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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
155/172

連携2

「あの、いったい何本?……」


 呆れた様にヴィットは呟く。マリーは破壊された敵戦車から、何本もの砲身を切り取っていた。


「マズルブレーキが付いてるのがいいの、丁度グリップエンドみたいで持ちやすいから」


 平然と答えるマリーだったが、ヴィットは大きく溜息をついた。そんなヴィットの溜息を他所に、マリーは数本の砲身を小脇? に抱えケンタウロスに向かった。


「なあ……俺さ、降りて……」


「今度はヴィットにも働いてもらわないとね。ワタシは操縦とブッ叩くのに集中するから、ヴィットには火器をお願い。マリーは、ヴィットの呟く様な声を遮り穏やかに言った。


 そして、正面のモニターには緑色のレクチルが現れ、ハンドルの右側からガングリップの様なトリガーが出た。


「分かった」


 ヴィットはガングリップを握り締めて、低い声で言った。


「ケンタウロスの頭部ハッチが開いたら、主砲を撃ち込んでね」


 マリーは簡単に言うが、それがどれだけ困難な事なのか……走馬灯の様に蘇る前回の死闘がヴィットの手に汗を滲ませた。だが、ヴィットは明るく言った。


「俺が気絶する前にフタを開けてくれよな」


「うん」


 マリーにヴィットの気持ちが流れ込む……それは”信頼”とい言う何より強い絆だった。


____________



 マリーはケンタウロスの射程に入る寸前、地面に砲身をマズルブレーキが少し出るくらいまで深く突き刺した。そして、二本を両手? に持つとエンジン全開で突進した。


「行くよ!!」


「了解!!」


 ヴィットは返事と同時にモニターに目を凝らす。ケンタウロスは一機が前に出て、もう一機は右後方に下がった状態で前進していた。前方の一機は、射程に入ったと同時に腕や肩部の主砲をフルファィアで攻撃を開始した。


 マリーはホイールロケットのサイドキック! 寸前で躱す。しかも、その速さは尋常ではなかった。


「何ぁんだっ!!? 衝撃が物凄いぞっおっ!!」


 ヨダレを撒き散らし、ヴィットが叫んだ。


「交換したホイールロケット、出力が上がってるみたい!! 気をつけてねっ!!」


「ドワッ!!!」


 マリーも叫び返すが、ヴィットの言葉は衝撃に消し飛ばされた……”先に行ってよ”と、言う言葉を。


____________



「物凄い火力だ!」


「マリーも凄いぞっ! 殆ど躱してる!」


 双眼鏡を覗くゲルンハルトが叫び、イワンはマリーの異次元の動きに叫び返す。


「でも、マリーは距離を取ってるな! あれじゃ”棍棒”が使えない」


「多分、敵の残弾を減らす作戦だ」


 同じく叫ぶハンスの後ろで、ヨハンがボソッと呟いた。


「そうだな、弾には限りがあるが……」


 双眼鏡を覗いたままゲルンハルトは呟くが、胸の中は嫌な予感に包まれていた。敵に弾を撃たせるには、自らが囮になる必要がある……だが、マリーの噴射剤だって無限ではないのだから。


____________



 リンジーはマリーの背後から迫る敵戦車に砲撃を加えながらも、胸の痛みが収まらなかった。


「何やっ!? マリー、逃げ回ってばっかや!」


「何か考えがあるのよっ!」


 不安そうに叫ぶチィコに、リンジーは笑顔で叫んだ。その笑顔はチィコの不安を一瞬で吹き飛ばした。


「そうやなっ! マリーの事やからなっ!」


 そう叫んだチィコが次の目標に向かおうとするが、進路を妨げる様に隣に並んだマチルダからオットーが叫んだ。


「マリーちゃんに向かう奴だけじゃ! お主らも弾を節約するのじゃ!」


「リンジー、残弾はどないや?」


 直ぐ振り返ったチィコの言葉に、リンジーはハッとした。既に残弾は三分の一以下になっており、完全に気付くのが遅れた。一番大切な戦いを前に、最大のミスを犯してしまった事に愕然とした。


