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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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同時攻撃

「あのな、えっとな……」


 サルテンバを無線機に繋ぐ作業を見ていたリンジーの傍で、チィコが口籠った。


「ヴィットがどうしたのっ?!!」


 リンジーは、チィコの様子で瞬間に察した。


「それがな、えっとな……」


「言って!!」


 叫ぶリンジーの瞳は、既に涙が溢れていた。


「……ヴィットがな、ミネルバからな……RPG借りてな……」


 チィコの言葉と同時にリンジーは駆け出そうとするが、オットーに行く手を阻まれた。


「何処に行くんじゃ?」


「行かせてっ!」


 穏やかなオットーの声に、リンジーは泣き叫んだ。


「万全な状態のマリーちゃんなら、あんな機動など一撃で撃退じゃ……じゃが、海での戦いの傷は完全に癒えておらんのじゃ……今度も少年を庇っての戦い。マリーちゃんは、自分の命を削って、少年を守っておるのじゃ」


「……分かってる」


 オットーの言葉は、リンジーの胸に突き刺さる。マリーの飛行は明らかに回転を押さえた飛行で、その負担は計り知れなかった。


「少年はの、決してマリーちゃんを悲しませんのじゃ」


「なら、何で!? ヴィットはRPGなんか……」


 脳裏には半人型戦車との戦いが渦巻き、リンジーは激しく震えた。


「狙っても当たらん超機動じゃ、当てるならどうするのじゃ?」


「それは、電波攪乱で……」


 静かなオットー問いに、リンジーは俯きながら答えた。


「ここのアンテナは、指向性ではないのじゃ。大出力でも効果は疑わしい……ミリーちゃんのチャフも限りがある。そこで、唯一の方法は、同時多重攻撃じゃ」


「それって……」


「少年は、マリーちゃんの主砲を二門にしたのじゃ」


「えっ?」


 直ぐにリンジーは理解したが、その後の疑問の方が大きかった。


「そうじゃ。二門など、焼け石に水じゃ……考えは良いが、詰めが非常に甘い。しかし、盗賊の姉さん達も固定砲塔じゃし、ゲルンハルト達だけじゃ援護には足りん」


「私が!!」


 叫んだリンジーだったが、多くの配線を繋がれたサルテンバを思うと、胸の高鳴りが瞬時に冷えた。


「見て見なさい」


 だが、オットーの声に振り向いたリンジーは目を疑った。沢山の配線が繋がっていたはずのサルテンバには配線は無く、静かにアイドリングしていた。そして、ハッチから顔を出したチィコが微笑んでいた。


