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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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会敵

「命中まで、5・4・3・2・1、命中! 敵艦のスクリュー音停止!」


「両舷全速! 敵艦の真下に入れ!」


 聴音手からの声に、ヴォルクガングは指示を飛ばす。だが、艦が敵空母の真下に来た時、聴音手が叫んだ。


「突発音! 機体が発艦しています!」


「停止状態だぞ! 聞き間違いじゃないのか?!」


「この音……ロケットです! 離艦促進ロケットです!」


 副官の叫びで直ぐに聴音手が確認するが、確かにロケットの発射音だった。


「ロケットブースターか……だが、所詮発艦補助だ……それで、上がれるのか?」


 ヴォルクガングは思考を巡らせるが、発艦促進ロケットは攻撃機や雷撃機がフル爆装状態での発艦を補助するもので、停止状態で使えるモノではない。だが、敵機の発艦は間違いない……。


「まさか、戦闘機……」


「そうだな、燃料を少なくすれば可能かもな……相手はマリーだ。脚の遅い攻撃機では戦闘は無理だからな」


 唖然と呟く副官に、ヴォルクガングも同意した。


「どうします?」


「聴音! 駆逐艦の位置は?」


 副官の問いに、ヴォルクガングが叫んだ。


「空母の周囲を周回! 我々を探してる様です」


「出れば即、撃沈か……」


 駆逐艦二隻と至近距離の戦闘では勝ち目はない。だが、これ以上マリーの元に戦闘機を送る事は許されない。ヴォルクガングは、決意して指示を出す。


「このまま無音潜航……深度100でアップトリム最大!」


 指示を出すと同時に、副官が叫んだ。


「無茶です……アップトリムは、最大で精々70°……敵艦底に命中させる為には、かなり後方に……そうすれば、駆逐艦に補足されます」


「分かってる……」


 当然、ヴォルクガングにも分かってはいたが、何も出来ない事が歴戦のヴォルクガングでさえ冷静さを失わせた。


「マリーに助けられた命を捨てるんですか?!」


「そうだったな……」


 落ち着いた声の副官に、ヴォルクガングは苦笑いした。


「敵艦に爆発音! 発艦が止まりました!」


 その時、聴音手が叫び、瞬時にヴォルクガングは悟った。


「……大佐か……本艦は現状を維持。敵艦が曳航されるの待ち、無音潜航……この場を離脱する」


________________________



「ロケットブースターですね。上がるのは戦闘機みたいですよ」


「二番機! 付いて来い!」


 他人事の様に言うガーデマンを無視して、リーデルは急降下に入る。目標は空母の飛行甲板先端のカタパルト! ダイブブレーキが空気を切り裂き、機体の振動は視界さえ二重に見せる。


 だが、リーデルは射爆照準器から目を離さない。投弾地点に達すると、爆弾投下レバーを引く! そのまま千切れる程に操縦桿を引いてラダーを蹴飛ばし、強引に機体を引き起こす。


 当然、リーデルの放った爆弾はカタパルトに命中した。だが、不発なのか直ぐには爆発しなかった。


「二番機はっ!?」


「ドンピシャで、カタパルト付近に命中です」


 戦果を確かめたリーデルは、間髪入れずに叫ぶ。


「敵艦に繋げ!」


「もう繋がってますよ」


 無線のマイクを握ったリーデルは、落ち着いた声で送信する。


「爆弾は時限信管だ。猶予は一分、付近の者は至急退避しろ」


 そう言い放つと無線を切る。


「何か、喚いてますよ」


 苦笑いのガーデマンだったが、リーデルは吐き捨てた。


「放っとけ……三、四番機の戦果は?」


「二発をカタパルト命中、退避中です……それより、戦闘機が向かって来ませんけど」


「当然だ。奴らもプロだからな……各機に連絡、艦の戻って補給の後、マリーの援護に向かう……で、何機上がった?」


「こちらが20機、向こうは30機です」


 例え母艦をやられても任務、否、仕事を貫く姿勢にリーデルはニヤリと笑った。そして、ガーデマンは急いで確認して報告した。その直後、爆弾は爆発してカタパルトは粉々になった。


