特別攻撃
盾と矛……前方のケンタウロスはマリーの攻撃を防御し続け、その隙に後方のケンタウロスは攻撃して来る。マリーの被弾は増え、残弾は少なくなって行くばかりだった。
「このまま続けるのかっ!!」
「まだよっ!」
思わずヴィットは叫ぶが、マリーの攻撃は前方のケンタウロスに集中していた。
「後ろのヤツ!!」
ヴィットが叫んだ瞬間、モニターの画面にアラームが鳴り響く。それは、損傷に対する各部の非常警報だった。
「アラームレッドだっ! 一旦下がれっ!!」
「まだ、大丈夫!!」
マリーは後方のケンタウロスの砲撃を、振り回す砲身で弾き飛ばし続ける。受けきれない砲撃は、電磁装甲で受け止める。その轟音と激震は、ヴィットの精神を圧迫し続けた。
直撃の痛み……それは、マリーの痛み。
「マリー!!!」
「……ありがと、大丈夫だから」
悲痛を含むヴィットの叫びを、激戦の最中なのにマリーの穏やかな声が包み込む。だが、ヴィットは張り裂けそうな全身を覆う”痛み”が限界に来ていた。
自分の痛みなら耐えられる。耐えて見せる……だが、マリーが一人で痛みを受け止めるのには我慢が出来なかった。
ヴィットがコントロールを強制手動に切り替えようと、スイッチに手を伸ばした瞬間! モニターの片隅に黒い影が横切る。
『突貫ぁ~ん!!』
雑音に紛れるその声は、紛れもなくオットーの声だった。
「じぃちゃん!!」
何処からともなく急に現れたマチルダは、前方のケンタウロスに正面から体当たりを敢行した。その出現はケンタウロスでさえ予測不可能で、轟音と火花を伴い大爆発を引き起こし、前方のケンタウロスはその衝撃で一時敵に行動を停止した。
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「じじぃ! 体当たりしやがった!」
「てか、気付かなかったぞ! 何処から湧いて出た!」
「ステルスじじぃ……」
イワンが叫び、ハンスも叫び返す。そして、ヨハンがボソッと言った。
「砲撃を後方のケンタウロスに集中しろ!」
ゲルンハルトは攻略の糸口に指示を出す。ケンタウロスの強固な防御と確実な攻撃はマリーの戦いを袋小路に追いやっている様に見えた。
確かにマリーは意図して攻撃しているのだろうが、傍から見ていると不安と心配でしかなかった。その不安はオットー達が一瞬で覆すが、それは犠牲を伴う事だった。
「マチルダは長くは持たねぇぞ!」
「車体の半分は潰れてるぜ!」
大声でイワンがゲルンハルトに振り返り、ハンスが顔を顰める。
「あそこ……」
無表情で指さすヨハン。そこには、匍匐前進で逃げだすオットー達がいた。
「全く……期待を裏切らないじじぃ達だ……さて、遠慮は無くなった。マチルダごとブッ飛ばせ!」
ゲルンハルトの号令で、イワンは必殺の砲弾を発射した。88ミリ砲弾は、マチルダを貫く。そして、予想を超える大爆発がケンタウロスを猛烈な火球で包んだ。
「じじぃ達の置き土産だ、爆弾をしこたま積んでやがった」
呆れるイワンが呟くと、マリーが全速でケンタウロスに突っ込んだ。
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「リンジー!! じいちゃん達が!」
「大丈夫! 待って!!」
慌ててマリーの傍に行こうとするチィコを、リンジーが止めた。
「どないするんや!?」
「とにかく待って。おじいちゃん達、きっと考えがあるから……」
リンジーは手を握り締めて、強い口調言った。泣きそうな顔のチィコは、ただ小さく頷いた。
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「爺さん達、特攻しました!」
「フン、シュワルツティーガーの動きに従え」
部下の報告を受け、ミネルバはゲルンハルトの動きに追随する様に指示した。直ぐにシュワルツティーガーは前方のケンタウロスに砲撃を開始し、大爆発が起こった。
「そう言う事か。まんまるが突っ込むぞ! 援護しろ!」
口元を緩めたミネルバは、突っ込んで行く赤い戦車を強い瞳で見詰めた。
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「じいちゃん達が!!」
「あそこ!」
ヴィットはマチルダが突っ込むの見た。マリーは瞬時にオットー達が脱出するのを確認した。
「チャンスだ! マリー!」
「了解!」
マリーは火球が収まりかけたケンタウロスに全速で突進した。マチルダが腹部に突き刺さった様な格好で、前方のケンタウロスは動きを止めていた。加速したマリーはマチルダをスロープにしてケンタウロスに乗り上げた。
そのまま前方のケンタウロスを踏み台にして、後方のケンタウロスにダイブした。
「車体っ!!」
マリーの叫びと同時に、ヴィットは車体目掛けて主砲を撃ち込んだ。当然、ケンタウロスは盾で受けるが、マリーはガラ空きになった胴体に渾身の砲身を撃ち込んだ。
だが、胴体に当たる寸前にケンタウロスは超速後退! 寸前で躱す! だが、マリーの振り下ろした砲身の先からは夥しい土? が撒き散らされた。
「僅かでもセンサーを狂わせる!」
マリーは叫ぶと、車体を捻り、ホイールロケットを最大噴射! 一気に肉薄した。だが、衝突の瞬間! ケンタウロス側のホイールロケットを更に全開最大噴射した!
そして盾で受け止めるのがコンマ数秒遅れ、全開のロケット噴射がケンタウロスの車体を凄まじい炎で焼いた。
「こっのぅ!!」
マリーは砲身を渾身の力で振り下ろす! が! 今まで簡単に受け止めていたケンタウロスの盾は一瞬遅れ、マリーの一撃がケンタウロスの頭部を直撃した。
爆音と火花!! ケンタウロスは頭部は激しく折れ曲がる。返す刀で更に頭部を横薙ぎ! 車体が傾く程の衝撃と共にマリーの持つ砲身も千切れ飛んだ。
しかし、ケンタウロスの戦闘力はまだ消えていなかった。直ぐに盾でマリーの車体をブッ叩き、腕の機銃で車体を掃射した。
マリーは銃撃を受けながらも、残った砲身で打ちかかる! そこに前方のケンタウロスは再起動! 腕と盾でマリーを取り押さえようと掴みかかった。だが、マリーは砲身の横薙ぎ一閃で向かって来る腕と盾を吹き飛ばした。
後は二対一のどつき合いの白兵戦!!が待っていた。
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「しっかし、マリーの動きはスゲーな……」
「まるでマ〇ガだ……」
マリーのどつき合いを見て、イワンが目をテンにして、ハンスが冷や汗を流した。
「まさに、カトリーヌだな……」
ポツンとヨハンが呟く。
「カトリーヌ?」
「あっ、正式名称はグラ〇ン……」
ポカンと振り返るイワンに、ヨハンが真顔で言った。
「コラコラ……」
赤面したゲルンハルトが、頭を抱えた。




