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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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負担

「マリー! そろそろだ」


「こっちは粗方片付いたね。大佐の援護に行くけど……大丈夫、ヴィット?」


 残存の敵戦車も既に戦闘力は無く、撤退を開始していた。


「あんまり大丈夫じゃないけど、行かないとね」


「それなら……」


「マリー、大佐は戦闘機相手に時間稼ぎしてくれてるんだ。俺はどんな事をしても、助けに行くよ」


 続く戦闘でヴィットは疲弊しているのが、マリーには痛い程分かった。しかも、今度は地上戦ではなく空中戦であり、ヴィットの負担は更に上がる事は確実だった。


 そんなマリーの心配をよそに、ヴィットは真剣な表情で力強く言った。


「分かった……でも……」


 その力強い声がマリーの心配を増幅させるが、ヴィットは今度は穏やかに言った。


「大丈夫だから……無理なら、無理って必ず言うよ」


「……うん」


 嘘の様にマリーの心配は浄化された。ヴィットの優しさと、思いやりのココロが確かにマリーを包み込んだ。


 マリーは底面ロケットを噴射して、大空に舞い上がる。異音は更に酷くなってるが、迷わず回転を押さえた飛行で大佐達のいる空域に向かった。


________________



「大佐っ! 装填しますっ!」


 叫んだガーデマンに答え、リーデルはフルスロットルで機体を敵機の反対側に向けた。


「後、数分の我慢だ。もうすぐマリーが来る」


「残りのドラムは二つです。何とか持ちそうです……ですが、当てないようにするのは難しいですね」


 機銃の弾倉ドラムを交換しながら、ガーデマンが笑った。敵機を混乱させ時間を稼ぐ為に、わざと後ろを取らせる。だが、敵機機銃の軸線に乗らせない様に後方機銃で軸線を塞ぐ。


 言えば簡単だが、そこには熟練の卓越した操縦と正確無比な後部銃座の射撃の腕が必要だった。


 しかもガーデデマンは敵機が致命傷にならないように、翼端だけを狙って数機の敵機を戦闘空域から離脱させていた。



「残存燃料の少ない者は帰投させろ。被害はないな?」


「全機無事です。日頃の訓練がモノを言いましたね」


 大佐達は運動性能を確保する為、増加タンクや機銃ポットなどは装備せずに機内タンクと装備機銃だけで戦っていた。


 一番苦労したのは、乱戦の中で敵機の背後を取ると機銃の一部と化した指が、反射的にトリガーを引きそうになる。そこを耐えるのが、飛行機乗りとして最大の難関だった。


 リーデルなら撃ってしまっても当てないだけの技量はあったが、部下の技量を心配していた。だが、それは危惧であり部下達は確実に任務を遂行していた。


 しかし、三十分の全力空戦はパイロットにとって身体的にも精神的にも限界に近かった。三番機が後部機銃装填の為に戦闘空域を離脱しようとしていた時、下部後方から敵機が迫っていた。


「回避!! 下部後方敵機っ!!」


 リーデルが叫び、敵機の銃弾が命中しようとした瞬間! 赤い何かが三番機と敵機の間を超高速で横切った。


「やっと来たか……」


「軸線に割り込んで、車体で機銃弾を弾き飛ばしましたね……」


 溜息を付いたリーデルの後ろで、ガーデマンが苦笑いした。


________________



「まぁに合ったのかぃ~?!」


「勿論!」


 当然、高速飛行でグルグルのヴィットには分からなかったが、マリーは元気よく答えた。そしてまた当然、すれ違いざまに敵機の翼端はレーザーで吹き飛ばしていた。


「お待たせしました! 大佐達は戻って下さい!」


『了解した。一旦補給に戻る』


 直ぐにリーデルから返答があった。その声は、レシーバー越しにも喜んでいる様に聞こえた。


「一旦って、大佐、戻る気満々だよ」


「そうみたいだなぁ~」


 嬉しそうなマリーの声、ヴィットにも(グルグルだが)大佐の気持ちは伝わった。


「さあ、行くよ!」


 旋回したマリーは、敵機の方向へ飛んで行った。


________________



「マリー……」


 監視台から、遠くマリーの空戦が見えた。リンジーは、泣きそうな顔で赤い”点”の動きを凝視していた。


「瞬時に戦闘機が戦闘不能か……しかも、最低限の飛行能力は確保させて……神業だな、全く」


 遅れて来たイワンも見慣れてるとは言え、マリーの空戦に溜息を付いた。


「でも、マリーは相当に疲弊してる……」


「そうは見えないが……」


 リンジーはマリーを見詰めたまま声を震わせるが、イワンには普通に見えた。


「回転が少ないのよ、底面ロケットだけで車体を制御してる」


「そう言えば……それが負担になるのか?」


 確かに言われてみれば回転が少ないように見えるが、イワンは首を傾げた。


「底面ロケットは、空に上がる為のモノで長時間噴射は……それに、大量の燃料を消費するの……」


 リンジーは敢えて言わなかった。心臓を串刺しにする、恐ろしい”異音”の事は。


「なら、補給体制を取らないと! リンジーはココで見てろ!」


 そう言って、イワンは監視台から走り去った。


「マリー……ヴィット……」


 呟くリンジーの頬を涙が伝う。マリーは自分を犠牲にして、ヴィットの負担を軽くしようとしている。ヴィットは猛烈な回転に耐え、体力を削りながらマリーに寄り添い戦っている。


 自分はこんな所で、何をしているのだろう……リンジーは、張り裂けそうな胸の痛みに耐えるしか出来なかった。


「リンジー! 大変や!」


「どうしたの?!」


 駆け込んで来たチィコの言葉に、リンジーの胸に氷の刃が突き刺さった。


「敵戦車がな、また来るみたいや……飛行機も追加や……」


「……そんな……」


 その言葉は、リンジーの思考能力さえ奪う……”最後通告”のようだった。


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