表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
121/172

有限と無限

 タチアナは不安を拭えなかった。自分と同じくらいの女の子が、戦いに臨む事が怖かった。


 ”気を付つけて”とは言えたが、ヴィットを守ってと言った事は後悔でしかなかった。


「お嬢様、私達に出来る事はありません」


「分かってる!」


 セルゲイの言葉に、タチアナは声を荒げた。


「彼女達に言い忘れてる言葉はありませんか?」


「……」


 何も言えないタチアナは俯くが、セルゲイは笑顔で言った。


「本心を言う事は、何も恥ずかしい事ではありません。託す事しか出来ないのなら、全てを……」


 セルゲイの言葉の途中で、立ち上がったタチアナは格納庫に向けて走り出した。見送るセルゲイは、穏やかな微笑みを浮かべていた。


 サルテンバの整備でエンジンルームに頭を突っ込むリンジーは、気配で顔を上げた。


「何よ?」


 そこには、真剣な顔のタチアナが立っていた。何も言わないタチアナに、工具を置いたリンジーが溜息交じりに言う。


「だから、何なの? 心配しなくても、ヴィットは必ず守るから」


 それでもタチアナは、黙り込む。そして、長い沈黙の後に呟いた。


「……マリーに乗ってる限り、ヴィットは大丈夫……」


「まあ、そうね」


 確かに自分達がいなくても、マリーさえ居ればヴィットは大丈夫だとリンジーも思った。だが、タチアナは悲しそうな目になってリンジーを見詰めた。


「あなたの乗ってる戦車は、マリーとは違う……」


「失礼ね、マリー程じゃなくてもサルテンバはね……」


 半分呆れた様なリンジーの言葉を遮り、タチアナは声を押し殺す。


「ヴィットにとっても同じ……あなた達を失う事は……世界の終わりと一緒だから……だから……」


「だから、何?」


 前に自分の言った言葉が、リンジーの胸に蘇る。ヴィットにとっての自分が、自分達が本当に大切なモノなのかと、自問自答した。


「アイツは、ヴィットは……真剣に怒った……あなたを悪く言うと……だから……万が一の時には……逃げて」


 俯いたまま言葉を途切れさせるタチアナ、リンジーは少し笑った。


「逃げないよ……」


「逃げて! あなた達だけでも!……私は……私には……何も出来ない……」


 一瞬声を荒げるが、後の声は後悔と呵責にかき消された。


「……出来る事はあるよ……それを探して……ヴィットを、私達を援護して」


 リンジーの言葉が、真っ暗だったタチアナの頭の中を一筋の光で照らした。


「……分かった」


 そう言ってタチアナは背中を向けて、その場を去った。だが、その背中には確かに決心と言う強い意志が溢れていた。


「どないしたんや? 今のタチアナやろ?」


 唖然と呟くリンジーの後ろに、まんまるな目を見開いたチィコが両手一杯の食料を抱えて立っていた。


「うん、頑張ってって……私達ってさ……マリーの足手まといでしかないよね」


 少し諦めの混じる口調でリンジーは呟いた。


「そうかぁ……確かに、あんまし役にたたへんなぁ」


 一瞬笑顔になったチィコは、眉を下げて直ぐに俯いた。


「そんな事はないのじゃ」


 今度はオットーが穏やかに笑っていた。


「でも……」


 俯くリンジーに、オットーは胸を張る。


「現時点で最高最強の戦車に乗っても、マリーちゃんと同じレベルで戦うのは無理なのじゃ。じゃがな、嬢ちゃん……援護は出来るのじゃ」


「TDの補給基地を……守る……ってこと、でしょ?」


 自分に出来る事……リンジーにとって、それは歯がゆい以外の何物でもなかった。


「そうじゃ。後方支援こそ、最大の援護なのじゃ。よいか、嬢ちゃん……有限か無限かを決めるのは自分自身じゃ」


 オットーの言葉がリンジーの脳裏を駆け巡る。その閃きは、全てのネガティブを一瞬でポジティブに変える。


「お爺ちゃん! お願いがあるのっ!」


__________________



「写真で見る限り、ペリスコープも装甲スリットも見当たらないな」


 ラヴィネンコ、提供された資料を見ながら呟いた。


「私には報告書の内容が信じられません。飛行機能に潜水機能、電磁装甲にレーザー兵器……発射された砲弾を狙撃……夢物語としか思えません」


 副官は険しい表情で言った。


「飛行機や戦車も開発される以前は夢物語だったさ……」


「確かにそうですが」


 吐き捨てる様に呟くラヴィネンコ、副官も小さく頷いた。


「視界確保は物理的ではなく、カメラを使ってるんだろう……ならば、カメラを破壊するだけだ」


「そうですね。視界を絶てば、必ず顔を出す」


 写真を机に叩き付けたラヴィネンコが立ち上がると、副官は背筋を伸ばした。


「どんなに優れた兵器でも、人と言う部品を破壊すれば沈黙する」


 怪しく笑うラヴィネンコが写真のマリーを睨み、副官もまた鋭い目で口元を緩めた。


「人に装甲はないですからね」


____________________



「やはり、現場はいいな……」


 指揮戦車のハッチから上半身を出し、指揮官は顔に当たる風を受けて笑みを浮かべた。


「報告があります」


「何だ?」


 車内を覗き込んだ指揮官に、副官が声を落とす。


「例の二足歩行戦車ですが、運用はクライアント自身で行うとの事です」


「何だと? 素人に何が出来る」


 明らかに不機嫌な指揮官は吐き捨てた。


「しかし、既に後方に……」


「まあ、仕方ない。現有戦力でやるしかないか……所で、奴らは?」


 脳裏で作戦を練り直す指揮官に、副官が厳しい表情で答えた。


「奴らは完全に別行動で、所在は不明です」


「そうか……」


 指揮官も厳しい表情で呟く。そして、新たな報告が入った。


「敵、強襲揚陸艦は港には入らず、海岸線に沿って北上中との報告です」


「揚陸艦だからな、港に入る必要はないだろ……だが、こちらの動きが察知されてないなら、普通に港に上陸するはずだ……」


「待ち伏せ地点、変更しますか?」


「逆かもしれんな……」


 副官の言葉に、指揮官は不敵に笑った。


「と、仰いますと?」


「察知した彼らが、待ち伏せするんだうな」


 目的地は分かってるが、コースは複数ある。しかし、起点はどれも港のはずであり、わざわざ港を避けると言う事は、察知されたと考えるの妥当だろうと副官も思った。


「小が大に勝つには、それしかありませんからね」


「マリーの戦闘力を考えると、こちらの戦力は分散配置ではなく、集中配置しなければならない。かえって待ち伏せされた方が、好都合だ……それに、情報は伝わった様だ」


「確かにそうですね……まさか、ここまで読んで暗号を送ったんですか?」


「どうかな……だが、奴らの事は嫌いだからな」


 指揮官はそう言って、怪しく笑った。その時、通信手が報告を入れた。


「空母より連絡! 空と海より攻撃を受け、交戦中との事です」


「空と海だと?」


「空は強襲揚陸艦で、海は潜水艦ですね」


 副官は報告に渋い表情をした。


「これで、察知された事が証明された……全軍に待機命令を」


「はっ、待ち伏せを待ちます」


 指揮官の命令を受け、副官は不敵に笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