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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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うれし涙

 チィコはマリーの手前で急ブレーキ! 車体を前後に激しく揺らし、サルテンバは爆煙を上げて止まった。


「まだやっ!!」


 だが、チィコが叫ぶと同時にリンジーがハッチから飛び出す。チィコは超信地旋回で車体の向きを変えると、敵の狙撃兵の位置を探る。だが、肉眼では察知など不可能であり、マズルフラッシュも距離と明るさの関係で視認は難しかった。


 だが一番問題なのはサルテンバの投影面積では、狙撃手の射界を全て塞ぐのは物理的にも不可能と言う事だった。


「予測される方向を塞ぐ! 後ろにピッタリ付けろっ!」


 急ブレーキでシュワルツティーガーが止まる! ヴィットが倒れているのはマリーの前だから、後ろからの狙撃は考えにくい。よって、前方よりの狙撃だとゲルンハルトは瞬時に判断した。


 チィコも寸分たがわず、サルテンバをシュワルツティーガー後ろに付けた。だが、リンジーはヴィットの目で立ち竦み、マリーはヴィットの名前を震える声で呼び続けていた。


「意識はあるのかっ!?」


 ゲルンハルトが車内から叫ぶが、リンジーは瞳孔を開いたまま動かなかった。


「なにしてるんやっ?!! アンタがしっかりせんとヴィットは助からんでっ!!」


「えっ……」


 チィコの鼓膜を破壊するような叫びで、リンジーの機能が再起動した。恐る恐る顔を近付けると、破れた服の間から防弾ベストの金属がキラリと光り、確かに貫通はしていなかった。


 リンジーは天を仰いで、物凄く大きく息を吐いた。そして、呼吸を整えるとヴィットに蹴りを入れた。


「いつまで寝てる! 唐変木!!」


「どわっ! なっ何だ!」


 強烈な蹴りでヴィットは顔面を地面に強打して、慌てて起き上がる。そこを、今度はカンウターで右ストレート! 倒れた所にストンピング(踏み鳴らす、という意味のように連続して踏む技)をお見舞いした。


「マリー! いつまでもメソメソしないっ! 直ぐに索敵! 位置を特定しなさいっ!」


 返す刀でマリーに怒鳴ったリンジーは、またヴィットにストンピングを継続した。我に返ったマリーは、慌てて索敵行動を開始する。アーカイブには、確かに敵兵の放ったマズルフラッシュの位置が記録されていた。


「リンジーはな、世界の何よりもな、誰よりもな、ヴィットが大好きなんや」


 嬉しそうにチィコが言うが、イワンは青い顔で呟いた。


「そ、そうは思えんが……」


「……これじゃ、狙撃銃で撃たれた方かマシだな……」


 ハンスも身震いするが、ヨハンは何処吹く風でよそを見ていた。


「おいおい、それくらいにしないと貫通銃創より酷い怪我になるぞ……」


 ゲルンハルトも苦笑いした。


「……みつけた」


「行きなさい! ヴィット!」


 マリーが位置を特定すると、腰に手を当てたリンジーがヴィットを見下ろした。


「い、行きたくても……」


 地面に寝転んだまま、ヴィットが全身の痛みでモタモタしていると、リンジーの顔がミルミル”鬼”に変わる。


「ヴィッ~トォ……」


「はい! 行きます!」


 飛び起きたヴィットが、マリーに飛び込んだ。


「……大丈夫なの?」


「ああ、リンジーの蹴りの方がよっぽど痛いよ……ゴメンね、心配かけて……気をつけるよ……」


 心配そうなマリーの声に、ヴィットは申し訳なさそうに頭を掻いた。本当は、マリーがどれだけ心配したか……ヴィットには痛いほど分かっていた。


「もう、嫌だよ……」


「うん……」


 短い会話の中で、二人は繋がっていた。マリーは落ち着きを取り戻すと、なんだか無性に腹が立ってきた。


「どうしたんだ?」


「なんか、物凄く頭に来た……」


 小刻みに車体を震わせるマリーに心配そうにヴィットが聞くと、マリーは呟いた途端に底面ロケットを噴射して大空に舞い上がった。当然シートベルト装着前のヴィットは、ブェェ~と言う情けない悲鳴で床に転げた。


「ゲルンハルト、お願いがあるの」


 空に舞い上がったマリーを見ながら、リンジーが呟いた。


「何だ?」


「多分、マリー物凄く怒ってる……間違いはないと思うけど、一応ついて行って」


「分かった。お前達はどうする?」


「お爺ちゃん達だけにTDの護衛は任せられないから、戻るよ」


「そうか……ハンス、追うぞ」


 ゲルンハルトはハンスの肩を蹴って、追跡の指示を出した。


「後を追うったって」


 物凄い速度で飛び去るマリーを、ハンスはアクセル全開で追った。ゲルンハルト達が行くと、チィコがリンジーに声を掛ける。


「さあ、戻るで……どないしたん?」


 返事をしないリンジーを、チィコが操縦席から見上げた。


「えっ、あれっ……どうしたんだろ……」


 リンジーは自然と溢れて来る涙が止まらずに、空を見上げた。


___________________



 狙撃現場は、そんなに遠距離ではない。マリーは強行着陸すると、物凄い砂塵を撒き散らして突進する!。


「落ち着け! 相手は生身だぞ!」


「分かってる! TDの対人間用秘匿兵器!」


 そう叫んだマリーは後部ボックスにアームを突っ込んだ。そして、なにやら取り出すと器用にアームの先に装着した。


「何、これ?……」


 ヴィットが目をテンにして、冷や汗を流す。それは、誰が見ても”ボクシンググローブ”だった。


「これなら、ブン殴っても死なないよ!」


「文字通りブッとばすのね……」


 大きな溜息でヴィットが呟いた。


__________________



「少佐殿! 敵戦車が突進してきます!!」


 見張り員の報告を受けたラヴィネンコは、軍曹を見据えた。


「同志軍曹、仕損じたのか?」


「いえ、弾は当てました……彼は運が強いのでしょう」


 軍曹はラヴィネンコの普通に見返した。


「接近戦だ!! 動きを止めろ!! 装輪戦車などタイヤを狙えば……」


 ラヴィネンコが叫んだ瞬間! マリーが突入した。


___________________



「何してるんだ?……」


 シュワルツティーガーを停車させると、ハンスがポカンと呟いた。


「グルグルパンチ……」


 イワンも呟く。確かに、どう見ても敵の真ん中でマリーがグルグルパンチで暴れている様にしか見えなかった。


 そして、半数をブッ飛ばすと、マリーは一旦止まってアームをゆっくりと弧を描くように回転させた。


「あれは、天馬座の13の星の軌跡を描く構え……」


「何だそれ?」


 ヨハンが呟くと、イワンがポカンと見た。


「そして、一秒間に85発の連打!」


 ヨハンが叫ぶ(珍しく)と、マリーは連打で敵兵をブッとばした。


「ふっふっ……あれぞ、まさしくペ〇サス流星拳!」


 興奮したヨハンが立ち上がると、イワンが青い顔で呟いた。


「おいおい……」


 ゲルンハルトは見ないようにソッポを向き、ヨハンは耳を塞いで突っ伏した。


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