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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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フリー

『何故、余計な事を話す?』


 ヴィット達との通信を強制切断され、新たに繋がった先の声は低く怒りに満ちていた。


「気が付いた」


 指揮官はコマンダーシートに深く腰を沈め、小さく呟いた。


『何に、だ?』


 通信機の向こうの声は、強く震えていた。


「あんた、科学者なんだろ? 気付かないか?……まあ、専攻が”商売”の科学者じゃ無理もないか」


『何だと?』


 溜息交じりの指揮官の言葉に、声は更に怒りに震えた。


「脅威のFCSと攻撃力、最高の機動力、究極の防護力。地上戦はおろか、空中戦や水上戦、水中戦とあらゆる戦闘をこなす……しかも、異次元の強さでな。現在の全ての兵器は、マリーの前では”玩具”だ……マリーは人などでは到底手の届かない存在だ……分かるだろ?……あんたが本物の科学者なら、な」


『……本物の科学者……か……まあ、いい。契約を破棄する……そこで、見てろ』


 通信は切れた。明らかな相手の怒りに、指揮官は口角を上げた。


「クビになりましたね」


「ああ、これで楽になった。さて、我々の配下の部隊を撤収させろ」


 平然と副官は言い、指揮官はふっ切れった様に大きな溜息を付いた。


「この後はどうします?」


「そうだな……職を失った訳だから……」


 他人事みたいに指揮官は呟き、副官は笑いながら言った。


「出来るのは戦車戦の指揮と、兵站、作戦立案に……何か、潰しがききませんね」


「確かにな……そう言えば、傍受した無線で援護のタンクハンターを募集していたな?」


「はい、応募しますか?」


 副官は急に真面目な顔で言った。


________________



「T34を残して両翼の戦車が後退してるぞ!」


「どう見ても戦線離脱だね」


 驚くヴィットに、マリーも不思議そうに答えた。


「何か分からないけど、チャンスだ。一番前から行くぞっ!」


「誘導は?」


「少しでも減らしたいんだ……皆の、危険を」


「了解! 」


 凛としたヴィットの声に、マリーも元気よく返事した。しかし、先頭の車両の死角に回り込み、絶好の砲撃位置での射撃を……マリーは外した。


「どうしたっ!?」


「ゴメン! ミスった!」


 普通の人間なら必ずある”ミス”……だが、完璧なFSCを持つマリーのミスは、重大さが違うはずだが、ヴィットは明るく笑った。


「次は当てろよ!」


「ヴィット……」


 ヴィットには分かっていた。度重なる空戦、そしてヴィットの体を庇っての無理な飛行……それは、マリー自身の体を擦り減らしヴィットを守っていたのだった。


 何も言わないヴィットの気持ちは、ストレートにマリーに響く。マリーは、瞬間の再装填! 連射で先頭車両の砲身を打ち砕いだ。そして、超急加速で二両目三両目に接近すると、殆ど同時に砲身を破壊した。


「次は右翼から行くぞ!」


「分かった! 次弾装填に二秒待って!」


 急加速しながら、マリーは超速で次弾を装填した。


________________



 パイロットには絶対の自信と譲れない自負がある。それは、三次元の戦闘と言う、選ばれた者だけに成しうる戦い。そこにはプライドが岩の様に存在し、自我が鎧みたいに自身を覆っていた。


 だが、ミリーの空戦はパイロットの全てを根本から打ち砕く。マリーの様に異形の存在なら同じ衝撃でも当たり方は違うが、戦闘機の形を成したミリーの空戦は度合いが違っていた。


「力が抜けるな……」


「えっ、どうしました?」


 聞いた事の無いリーデルの言葉に、ガーデマンは思わず聞き返した。しかも、戦闘中に……。


「空は任せて、我々はアイツだ」


「何だあれ?」


 急にリーデルが地平の彼方に新たな脅威を視認、ガーデマンはその異形に目を見開いた。それは、地上を異常な速度で接近していた。しかも、地面を蹴って飛び跳ねる様に……。


「大きさ的には自動車くらいだ……だが、明らかに二足」


 旋回して確認したリーデルは、目を疑った。


『高機動二足型決戦兵器”フリー”……機動性に特化した新型戦車、火力と装甲はそれなりだけど、異次元の高機動で超接近して敵を撃破するの』


「あんな、凄い動き……脚部に当てるなんて無理だ」


「そうですね、車体に当たってしまう」


 ミリーの通信にリーデルが呆然と呟き、ガーデマンは人員保護の不可能さを実感した。


『大丈夫。あんな凄いジャンプ、乗員は着地の衝撃には耐えられないから』


「無人機か……それなら。残存戦闘機は任せた! 二番機! 三番機! 続け!」


 叫んだリーデルは、スロットル全開で急降下して行く。


『引き起こしの時に気を付けて!!』


 ミリーの叫びは、アドレナリンの沸騰したリーデルには届かなかった。


_________________



「如何に速くても所詮陸戦兵器。飛行機の速度には及ばない」


「着地の瞬間が狙い目です!」


 陸戦機はフリー目掛け急降下する。続く二番機と三番機も、同じように急降下で従った。そして、長年の勘はフリーの着地にドンピシャで照準した。


「何っ!?」


 だが一発必中の射線から、フリーの車体は消えた。そして、銃弾は何もない地面に夥しい爆煙を上げ、引き起こして後方を確認するリーデルの目に二番機と三番機が被弾炎上する光景が飛び込んだ。


「脱出しろっ!」


 幸い二機とも主翼の被弾で、両機の搭乗員は脱出に成功した。


『攻撃時の一番の隙は、攻撃後の引き起こし時……上昇中は回避出来ない。ごめん、敵機は直ぐに片付けるけど、今のワタシ装備じゃ装甲車程度のフリーの装甲さえ抜けない』


「後部銃座はダテじゃない! 敵砲火の軸線を逸らすなど簡単ですよ!」


「そう言う事だ、アイツをマリーには近付かせない」


『お願い……マリーをお願い』


 ミリーの声は何故か震えていた。無敵を誇るミリーの恐れ、それはフリーの異形な姿としてリーデル達の視界に具現化された。


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