「行くで、リンジー!」


「でも、発電しないと……」


「心配ない、ほれ」


 オットーが指さす先には錆の塊の様な巨大な物体があり、ポールマン達がハンマーやスパナを振っていた。そして、真っ黒になったコンラートが悲鳴を上げていた。


「爺さん! こんなもの動く訳ないだろ!」


「ワシ等なみにくたびれておるが、コイツは生きておる」


 葉巻から煙を立て、キュルシナーが平然と言った。


「ほれ、そこの配線を繋ぐのじゃ」


 髭を摩りながら、ベルガーはボロ布みたいな配線を指さした。


「こんな汚いのは、配線じゃない!」


 涙目で叫んだコンラートだったが、ポールマンの言葉で一変した。


「この発電機が動けば電力の供給は出来るのじゃがなぁ~、さすればリンジーちゃんの喜びと感謝は独り占めじゃがのぅ」


「俺が直す!」


 物凄い勢いでコンラートは配線を繋ぎ、ポールマンがスイッチを入れると発電機は轟音と共に始動した。


「行くのじゃ」


「ありがとう!!」


 リンジーはオットーに背中を押されると、サルテンバに飛び乗った。


「あれっ? リンジーは?」


 発電機の下から物凄い汚れのまま顔を出したコンラートは、周囲を見回した。


「お主……」


「どうせ、おったんか! とか言うんだろ?」


 驚くオットーに、コンラートは面倒そうに言った。


「うんにゃ……そこ、もうすぐ焼けただれるんじゃぞ」


「どわっ!! アッチ!!!」


 背中に火の点いたコンラートは、涙を振り撒きながら走り回った。


__________________



「了解した」


 リンジーからの連絡で、ゲルンハルトは直ぐに作戦の詳細を把握した。


「なるほど、同時攻撃か……それしか、あの動きは止められないな……しかし……」


 感心するハンスだったが、目前に広がる無数のT34に溜息を付いた。


「攻撃位置に近付くのは至難の業だな……」


 他人事みたいにイワンは言うが、その目は一点だけを見詰めていた。


「どうする?」


「我々は攻撃位置を目指す」


 ヨハンの問いに、ゲルンハルトは平然と言った。


「目指すって、どうやって?」


 T34の砲撃が激化している中で、ハンスは唖然と聞いた。


「爺さん達がなんとかしてくれる」


「そうだな、信じるしかないな……」


 ゲルンハルトの言葉に、イワンは強く頷いた。


__________________



『同時攻撃が有効なのは分かった。アタシ等にどうしろと?』


 オットーの通信に納得するミネルバだったが、作戦の成功には疑念を抱いた。


「邪魔な戦車は挟み撃ちで潰すのじゃ。お主らは、このまま押して出るのじゃ」


『前に出ろって言うのかい? アタシ等は砲塔の無い突撃砲だよ、戦車じゃない。機動力のあるT34相手じゃ、分が悪い』


 当然の事だったが、オットーは平然と言った。


「心配ない、後方攪乱で相手は浮足立つのじゃ。それに対戦車自走砲の使い方は、お主らは専門家じゃからな」


『……まったく。で、後方攪乱は誰がやるんだい?』


 少し笑った様にミネルバが聞き返した。


「お主らに依頼した嬢ちゃんの部隊じゃ。じゃが、攪乱は出来ても練度は低い。お主等が仕留めるのじゃ」


『……アンタ、ただの爺さんじゃないね。何者だい?』


「ただのエロジジィじゃ、これが終わってたら……」


 オットーが言いかけた時、ブチッと通信が切れた。


「さて、後はTDに任せて、ワシ等もでるかのぅ」


 振り向いたオットーは、ポールマン達に怪しく笑った。


「何じゃ、的になりに出るのかのぅ?」


「まあ、突撃砲が前に出るんじゃ。援護してやらんと」


 ポカンと聞くベルガーに、ポールマンは面倒そうに言った。


「”大陸で最も危険な男”のお手並み拝見じゃ」


 葉巻を燻らせ、キュルシナーがニヤリと笑った。


「昔は、そんな風に呼ばれた事もあったかのぅ……」


 ニヤリと笑い返すオットーに、ポールマンは苦笑いで冷や汗を流した。


「お主、どうせまた無茶をする気じゃな?」


「当然じゃ」


 オットーの返事に、一同は大きな溜息を付いた。


_________________



「誰です?」


 オットーからの連絡を受けたブルダに、副官は怪訝な顔で聞いた。


「分からん。二手に分かれ、後方から攪乱しろと言って来た」


「盗賊共の援護ですか……」


「ああ……」


 本来ならプライドを傷つけられ、憤慨する処だがブルダは冷静だった。それは、マリー達の戦い方を目前で見た事が少なからず影響していた。


「さっきの大爆発は、何なのでしょうか?」


「敵が奪取を諦めたのかもな……」


 副官の問いに、ブルダは溜息交じりに呟いた。


「手に入らないなら、消してしまえと?」


「……未知の戦車は失っても、御曹司を失う訳にはいかない。全軍、二手に分かれ敵を両側から急襲する。今まで通り、狙わなくていい! 敵を攪乱するのだ!」


 背筋を伸ばしたブルダの号令で、戦車隊は進軍を再開した。


_________________



「了解した。敵戦車を攻撃する」


 オットーからの指示を受け、リーデルは返答した。


「マリーの援護は二両だけですか?」


「三両だ。爺さん達も出る」


 ガーデマンは心配そうに言うが、リーデルは強く返答した。


「しかし……」


 だが、どう考えても戦力は不足しておりガーデマンは眉を顰めた。


『ワタシも援護に入るから、戦車はお願いね』


「君の武装では無理だ!」


 突然入ったミリーの通信に、リーデルは思わず叫んだ。


『撃破は無理でも、援護は出来るから。それに、有効弾じゃなくても迫れば避けると思うの』


「分かった……気を付けろ」


『ありがとう。リーデルさん達も気を付けて』


 ミリーの返答を受けると、リーデルは少し笑った。


「何か、ミリーもマリーも”人”みたいですね」


「そうだな……」


 ガーデマンも笑い、リーデルは敵戦車に向け急降下に入った。


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