「空母一隻分か……」


「それって、成功ですかね?」


 呟くリーデルの声では占えないガーデマンは、ストレートに聞いた。


「半分は削った。まあ、マリーの補給一回分は稼げたはずだ」


「一回分ですか……」


 50機を飛行不能にして、補給一回分のマリーの性能はガーデマンの溜息を誘った。


「何だ? 溜息か?」


「はい……一回の補給で50機の戦闘機を堕とすんですよね? マリーって一体何なんでしょうかね」


 リーデルにもガーデマンの溜息の理由は分かった。


「確かにな……」


「帰ったら、爆装ですか?」


「ああ、目標は補給基地に近付く戦車だ。戦闘機は、全てマリーに任せる」


 改めて背筋を伸ばしたガーデマンの問いに、リーデルは強い視線で言うと、ガーデマンはニヤリと笑った。


「やっと、タンクキラーの腕を見せられますね」


「そう上手く行くかな? なんせエンジンだけを狙うんだぞ」


 苦笑いするリーデルの方を振り返り、ガーデマンは笑顔を消した。


「マリーに見せてらやなきゃ、ですね」


_____________________



 港を過ぎて海岸線に沿って進むデアクローゼの艦橋で、タチアナはハイデマンに正対していた。


「この後は?」


「攻撃機が帰還次第、補給の後、直ぐに出します」


 補給体制を確認しながら、ハイデマンが答えた。


「それだけ?」


 タチアナは強い視線で睨むが、ハイデマンは穏やかに見返す。


「そうですね。我が艦には攻撃機以外の戦力はありません」


「何かあるでしょ?!」


 だが、タチアナは大声で詰め寄った。


「どうしました?」


 優しいハイデマンの声に、タチアナはは言葉を震わせた。


「あんな戦力で行ったのよ……私は何も出来ない……」


「変わりましたね……」


 ハイデマンの言葉も、俯きながら震えるタチアナには届かなかった。俯くタチアナの目に涙が浮かぶ、その涙を拭うこともなくタチアナは拳を握りしめた。


「どうぞ……」


 ハイデマンは無線機のレシーバーを差し出した。


「えっ?」


「あなたには出来るはずです……援軍を呼ぶことが」


 ハイデマンの言葉がタチアナの頭の中で炸裂した。もぎ取る様にレシーバーを取ると、通信員に叫んだ。


「繋いで欲しい所があります!」


_______________________



「マリー、そろそろ出ようか? 大佐達が帰ってくる前に」


「うん、久しぶりの単独威力偵察だね」


 飛行甲板の端でヴィットがマリーに声を掛け、マリーも明るく答えた。


「ヴィット、マリー気を付けるんだよ……」


「補給は心配せんで、ええからな」


 振り向くとリンジーとチィコが、ぎこちない笑顔で近付いて来た。


「大丈夫だよ、マリーがついてるからな」


「ありがとう。リンジー、チィコ……行ってくるね」


 笑顔を向けるヴィットに続き、マリーも元気よく言った。


「後方は任せろ」


「敵は多いが、無限じゃないからな……」


「補給は早め早めだ」


 その後ろからイワンやハンス、ヨハンが来る。


「大佐達が空母を攻撃した。発艦したのは、戦闘機50機だ……心配ない、死傷者は出てないそうだ」


 後から来たゲルンハルトが、少し笑って言った。


「よいか、空中戦は気にしなくてよいが、地上戦は気をつけるのじゃぞ。絶対に顔を出してはならん……どんな状況でもじゃ」


 今度はオットーが眼鏡を光らせ、その後方では、お爺ちゃんズが全員で親指を立てていた。


「分かったよ」


 頷くヴィットを笑顔で見た後、オットーはマリーに穏やかに言った。


「マリーちゃんよ、今の言葉を必ず守るのじゃぞ」


「ありがとう、お爺ちゃん……絶対にヴィットは出させないから」


 決意した様に、マリーは言った。


「それじゃ、行って来ます!」


 ヴィットはマリーに飛び込む。そしてマリーは底面ロケット噴射すると、大空に舞い上がった。見送るリンジー達は、新たな決意と共にマリーが見えなくなるまで視線を外さなかった。


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