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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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変心

 遠い戦場をブルダは双眼鏡越に見ていた。血走って充血した目と荒い呼吸、ブルダのプライドはズタズタだった。


「どうしてだ……」


 マリーの戦いは、ブルダの知っている戦いとは完全に違っていた。その一番の違いとは……。


「不思議な感じです……」


 横で副官が呟く。


「お前は、どう思う? 私は……違和感しか、感じない」


 ブルダの問いに、副官は少し間を空けてから答えた。


「……違和感ですか……ただ、違うのは私達の方かもしれませんね……それと……」


 副官は言葉を濁す。


「言ってみろ」


「御曹司……お迎えしても協力は、して頂けないでしょうね」


「そう、だろうな」


 溜息を付いたブルダは、呼吸が落ち着いている事に気付いた。


「御曹司に援軍です。見た所、タンクハンターの類ではなく……盗賊の様です」


「どう戦ってる?」


「敵を撃破しています。が、敵に死傷者は出していません」


 副官は機械的に答えた。


「我々は、この場所でじっとしているだけでいいと思うか?」


 ブルダは自問している様な口調で言った。


「我が隊の練度では、死傷者出さず敵を撃破する事は難しいと思われます。ですが、距離を保ち至近弾で牽制する事は出来ます」


「至近に着弾すれば、敵の集中力を削げる……か」


 ブルダは鋭い視線で言った。


「十分に援護になると思います」


「部隊に指示。距離を保ちつつ、砲撃を開始……但し、当てるな」


「了解しました」


 ブルダの指示に、副官は真顔で敬礼した。


_________________



 マリーは一定の距離を保ちつつ、敵戦車からの砲撃を真面に受けた。車内は激しい振動と、轟音に包まれる。


「当たったぞっ!!」


 反射的にヴィットが叫ぶ。


「大丈夫、距離は取ってるから」


 マリーの落ち着いた声が、ヴィットを不安に誘った。


「電磁装甲展開してるよな!」


「勿論そうしないと、セラミック装甲だけじゃ76.2mmはキツイからね」


 マリーは距離を取り、電磁装甲を展開してマージンを取りながら”ワザと”敵弾に当たっていた。そうする事で、敵はマリーを追い掛けて来る……”当たるなら倒せる”と。


 そして、また直撃弾がマリーの車体を激しく揺らした。だが、如何に敵を誘導する為でも、直撃はヴィットの胸を激しく揺さぶった。


「マリー! 避けろよ!」


「大丈夫だから……せっかく皆が協力して……」


 思わずヴィットが叫ぶが、マリーは穏やかな声で言う。しかし、ヴィットは更に叫んだ。


「嫌なんだよっ!!……マリーばっかり……」


「ありがと、ヴィット。でもね、これが最善の作戦なんだよ。こうすれば、皆が怪我しないで済むから」


「マリーはいいのかよ……」


「ワタシは平気だよ。リンジーやチィコが無事なら、どんな事も平気……」


『まんまる!! 何してやがんだっ!!』


 マリーの言葉を遮り、ミネルバの怒号がレシーバーに炸裂した。


「大丈夫だよ、ちゃんと電磁装甲……」


『ちゃんと避けろっ!! 心配させるなっ!!』


「……ミネルバ……」


 ミネルバは怒鳴ってはいるが、その声は微かに震えていてマリーは小さな溜息を付いた。


「ほらね、皆心配して……」


『マリー! 当たったでしょ! ヴィット! 何してんのよっ!!』


 今度はヴィットの声を遮り、リンジーの怒鳴り声が聞こえた。


「少しは当たらないと、誘導出来ないんだってさ」


『バッカじゃないの! マリーに当たるだけで、どれだけ、どれだけ……』


 ヴィットの返答に叫んだリンジーだったが、震えるその声は途中で雑音に紛れた。


『誘導しろと要請したが、当たれとは言っていない。マリーの被弾は、味方全員に影響を及ぼす』


 ゲルンハルトの声は明らかに怒っていた。


「マリー、と言う事だよ。皆、心配してる」


「……うん」


 マリーは次の敵弾を寸前で躱すと、小さな声で返事した。


_______________



 高度を取るフッケバインの編隊が有利なのは当然だが、敢えてミリーは正面から上昇して行く。迎え撃つフッケバイン編隊は二機づつに分かれ、三個のロッテ編隊を形成すると一隊を高高度に残して二隊がミリーに突進した。


『赤い奴、Me262を完全に凌駕してます。速度も旋回性も異次元です』


「だが、所詮レシプロだ。フッケバインの敵ではない」


 二番機の報告に一番機は毅然とした態度で返答するが、次の瞬間に凍り付いた。擦れ違い様に見舞った30mm機関砲は、ミリーの機体をすり抜け曳光弾の長い残像だけが残っていた。


『後ろです!!』


 そして三番機からの叫びに、一番機は戦慄した。すれ違って1秒も経ってないはずが、ミリーは既に一番機後方に付いていた。直ぐに二番機がフォローに入るが、機首をミリーに向けた瞬間、ミリーの機銃が一番機のエンジンを撃ち抜いた。


