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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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抗えないモノ

『訓練で分かってると思うが、念を押しておく! 急なスロットル操作は、即フレームアウトだ! 一度速度が落ちると、加速には時間がかかる! 急旋回は避け、大きく回って速度の維持を心掛けろ! 相対速度が速いんだ! 機銃の発射タイミングを間違えるな!』


 通信機からベアーの怒鳴り声が響く。機種転換訓練で、嫌と言うほど叩き込まれた操縦のノウハウが二番機のパイロットにリフレインされた。


「了解!」


 勢い良く返事した二番機のパイロットは、素早く列機の位置に付いた。


『このまま高度を取る! 付いて来い!』


 ベアーは上機嫌だった。ジェットの速さはアドレナリンを分泌させ、30ミリ四門の重武装はベアーを強気にさせた。


 空を飛ぶからには、装甲は極限まで薄くしているだろう。まして、装輪装甲車の装甲など30ミリ機関砲が紙の様に貫通するだろうとベアーは思っていた。


 レシプロ機と比べても高翼面荷重な機体は、速度に乗るまでの動きは緩慢で不安定だったが、スピードに乗った後は異次元の速度でパイロットを虜にした。二番機のパイロットも、速度計の針が最高速度を示した辺りで冷静さを取り戻した。


 しかし、ベアーは戦闘空域に入ると目を疑った。前方にマリーを視認した瞬間、その異常さに気付いた。


『奴は空中で止まってます!!』


 無線機から入る二番機からの悲鳴に近い声は、ベアーの心臓を鷲掴みにした。


「機銃を撃ち込め!!」


 叫ぶと同時に射程外からベアーは30ミリ機銃を乱射! 続く二番機も機銃を掃射するが、ベアーはまた目を疑った。


 合計八門の曳光弾の混ざる30ミリ機銃弾は、マリーの寸前で目標を失い虚しく直進した。


 そして、物凄い勢いでマリーとすれ違う瞬間! ベアーの耳に二番機の悲鳴が激突した。


『消えましたっ!!』


「そんなバカなっ!!」


 確かにベアーの視界からも、一瞬でマリーは消えた。慌てて周囲を見回すベアーは、遥か彼方のマリーの姿に愕然とした。


「……次元が違う……違い過ぎる……」


『隊長! あんなに遠くにっ!』


 驚愕の悲鳴に近い二番機の声に、ベアーは現実に戻った。そして、大きく深呼吸すると静かに言った。


「追跡する……戦闘機隊が危ない……」


_____________________



「マリー、敵戦闘機は?!」


 急上昇したマリーが上空で静止すると、ヴィットが叫んだ。


「編隊は補給地点に向かってる! 二機のジェット戦闘機だけが真っ直ぐこちらに向かってる」


 レーダーで敵の動きを把握したマリーは、正確な情報をヴィットに告げた。


「どうする?」


「ジェット戦闘機なんか後回し、戦闘機隊に向かうよ!」


 補給地点に向かう戦闘機の数は50機以上、爆装している機体もあるだろうし、マリーに選択の迷いなんて微塵も無かった。


「そう言うと思った」


 笑うヴィットだっが、マリーが加速すると当然涙とヨダレに塗れた。


「目標視認、森を機銃掃射してる!」


「ほ、ほ、ほんとかっあ~!」


 当然、飛行中は回転しているのでヴィットには見えないが、ヨダレと共に叫んだ。


「レーザーで翼を切る!」


 突っ込むマリーは対空レーザーで戦闘機の翼端を切り飛ばすが、そのサジ加減が難しい。直ぐに墜落する様にすると、パラシュート降下したパイロットが歩兵となって補給地点を襲う可能性もある。


 だから、その場で墜落せずにコントロールを困難にして、撤退する様に壊さなければならなかった。


 だが、そんな難しい攻撃をマリーは簡単にこなす。敵戦闘機は次にコントロールを失うと離脱して行った。


「次行くよ! まだ大丈夫だよねっ?!」


「だっ、大丈夫じゃないけど行ってくれっ~!!」


 マリーはヴィットの体も心配だったが、戦闘機の攻撃に晒されるリンジー達の事を優先した。それはヴィットの意志でもあり、涙とヨダレを撒き散らしながら即答した。


「分かった! もう少し我慢して!」


 叫んだマリーは瞬時に反転すると、次の目標に向かった。一秒でも早く、ヴィットを回転地獄から解放しようと。


______________________



「何て事だ……」


 機体を捻り、上空に昇ってコントロールを失い離脱する味方機を見ながら、副長は呟いた。操縦桿を握る手は汗で濡れ、震える体の向こうには、抗えない未知の兵器が存在していた。


 その飛行は飛行兵器の挙動常識を完全に超えており、味方戦闘機は成す術もなく凌駕されていた。しかし、行動不能にするだけで撃墜しない事への疑問は、混乱した頭では考える事さえ出来なかった。


「格闘戦に持ち込んでも無駄だっ! 一撃離脱にっ……」


 副長は無線機に怒鳴るが、そんな戦法が何の役にも立たない事は分かり切っていて、その後の言葉は続かなかった。


『全機離脱しろ! 後は任せろっ!』


 諦めかけた副長の無線機から、ベアーの怒鳴り声が炸裂した。


「残存機は離脱! 基地に帰還しろ!」


 反射的に指示を出した副長は、そのまま高度を取ると彼方にベアーのジェット戦闘機を視認した。


 ベアーはスロットル全開! 二番機と並んで最高速でマリーに接近した。


「ヴィット! 一旦止まるよ!」


「どぁーっ!!」


 逆噴射を掛けながら、マリーは叫ぶ。物凄いブレーキで、ヴィットは反対方向に涙とヨダレをブチまけた。


「また静止した!! このまま一撃だっ!!」


『了解!!』


 叫んだベアーは、照準器のレチクルにマリーを捉え、今度は射程に入ると同時に機関砲のトリガーを壊れる程に握り締めた。


 だが、必殺の30ミリ機関砲弾は、今度もマリーのいない空間に虚しく吸い込まれた。


 マリーは静止状態のまま、擦れ違い様に後部対空レーザーを照射した。しかも、同時に二機に向けて……一瞬でジェット戦闘機の翼端は切り取られ、そのままコントロール不能に陥り、墜落しないように機体を維持するので精一杯になる。


「しゅ、しゅ~瞬殺~ですなぁ……」


 まだ視界はグルグルだが、ヴィットはヨダレまみれの顔で笑った。


「残りに行っていい?」


「行けよ! もう、ヤケクソだっ!」


 すまなそうに聞くマリーに、ヴィットは笑ながら叫ぶ……ヨダレと涙を拭いながら。


_____________________



『操縦不能!! コントロール出来ません!!』


 二番機の叫びが聞こえると同時に、ベアーが叫ぶ。レシプロ機とは比べ物にならない程に不安定なジェット戦闘機の操縦性は、ほんの少しの被弾で破綻する。


「脱出しろ!!」


 ベアーが叫んだ瞬間! 操縦桿の手応えが無くなり、フットバーもフニャフニャの感覚に襲われた。反射的に脱出レバーを引いてペイルアウト! 猛烈な勢いで座席ごと射出されたベアーはパラシュートで降下しながら、唖然とマリーを見ていた。


 マリーは静止状態からホイールロケットを点火すると、ゆっくりと回転し出した。そして、そのまま飛び去った。ベアー自身も、最新のジェット戦闘機も、マリーには全く眼中に無いような気がしたベアーは、飛び去るマリーを呆然と見るしか出来なかった。

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