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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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信じ合うこと

「電波妨害を止めて!」


 サルテンバから飛び降りたリンジーが叫んだ。


「何だって?」


 無線機の前で、TDは驚きを隠せなかった。


「連携してキルゾーンに追い込むから!」


「でも……」


「いいから、止めろ」


 TDの横でコンラートは静かに言った。リンジーは涙を一杯に貯め、体を震わせていた。


「分かった」


 頷いたTDは、無線機の電源を落とした。


「行かないのか?」


 その場で立ち竦むリンジーに向かい、コンラートは静かに聞いた。


「行きたいけど……私はマリーとヴィットの足手まといになる」


 言葉を振り絞るリンジーの肩を、そっとチィコが抱いた。


「心配ない……マリーとヴィットには俺達が付いてる」


 コンラートの言葉は、我慢していたリンジーの涙腺を崩壊させた。泣きじゃくるリンジーに、今度はTDが優しく言った。


「マリーの修理計画を考えてる……リンジー、知恵を貸してくれるかい?」


「……」


 リンジーは泣きながらも、小さく頷いた。


_____________



 急に無線のノイズが消えると、ゲルンハルトの凛とした声が無線機から響いた。


『十字砲火で自走地雷を殲滅する』


「十字砲火って? どこにそんな援護があるんですか?」


 全く意味が分からず、ヴィットはポカンと聞いた。


『少し前まで敵だった奴らだ。暗号通信で連絡があった』


 ゲルンハルトの言葉で、無線で話した敵の指揮官の声がヴィットの耳の奥に蘇った。


「信じるんですか?」


『リンジーは信じて電波妨害を止めに戻った……それも奴らからの指示だ』


「リンジー達を戦場から遠ざける為ですか?」


『多分、そう言う事だろう』


「分かりました。キルゾーンに誘い込めばいいんですね」


『信じるのか?』


「少しでも可能性があるなら、俺は賭けます」


 ヴィットの声には覇気と強さがあった。


『同じだな……』


 思わずゲルンハルトは笑みを浮かべた。


「同じ?」


『リンジーと同じだ。可能性があるなら掛けたい……と』


「リンジーがですか?」


『そうだ……そして、我々も同じだ……どんな可能性にも賭ける。君と、マリーを救う為なら』


 ゲルンハルトの言葉は、凛として強かった。だが、マリーは黙ってヴィットとゲルンハルトの会話を聞いていた。


「マリー……俺は……」


 ヴィットは小さな声で呟くが、直ぐにマリーはちゃんとした声で答えた。


「ワタシも信じる。ヴィットや皆が信じる事……行こう、決着をつけよう」


『ワシ等とゲルンハルトが左右から牽制する。少年は正面から行くのじゃ、奴らが追って来たら真っ直ぐキルゾーンに誘い込むのじゃ。よいか、タイミングじゃ。じゃが焦りは禁物じゃ、そして決して忘れてはならん……ワシ等が付いておる事を、な』