「墜落はしない! 離脱する! 指揮は二番機が引き継げ!」


 一番機が通信を送った瞬間! ミリーを追撃する二番機が射撃体勢に入る! だが、まるで空中で急ブレーキを掛けた様にミリーの機体が止まり、簡単にオーバーシュートさせると二番機はエンジンに被弾した。


「何なんだ……」


 そして、次第に高度が下がって行く機体をなんとか操縦しながら、一番機のパイロットは信じられない光景を目の当たりにした。


 ミリーの旋回性は常識を遥かに超えていたのだ。前後左右に上下も加え、全方向に重力も風圧も無い様に自由に動き回っていた。


 ものの数分で、フッケバイン隊は全滅した。だが、全滅と言っても墜落した機体は無くフラフラではあるが何とか飛んでいた。


「我々は敗北したのか?……」


 唖然と呟いた一番機のパイロットと、同じ感覚にリーデルも包まれていた。自身も空戦中であり、ほんの数十秒目を離した隙に全ては終わっていたのだ。


「フッケバインさえ、瞬殺か……」


「空戦能力はマリーに匹敵……いえ、勝っているかも……」


 リーデルもガーデマンの意見に頷いた。


「そうだな、空戦能力自体は同等でもエンジンが違う。当然ロケットの方が高出力だが、稼働時間が短いからな」


「そうですね、マリーがその気になれば音速を超えますよ。もっとも、ヴィットが大変でしょうけど」


 苦笑いのガーデマンは、マリーの音速飛行を連想して冷や汗を流した。


「確かに、有人は無理だな……」


 リーデルは、次の目標に向かう赤い機体を目で追いながら呟いた。


_______________



 戦況は圧倒的だった。マリーが誘導した敵は、ミネルバ配下が着実に履帯を破壊、停止した敵はシュワルツティーガーとアリスⅡが砲身を完璧に破壊した。サルテンバも負けじと発砲するが精度的には劣っていた。


 だが、リンジーは歯を食いしばってトリガーを引く。


「リンジーがんばれ! 今は無理するとこやっ!」


「任せてっ!」


 焦るリンジーの気持ちが、チィコの一言で瞬時に沈静化する。一気に制度を増した射撃で、敵戦車の砲身が花びらみたいに裂けた。


「マジかよ……」


「お前でも、あんなマネは無理だな」


 あんぐりと口を開けるイワンに向かい、苦笑いのハンスが言った。


「ぬかせ!」


 イワン渾身の一撃! だが、裂けた砲身はリンジーの様に完璧な裂け方はしなかった。


「惜しかったな!」


「まあ、今回は譲ってやるぜ!」


 大笑いするハンスに、イワンも笑顔を返した。


「いい腕だ……お嬢ちゃん。さあ、こっちも負けてられないよ!」


 ずっと双方の射撃を見ていたミネルバは、砲手の背中を思い切り蹴飛ばした。


「敵戦車の後方、こちらの援軍だ。ちゃんと、当てないで混乱させてる」


「さっき、ヴィットに追い払われた連中だな……戦い方を見つけた様だ。さて諸君、最後の追い込みだ」


 ヨハンの報告を受け、ゲルンハルトは残存敵戦車の数を確認しながら最終的な作戦を思考していた。


________________



「空も粗方、片付きました。陸戦も大詰めですね……まあ、完全に大敗です」


 他人事みたいに副官は報告した。


「で、来ると思うか?」


 指揮官の目は、遥か地平線の先を見ていた。


「更なる増援があったとしても、結果は同じでしょう……つまり、来ると思います」


「そうか……繋げるか? どうしても聞いておきたい事がある」


 腕組みした指揮官は、無線機を見据えた。


「既に周波数は押さえています」


 そう言いながら、副官はマイクを手渡した。


_______________



『マリーの搭乗員、聞こえるか?』


「何だ? 誰だ?」


 急に呼ばれ、ヴィットは首を傾げながら無線機を取った。


『そうだな、君たちの敵、と言うところだ』


「その敵が何の様だ?」


 ヴィットは強い口調で言った。


『見事な戦いだった。一つ聞きたい事がある』


「だから何だよ!?」


『自立思考戦闘システム。それだけで、君は一人で戦って来たのか?』


「俺は一人じゃない、マリーと一緒だ」


 普通なら、戦車を擬人化している様に聞こえるはずだが、指揮官には違和感があった。


『傍受した無線には、確かに女の子の声が入っていたが?』


「指揮官さんですか? 私は最強戦車のマリーです。もう、止めてくれませんか」


 マリーは悲しそうな声で懇願した。


『言ってる意味が……』


「だから、マリーは存在するんだよ!」


 少し苛立ったヴィットが叫んだ。


『まさか……』


「それなら、辻褄が合います。マリーは自我を持つ戦車なんです」


 唖然とする指揮官の横で、顔を強張らせた副官が言い放った。瞬時に指揮官の中で、全てのピースがはまった。


『いいか! フリーに気を付けろ!』


「フリー?」


 ヴィットが首を傾げた瞬間、通信は途切れた。


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