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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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超機動

『二足歩行の速い奴が向かってる! 気を付けろっ!』


「マリー!」


「分かった! 確認する」


 叫ぶリーデルの通信に、ヴィットが叫び返しマリーが索敵機能を全開にした。


「どうだ?!」


「速いよ、ジャンプしながら接近してる。見て……」


「何だ? この動き……」


 まだ、モニターには小さくしか映らないが、ヴィットはその見た事も無い動きに唖然とした。


「脚部が胴体下部に付いてる。あれなら前後左右に飛べるね」


 落ち着いた声でマリーは解説するが、ヴィットは言い知れぬ不安に包まれる。だが、明るい声で笑った。


「近くに行けば有人か、識別できる?」


「多分、大丈夫。でも、今の段階でも有人の可能性は低いよ、あんな高度からの着地じゃ中で潰れるし」


 確かに高高度から、減速無しの着地の様子はヴィットに冷や汗を流させた。


「そうだね、あれじゃ”潰れる”な。取り敢えず装甲は薄そうだけから、狙うのは脚だね」


「了解。着地の瞬間と、滞空中を狙うね」


 マリーの言葉には勝機が含まれていた。着地した次の瞬間は瞬間移動だが、空中での動きは戦闘機などより遅く感じた。


________________



「何?……あれ?」


『見たか? どう思う?』


 唖然と呟くリンジーに、ゲルンハルトから通信が入った。


「確かに機動性は良さそうだけど、見た感じでは火力は大した事なさそう」


『そうだな、動力だけじゃマリーには対抗できない』


「役には立たないって事?」


『そう考えるのは時期早々かもな……』


 何故か沈むゲルンハルトの声が、リンジーの胸に氷の剣を突き刺した。


『例えるなら昔、軍が開発した対トーチカ兵器パンジャンドラムじゃよ』


「何よ。それ?……」


 突然割り込んだオットーの通信は、更にリンジーの胸を締め付けた。


『言うなられば、火薬式回転推進自走地雷じゃ』


「……自走地雷……」


 リンジーが戦慄に包まれた瞬間、大爆発の轟音が彼方で響き渡った。


_________________



 周囲のT34を粗方沈黙させたマリーは、左右から接近するフリーに照準を合わせた。


「これなら、簡単だな!」


 ヴィットが叫び、マリーがやや前に出た右側のフリーに必殺の主砲を発射した瞬間! 直撃直前で主砲弾は空中で爆発した。


「撃ち落とされた!」


「何だと!」


 そして、続けて放った主砲も左側のフリーは、弾の当たる寸前に瞬間移動の様に回避された。


「気を付けろ! 圧搾空気で避けるぞ!」


 ヴィットの脳裏を以前戦った節足戦車が瞬時に過った。フリーは空中でも着地の瞬間でも、マリーの砲撃を圧搾空気の噴射で簡単に躱し、連射で回避不能な場合は主砲弾を射撃で撃ち落としたのだった。


「何て奴だ! 一旦距離を取るぞ!」


 その時点では、まだ余裕がヴィットにあった。だが、全力後退するマリーに左右のフリーは大ジャンプで一気に距離を詰めた。しかも、その背後には第二陣のフリーが連なっていた。


「速い!!」


 マリーは後退しながらも主砲を連射するが、ことごとく躱された。そして、フリーの車体からは細いアームの様なモノが出る。その先端は、吸盤の様な形状だった。


 両側から二機のフリーが、マリー側面に同時に回り込んだ。右側に主砲! 左側に機銃と対空レーザーを同時に発射! だが、砲弾も機銃弾も、レーザーさえ目標の存在しない空間に消え失せた。


