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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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予感

「ヴィット……」


 敵の戦闘機を蹴散らすマリーを見詰めながら、リンジーは泣きそうな顔で呟いた。


「大丈夫や、マリーはヴィットの負担になる事なんかせえへんから」


「そうだね……」


 肩を抱くチィコの言葉で、不安定なリンジーのココロは落ち着きを取り戻した。


「じゃが、補給地点の半分はやられてしもうた。残りだけじゃと、長くはもたんのぅ」


 その横では、オットーが悲惨な現状を笑顔で語る。


「何で笑ってんだよ~」


「デアクローゼより、れ、連絡。あ、新たな地上部隊が接近中……みたいだ……」


 青褪めたTDの横で、コンラートが固まりながら言葉を詰まらせた。


「更に追加連絡。所属不明の航空機多数、こちらに向けて高速で進行中だ」


「規模と機種は?」


 平然と報告するヨハンの横で、ゲルンハルトは鋭い視線を放った。


「戦爆連合の大編隊だ」


「全く、こっちはマリーしか対空戦闘は出来ないのにな」


 また平然と答えるヨハンを、イワンは苦笑いで見た。


「機種や数は問題じゃない。補給さえ出来れば、マリーは無敵だ」


 肩をグルグル回しながら、ハンスはニヤリと笑った。


「と、言う事だ。マリーが存分に戦う為には、我々が補給を完遂する事だ」


 凛としたゲルンハルトだったが、リンジーに振り向くと優しく笑った。


「マリーばっかり……」


 そんな優しい笑顔が、リンジーには痛くて声は震える。


「嬢ちゃんよ、心配するでない。陸海空の飽和攻撃でも、マリーちゃんには効かんわい……なんせ、最強戦車じゃからな」


「そうや、マリーは最強なんやで。なんも、心配あらへん」


 優しく肩を抱くチィコの言葉はリンジーの胸を癒すが、言い知れない不安感がリンジーの背後に渦を巻いていた。


__________________



「大丈夫?……」


 一旦着陸したマリーが心配そうに声を掛けるが、ヴィットはヨダレを拭うと元気よく返事した。


「まだグルグルするけど、そんな事言ってる場合じゃないよな!」


 モニターに映る大編隊、地上レーダーも大規模な戦車部隊の接近を告げていた。


「ヴィット……」


「何だよ?」


 消えそうなマリーの声は、ヴィットに予感を告げる。


「あのね……」


「だから、何だよ? まさか、降りて見てろなんて言わないよな?」


「……」


 笑いながら言うヴィットだったが、マリーの沈黙はヴィットの体を心配しているのだと、嫌と言うほどに伝わった。


「飛んでる間は何も出来ないけどさ……補給には必要だろ? 二人でやれば、さ……少しは早く出来るし……マリー、少しは頼れよ」


 穏やかなヴィットの言葉、その最後には願望が滲んでいた。マリーがヴィットを心配するのと同じくらいに、ヴィットもマリーを心配していた。


「……うん」


 小さく返事したマリーに、ヴィットの気持ちは確かに伝わった。


__________________



 脅威はやはり、空。マリーとヴィットは迷うことなく、先に戦爆連合の航空部隊に向かった。


「編隊ごとに距離を取ってる!」


「消耗させようって魂胆! 見え見えだっ!」


 明らかに編隊ごとに距離を取る敵にマリーが叫び、ヴィットもヨダレを撒き散らして叫んだ。確かに敵機はマリーの一撃で操縦不能になり退散するが、距離を取られたら噴射剤の消耗が激しくなる。


「補給しないとっ!」


 数十の敵機を追い払い、一息つくとマリーが提案した。


「残量四分の一だ、早いに越した事はないね!」


 直ぐにヴィットも同意、補給の為に降下した。


__________________



「もう補給?……」


 明らかに早い補給時期に、リンジーの心配は否が上にも高まる。


「早すぎるな……どう思う?」


 腕組みのイワンだったが、横目でTDを見た。


「普通に考えれば、ヴィットの体力を鑑みてだと思うけど……」


「何よ! ちゃんと答えて」


 言葉を濁すTDに、リンジーが思わず叫んだ。


「マリー、底面噴射を使い過ぎだ……」


「だから、何なの!」


 TDは視線を落として呟くが、リンジーは更に声を上げた。


「本来なら、飛行と姿勢制御はホイールロケットの噴射と回転で行い、速度も回転数で決まる。だが、マリーは回転数を押さえた飛行で戦っている。水平飛行も車体を傾け、底面噴射で行ってる」


 今度はヨハンが冷静に解説した。確かにマリーの飛行は何時もとは違い、リンジーも気にはなっていた。


「……それが、どうしたのよ……」


「あの飛び方では噴射剤の消耗が激しいし、底面ロケットエンジンへの負担も大きい」


「負担って?……」


 TDの言う”負担”と言う言葉が、リンジーの胸に氷の刃を突き立てた。


「マリーのロケットエンジンの中で、ゼロ距離から飛び上がれる様に底面ロケットの出力は最大だ……そして、ホイールロケットと違い、瞬間に最大出力を発揮する様に設計されていて……長時間使用は想定されてない」


「どうなるの?……使い続けると?」


 リンジーの声が震えた。


「ロケットエンジンだけでなく、各部の故障を招くかも……」


「そんな……」


 最悪の事態が、リンジーの脳裏で爆発しそうになった。よろけるリンジーを、ゲルンハルトが支え穏やかに言った。


「マリーは選んだんだ。自分の事より、ヴィットの体の事を」


「TD! 壊れるとしたら、どこっ!」


 体の力が抜け支えられたリンジーだったが、次の瞬間に不安が炸裂した。


「動力系や兵装は丈夫だから心配ないけど、各部センサーなんかは脆弱だから……」


 リンジーには遥か彼方を降下するマリーの姿が、涙で滲んでよく見えなかった。



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