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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
120/172

存在

 港が近付くにつれ、ヴィットの不安は増大していった。作戦を考えようにも、次々に溢れる不確定要素が混乱を深くするだけだった。


「ヴィットよ、どうした?」


 飛行甲板の隅で俯くヴィットに、オットーが穏やかに声を掛けた。


「分からないんだ……どうしていいか」


「当然じゃ。なんせ、羊が狼の群れに挑むみたいなもんじゃからな」


 オットーは平然と言うが、ヴィットは声を落とすしか出来なかった。


「そうだね……皆を危険に巻き込んだし……」


「じゃが、戦い方はある」


「えっ?」


 俯くヴィットの横で、オットーは胸を張った。


「ヴィットよ、少数で大勢に勝つには地の利を生かしての待ち伏せじゃ」


「うん……でも、地図を見たけど分からないんだ」


「当然じゃ。お前さんに土地勘はないからのぅ。地図を見せるのじゃ」


 笑顔のオットーの言葉に、ヴィットは慌てて地図を広げた。その地図を見るなり、オットーは豪快に笑った。


「それはただの”地図”じゃ。旅行に行く訳じゃないぞ、戦いにはコレじゃ」


 そう言うと、オットーは古くて汚い”地図”を広げる。


「何? これ……」


「これは”地形図”じゃ。土地の高低(標高)を平面図上に等高線を用いて表すとともに、海岸線、川、崖など狭義の地形を表す地図じゃ。普通の地図では土地の起伏は分からんが、地形図には細かく表示される」


「起伏……」


 呟いたヴィットの脳裏に、地形図が3Dで浮かんだ。


「そうじゃ、起伏や泥濘地、川や砂地、全て戦車にとって大敵じゃ。裏を返せば、即ち武器となる」


「そうか、それが待ち伏せの武器なんだ」


 理解したヴィットの胸には、不安に代わり希望が湧き出す。


「見よ、この二か所は平原じゃが、片方は起伏の激しい丘陵地帯じゃ。待ち伏せとは、守り易く、しかも攻め易い場所が最適なのじゃ」


「そうか、地形図なら全て分かるんだね」


 顔を上げたヴィットの顔色に覇気が戻った。


「さて、お前さんならどの場所じゃ? 因みに、この線と線との間隔が狭ければ険しく、広ければ平坦と言う事じゃ」


「そうだな……ん? このマーク何? リンゴみたいなの……」


「それは果樹園のマークじゃ」


「そうか……ここは高低差があって、守り易いけどダメだね」


「何故じゃ?」


「だって、果樹園は村の人たちの生活を壊すよ。戦場にはしたくないんだ」


「うむ。待ち伏せの場所に攻め易さは忘れてよいぞ、なんせ攻撃主力はマリーちゃんだからのぅ……」


 ヴィットの言葉に、オットーも嬉しそうに頷いた。


「それなら、ココ。この場所なら、補給基地のTDを守るのには最適みたい」


「合格じゃ……よいか、TDはワシ等が守る。後ろは気にする必要はない、存分に戦うのじゃ」


「うん、頑張る!」


 今までのモヤモヤした気分は水平線の向こうに投げ、ヴィットは元気よく頷いた。


____________________



「マリー、あのね……」


「どうしたのリンジー?」


 格納庫のマリーは湯気を立てていたが、リンジーの様子に輝度を抑えた。


「大丈夫?」


「心配かけてごめんなさい……でも、誰も傷付けさせないから」


 車体を震わせ、マリーが呟いた。


「心配してないよ……マリーは最強戦車だもんね……」


 リンジーはタチアナに聞いた事をマリーに打ち明けようかと迷ったが、ヴィット自身を狙う部隊の存在を考え、思い止まった。やはり、マリーには集中して欲しいと思ったから。


「TDに秘密兵器を作ってもらってるの」


 興奮気味にマリーは言った。


「間に合うの?」


「ええ、TDなら大丈夫よ。畑違いだって、困ってたけど」


「対、スターリ6用なの?」


「うん……人を狙うなんて絶対許さないんだから」


 また車体を震わせ、マリーが呟いた。


「マリー……ヴィットをお願い」


「……うん」


 リンジーもまた声を震わせるが、マリーは優しい声で言った。


___________________________



「艦長、空母相手なんて久しぶりですね」


「ああ、機動部隊じゃない単独の空母だが、護衛の駆逐艦はいるだろうな」


 嬉しそうな顔の副長に、ヴォルクガングも笑みを返した。


「艦長! 空母の他に二軸推進の水上艦が左右に一隻ずつです」


 聴音員の連絡に、ヴォルクガングは直ぐに指示を出す。


「魚雷戦用意、空母の後方に回り込む! 両舷第二船速!」


「もう一隻はどうします?」


 副長の問いに、ヴォルクガングは口元だけで笑った。


「大佐の獲物を盗る訳にはいかないからな。さて、信管は抜け! 航跡に紛れてお見舞いしろ!」


「発射位置につきました!」


「浮上! 潜望鏡深度へ! 魚雷発射後、全速で空母の直下へ!」


 ヴォルクガングの指示に、副長はニヤリと笑った。


「なるほど、駆逐艦とは交戦しなくていいですからね」


「ああ、駆逐艦はマリーの脅威にはならないからな」


 ヴォルクガングは普通にマリーと呼んだ。副官は少し苦笑いしながら、脳裏のマリーを思い出した。


「未知の新兵器ですが……マリーと言う優しい名前が……」


「何だ?」


 振り返るヴォルクガングに、副長は小さく溜息をついた。


「そうですね……交戦中の今でさえ、穏やかな気持ちにしてくれます」


「……不思議な感じだ」


 呟いたヴォルクガングが艦内を見回すと、他の乗員の表情も穏やかだった。


____________________



「あの暗号、信用していいのか?」


「ああ、装置も乱数表も使わないタイプの暗号だ……あれは、我が軍の最前線で使われていたモノだ」


 表情を変えないヨハンが視線を向けると、ゲルンハルトは真剣な顔を向けた。格納庫の片隅で、シュワルツティーガーのクルーが集合していた。


「奴は、逃げた味方の戦車兵も撃ったそうだ……」


「その中には少年兵や、女の兵もいたそうだ……」


 ハンスが呟き、イワンは声を押し殺した。


「敵にも、”元”味方がいるのかもしれないな……とにかく、戦車兵にとって奴らは最悪の”敵”だ」


 ヨハンに言われた疑問を、ゲルンハルトなりに分析した。


「なあ、マリー、物凄く怒ってるぜ」


 急に表情を崩したイワンだったが、ハンスも釣られて笑った。


「全く……ヴィットの事になると……」


 ハンスの脳裏には、ヴィットを助けに行く為に修理の途中で飛び出したマリーの姿が浮かび上がった。


「俺も、怒ってる……」


 ふいに見た事もない怒った表情で、ヨハンが呟いた。


「狙いはヴィットだ……」


 ゲルンハルトの表情も険しくなった。


「それに、リンジーやチィコも危ない……」


 ハンスも急に顔色が変わる。


「イザとなったら、止めるなよ……」


「ああ……」


 鋭い視線のイワンに向かい、ゲルンハルトも強い視線のまま頷いた。


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