戦法
全力で戦っているはずの敵戦車を爆煙を上げて激走するマリーは、いとも簡単に行動不能にしていく。
「敵戦車、止まってはないよな……」
「見ろよ……死傷者ゼロ……」
「奇跡だ……」
撃破された戦車から、ノソノソと敵兵が出て来る様にブルダの部下たちは口々に唖然と呟く。そして、それは何時しか歓声に変わる。
見た事も無い”超兵器”が自分達の味方だと言う興奮が周囲を支配した。
「あれが量産されれば、戦闘の定義さえ根本から変わりますね。報告によると、対空戦闘はおろか、水上や水中戦闘さえ可能……まさに”万能の神”の領域です」
副官の呟きは、ブルダに新世界秩序を予感させた。
「我が財団は世界さえ制する……」
ブルダは体を震わせ興奮するが、直ぐにヴィットの罵声が通信機に炸裂した。
『早く下がれっ! 側面から来るぞっ!』
確かに神速で撃破しても、敵は洪水の様に湧いて来る。限りある弾薬と燃料で、全てを撃破するのは不可能に近い。ブルダは達が撤退する事で、唯一マリーは守備範囲を狭くする事が出来るのだった。
「我々は足枷になってる様です。如何に万能兵器と言えど、補給無しに戦う事は出来ません、ですから……」
「分かってる!!」
副官の進言に、ブルダは声を荒げた。
「御曹司の機嫌を損ねると、後々厄介になります」
それでも副官は言葉を止めなかった。
「全部隊、撤退だ……交戦域外まで下がれ」
唇を噛みながら、ブルダは撤退の指示を出した。
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「やっと下がったか」
「追撃はないみたね」
安堵の溜息を漏らすヴィットに、索敵を終えたマリーもホッと一息ついた。
「残り半分か。で、どうする?」
「主砲弾も機銃弾も残弾微少ね……なら、物理攻撃」
そう言うと、マリーは近くの戦車の砲身をレーザーで切断し始める。
「何してんの?……」
冷や汗を流すヴィットを尻目に、マリーは切断した砲身をアームで掴んで振り回した。
「これで、ブッ叩くの」
「叩くって……」
「砲身や防盾は固いけど、砲自体の構造部は直接打撃に耐えられないのよ」
「そうかもしれないけど……」
マリーが砲身を振り回し、暴れる姿を想像したヴィットは更に冷や汗を流した。
「それじゃ、やってみるよ」
マリーは全速で敵戦車に向かう。当然、砲撃はホイールロケットのサイドキックで簡単に躱しながら。
マリーは敵重戦車の死角から側面に回り込むと、振りかぶった砲身を敵戦車の砲身根本に叩き込む。轟音と火花が飛び散り、敵戦車の砲身は変な方向に折れ曲がった。返す刀で同軸機銃と全面ボールマウント機銃の砲身を圧し折った。
敵戦車は瞬時に攻撃力を失い、動くだけの乗り物になった。
「これなら、弾薬節約になるでしょ」
「そりゃ、そうですけど……」
嬉しそうなマリーの言葉に、ヴィットは苦笑いした。そのまま(砲身を振り回しながら)、マリーは次の目標に向かい全力ダッシュ! 残る敵兵力は無害な移動車両に変わっていった。
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「見たか?」
「ええ、棒で戦車を無力化してますね……あんな事も出来るんだ……あれじゃ、強力な戦車砲など、必要無いですね」
双眼鏡から目を離した指揮官が唖然と呟き、副官は呆れた様に言った。
「あっと言う間に、戦車が無力化だ……あれじゃ、後はブルドーザーか牽引車ぐらいにしか使い道がないな」
思わず指揮官は苦笑いした。
「戦闘機隊も近付いてますが、あの棒でヤル気なんでしょうか?」
「あれなら、弾薬切れの心配はないからな」
副官の呆れ顔を見ながら、指揮官は他人事みたいに言った。
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「ここって?」
「ああ、山全体が要塞だな」
唖然と見つめるリンジーの横で、ゲルンハルトが腕組みしながら言った。その洞窟は小さな山の麓にあり、今は破棄された軍の要塞跡だった。
「分厚いコンクリート製だ。これなら直撃弾でも十分耐える」
イワンは洞窟? の構造物を確認しながらニヤリと笑った。
「ハンス、イワン。中を調べろ、使える物があるかもしれん」
「爺さんん達が、先に……」
ゲルンハルトが指示を出すが、イワンは苦笑いで答えた。
「全く……要塞の跡なんかに、お宝なんか無いぞ」
「要塞なら、監視台あるよね!」
呆れるゲルンハルトだったが、リンジーは真剣な目で言った。
「あるとは思うが……」
ゲルンハルトが答えた瞬間、リンジーは要塞の中に走って行った。
「イワン、頼む」
「やっぱ、俺かよ……」
後を追うようにゲルンハルトから言われるが、イワンは捨て台詞を残し直ぐに後を追った。
「チィコ、TD、戦車を中に入れろ。ハンス、爺さん達のヤツも頼む」
ゲルンハルトは直ぐに指示を出して、各自は素早く行動に入った。
「施設は殆ど破壊されてるな」
「勿体ない……あれは、超長距離通信が出来るプレミア物の通信機だぞ」
施設内部を調べたTDの横で、コンラートが涙目になっていた。
「あんた、おったんか?」
「最初から、いただろ!」
そんなコンラートをチィコがポカンと見るが、コンラートは涙を散らした。
「ほんとだ、気付かなかった」
「フーン……」
ハンスもヨハンも、存在を完全に忘れていた。