 そのまま一瞬で恐怖に包まれ、リンジーは瞳孔が開いて思考を停止させた。だが、その停止は瞬時に終わる。


「嬢ちゃん! しばし待つのじゃ!」


 オットーは叫ぶと同時に射程内の敵に砲弾を撃ち込む。それは的確に敵戦車の履帯や砲身だけを撃破し、あっと言う間に行動不能にした。


「おじいちゃん……」


 唖然とするリンジーを他所にマチルダをサルテンバに横付けすると、オットー達は素早くサルテンバに砲弾を補給した。


「年寄りに75mmは重いのぅ」


「なぁに、若いお嬢さんに奉仕できるのは長生きのコツじゃ」


「ワシ……腰が……」


 ポールマン大汗をかいては一人で幾つもの砲弾を抱え、ベルガー操縦は髭をピクピクさせ、キュルシナーは葉巻を咥えたまま腰を押さえてうずくまった。


 補給はあっと言う間に終わり、オットーは親指を立てた。


「……」


「流石やで、じぃちゃん達! 行くでっ!! リンジー!!」


 チィコは元気よく叫ぶが、リンジーは俯いた。


「後悔は今する事じゃないのじゃ……後でゆっくりすれば良いのじゃ」


「……」


 ”後悔”と言う言葉がリンジーを圧し潰そうとした。


「そうやで、リンジー……ウチも後悔だらけや、でもな今はそんなモン後回しや! 今はマリーとヴィットを助けるんや!」


「はっ……」


 チィコの言葉がリンジーを我に戻す。その瞬間、物凄い勢いでアリスⅡが真横を走り去った。猛然と砂塵を巻き上げて走り去る車体が、言葉でなく態度でリンジーをブッ叩いた。


「チィコ!」


「はいなっ!!」


 叫んだリンジーがハッチに飛び込むと、チィコは思い切りアクセルを踏み込んだ。見送るオットー達も、笑顔を消すと直ぐにリンジー達の後を追った。


____________



 サイドキックで砲弾を躱すマリーだったが、ケンタウロスの修正砲撃は次第に正確性を増してくる。そして、前方の機体にヴィットが必殺の砲撃を行うが、簡単に盾で防がれてしまう。


 それどころかヴィットが主砲を発射した瞬間! 後方の機体が発砲した。それは前方の機体の発砲とほぼ同時で、前方の射撃を右へのサイドキックで避けた場所に撃ち込まれた。


 サイドキックで横に避けたが、その反動に逆らってまた反対側に避けるのは流石のマリーでも無理だった。コンマ何秒の瞬間、マリーはホイールロケットを更に吹かして更なる瞬間超加速で同じ方向に飛んだ。


 だがその瞬間! マリーの装甲に砲弾が炸裂した。電磁装甲は直撃の衝撃を緩和するが、車内のヴィットに轟音と衝撃を与えた。


 鼓膜が破裂しそうな衝撃波を歯を食いしばって耐えるヴィット。


「当たったぞ! 大丈夫かっ!」


「問題ないよ!」


 マリーは更に加速すると、ケンタウロスの死角に回り込もうとするが、前方の機体の死角は瞬時に後方の機体がカバーされ、後方の機体を狙おうとすると前方の機体がカバーする。


 そして、ケンタウロスは次第にマリーの動きの先を読みだす。マリーはケンタウロスに近付く事さえ出来ず、段々と被弾が増えて行く。その度、ヴィットはマリーを心配して叫ぶが、マリーは大丈夫だと言い続けた。


 車体が各部が悲鳴を上げ、ヴィットの全身も食い込むシートベルトや物理的衝撃、爆音を伴う衝撃波が容赦なく襲った。


 そして、マリーの車体よりヴィットの体が限界を迎えそうになる……当然マリーはヴィットの安全を最優先して距離を取ろうと後退する。だが、後退は攻撃の出来ない防御であり更なるケンタウロスの攻撃を促進して、事態は最悪に傾斜を深める事になる。


 だが、最悪な状態は一発の着弾が救う。ケンタウロスの足元が猛烈な爆発で揺らいだ、その瞬間にマリーは攻勢に転じる。最大速度で横方向に回り込むと、態勢を整える。後方の機体が攻撃参加しようと瞬時に位置を変えるがするが、また、その足元で大爆発が起こる。


 ヴィットは直ぐにモニターを確認する! 最初の一撃はシュワルツティーガーの88ミリで、次の一撃はアリスⅡの超88ミリ砲だった。


「援護が来たっ!!」


「照準が狂ってる! 行くよっ!!」


 叫ぶヴィット、マリーはそのまま”棍棒”を振りかざしながら先頭のケンタウロスに最大加速で突進した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ お爺ちゃんズの的確なフォローが素敵! 今時は、この手の若者を支える年配キャラって希少ですよね。 ……需要無いのかな? 残念だ……(´・ω・`) [一言] ケン…
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