「何だこれ?!」


 モニターの端々に点灯する赤い警告記号に、ヴィットは驚きの声を上げた。


「大丈夫だからっ!」


 夥しい警告記号と警告音がヴィットの心臓を鷲掴みにするが、大丈夫だと叫び返すマリーの声が不安を勇気に変えた。


「上だっ!!」


 衝突寸前! ヴィットの叫びと同時に底面ロケットを全力噴射! マリーは大空に飛び上がった。フリーは態勢を整え、一か所に集まると全機が主砲を発射した。


 砲弾は束となり、マリー下面に命中する! 瞬時に電磁装甲を展開するが、マリーの精密なシステムが轟く警告音と共にエラーを引き起こした。


「どうしたっ??!」


「ロケット噴射にエラー! 制御不能!」


 マリーが叫んだ瞬間に、物凄い数の砲弾がマリーの車体に着弾した。激震に爆音! 飛び散る火花と大量の煙、排煙システムをフル回転さえてもヴィットは煙で視界を奪われた。


「一旦降りるのか!?」


「降りたら一斉に来る!」


「飛べるのか?!」


「なんとか……でも、あれ……」


 マリーのモニターには、十数機の戦闘機が迫っていた。マリーはホイールロケットを噴射しようとするが、直ぐに盛大な警告音が鳴り響いた。


「まるで、気球だな」


「どこがよ!!」


 いつもと変わらないヴィットの声が、マリーを落ち着かせた。


『動かないで!!』


 ミリーの声が聞こえた瞬間! モニターの戦闘機が一瞬で退避して行った。


「物凄いな……動きが見えなかった」


 驚くヴィットを他所にマリーは悲鳴みたいな声を上げるが、カウンターでミリーも叫び返した。


「ミリー! お願いっ!」


『ダメ!!』


「ほらね!」


 笑顔でヴィット言った。


「えっ?」


 驚くマリーに、ヴィットは急に真剣な顔を向けた。


「ミリーには乗らないよ」


「火器管制もロケット制御もエラーが出てる! 電磁装甲もっ!! ワタシ、ヴィットを守れないっ!!」


 泣き叫ぶマリーの声が車内に響いた。でも、ヴィットは真剣な顔のまま呟いた。


「俺がマリーを守るよ」


「でも……」


『火器はヴィット! 走行機動はマリーで行って! フリーは無人だよ! 車体を狙って! ワタシが上空から援護するから!』


「頼んだよミリー!! 行こうマリー!」


『回り込む! 数秒待って! アイツ等、何か変っ! 気を付けて!』


 ミリーはそう叫ぶと、急旋回で高度を取った。


「ワタシ……」


 だが、マリーは即答しなかった。


『あなたが選んだ事なのよっ! 有人化はっ!! 最後まで自分で守りなさいっ!!』


「ミリー……」


 マリーにミリーの言葉が突き刺さる。


「そうだよ……俺もマリーを選んだんだ……だから、二人で最後まで頑張りたい……がんばろう……マリー……」


 穏やかで優しいヴィットの言葉が、マリーの奥深くに眠る闘志に火を点けた。そして、ココロの奥深くから湧き出した……限りない”勇気”が。


________________



「……分かった……行こう、ヴィット」


「うん! 着地した瞬間に突っ込むぞ!」


「了解!」


 マリーは着地した瞬間、フリーに向けて全力加速した。


「作戦はあるのっ?!」


「ジャブで牽制! 止めはワンツー!!」


 マリーの問いにヴィットが叫び、脳裏ではリンジーの父親の顔が浮かんでいた。


(どうしたヴィット? またイジメられたのか?)


 優しい笑顔に、ヴィットは俯いた。


(……)


(構えろ)


(こう?)


 拳を握り、ヴィットは構えた。


(左手をやや前に、そうだ右は少し引け)


(こうかな?)


(そうだ。そして左を小刻みに出し、タイミングを取って強く左! 直ぐに右だ!)


 マリーは二列になり向かって来るフリーに急接近する! ヴィットは機銃とレーザーを連続発射! フリーは瞬時に左右に分かれた。


 ヴィットは先頭のフリーに機銃弾を浴びせるが、フリーは左に飛んで躱した。


「ここだ!」


 飛んだ左に機銃を撃ちながら、やや右にレーザーを発射! フリーはジャンプで躱す! そこに主砲弾を撃ち込んだ! 当然フリーは圧搾空気で簡単に避けるが、ヴィットは間髪入れず主砲を撃つ! 


 そして第二射を躱した躱したフリーに更に機銃とレーザー! そして、タイミングを取り主砲を連続発射した! 


 二射目はフリーの車体を霞め、思わずマリーが叫んだ。


「その調子! 行けるよ!」


 だが、一瞬の油断が生まれた。先頭のフリーを盾にして、左右から回り込んだ後列のフリーがマリーの車体に取り付いた。マリーはアームで払い除けようとするが、フリーの腕の吸盤が完全に密着していた。


「振り解くんだっ!!」


 ヴィットが叫んだ瞬間! マリーは火の玉に包まれた!!。


『マリー!!!』


 ミリーの悲鳴が大空で炸裂した。


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