロを穏やかに包み込んだ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ マリーの劣勢に自らの危険を省みずにヴィットが動いた。 うーん、男の子ですねぇ(´ー`*) しかしガンタンク擬きの癖に強すぎやしませんかね(笑) [一言] ヘッド…
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