 通信に割り込んで来たオットーの言葉は、とても穏やかだった。


「……分かったよ、爺ちゃん」


 シートに座ったヴィットは、シートベルトを強く締めた。そして、改めてマリーに向かって言った。


「さあ……行こう、マリー」


________________



『何だとっ!? さっきまで敵だったんだぞっ!! 信じるバカがいるかっ!?』


 スピーカーが破裂しそうな勢いで、ミネルバが叫んだ。


「信じるみたいだ。ヴィットとマリーは……そして、リンジー達もな」


 落ち着いた声で、ゲルンハルトは答えた。


『アンタもなのかっ!?』


「勿論だ」


 叫ぶミネルバに、ゲルンハルトは即答した。


『……バカだよ……アンタ達……』


 呟いたミネルバは無線を切った後、部下達に命令を下した……しっかりした口調で。


「援護するよ! いいかい! まんまるにT34を近付けるな!!」


_______________



「信じるか?!」


『そうね。マリーが信じてるもんね』


 ゲルンハルトからの連絡を受け、敵機と交戦しながらもリーデルは聞いた。ミリーの返事は即答で、リーデルはニヤリと笑った。


「後は任せろ、君は援護に迎え」


『分かった……無理しないでね』


「もう、無理はしてるさ……」


 翼を翻し急降下して行くミリーを目で追いながら、リーデルは呟いた。


「大佐! 前方二時! 二機の塊に向かって下さい!」


 全周警戒中のガーデマンは、的確に指示を出した。


「お前はどう思う!?」


 スロットルを全開にしてフットバーを蹴飛ばしながら聞くリーデルに、後部機銃のコッキングレバーを引いたガーデマンは笑顔で言った。


「五分五分ですけどねっ!」


「だから、どっちなんだ?!」


「大佐と同じですよ!」


 ガーデマンは散開する片方の敵機のエンジンを一発で撃ち抜き、叫んだ。


「そうだな……マリーが信じるなら、それが正解だ」


 リーデルは機体を引き起こしながら、もう片方の敵機に向かいながら呟いた。


________________



 砂煙を立て、全速でマリーはフリーに向かう。フリーは二機づつに分かれ、前方で真横に展開していた。


「二機づつ来るぞ!」


「ギリギリまで接近する! 全部を誘わないとっ!」


 ギリギリまで接近したマリーは、六輪操舵システムを全開! 超急角度でユーターンする。その速度は全く落ちず、シートベルトがヴィットの体に食い込んだ。


「牽制するぞ!」


 ヴィットは必死で照準眼鏡を覗き込み、先頭のフリー二機に主砲弾を発射した。着弾の瞬間、二機のフリーが左右に残像を残して展開! 細い足が大地を蹴って大空を舞った。


 その瞬間、シュワルツティーガーの88ミリが火を噴いた。左のフリーは空中で超機動で躱す! そして右のフリーにもマチルダが2ポンド砲を発射! だが、同じく圧搾空気のサイドキックで渾身の一撃を躱した。


「お爺ちゃん! ゲルンハルトさん!」


「大丈夫だっ! 奴らの狙いは俺達だけだっ!」


 マリーの叫びに、ヴィットが叫び返す。確かに、フリー達はシュワルツティーガーやマチルダには目もくれず、マリーだけを追っていた。


「そうみたい……でも、他の機体は追って来ない」


 マリーは後方に展開する、残存のフリーが気になった。


「確かに、二機づつしか来ないな」


 ヴィットも気付いていた。フリーは最小から、全機同時には攻めて来なかった。


「少しづつダメージを与えるつもりなのよ」


「多分そうだ……でも、十字砲火の包囲網は一回きりだし……どうする?」


 考え込むヴィットは自問自答し、マリーにも方法は浮かばなかったが、無線機の叫びにヴィットは我に返った。


『そのまま行って! 後ろの奴も追い立てるから!』


「ミリー! 大丈夫なのか?!」


『任せて! ワタシが後方! 左右はシュワルツティーガーとマチルダが追い込むから!』


「分かった! 気を付けて! マリー、行くぞ!」


「了解! 底面ロケットの噴射は後一回だけ! 一発で決める!」


 叫んだマリーは更に加速してキルゾーンに向かう! ヴィットは砲塔を後方に向け主砲を撃ちまくる! 左右はシュワルツティーガーとマチルダが動きを牽制! 後方もミリーが機銃の掃射で追い込んで行った。


______________



「配置完了です」


「残存フリーは一発で殲滅する。各部隊に連絡、一斉爆発は想像を超える。くれぐれもハッチから顔を出すなとな」


「了解、通達します」


 指揮官の言葉に、副官は敬礼した。


「しかし、見事な連携だな」


 双眼鏡で覗いた指揮官は呟き、副官も頷いた。


「戦車三輌と戦闘機一機で戦場をコントロールしてます」


「彼らは私達を信じてくれた……答えないと、な」


「はい」


 指揮官が穏やかに言うと、副官はサッと背筋を伸ばした。

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