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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
119/172

真実

 艦橋に集まったヴィット達は、言葉少なだった。そんな雰囲気を、何故か笑みを浮かべたイワンが打破した。


「マリー以外は戦車が三両に、武装の無い装甲車が一両か……普通なら瞬殺だな」


 呆れた様にイワンが言うが、ゲルンハルトは凛としていた。


「TDの装甲車を補給基地として、戦車三両で守る。後はマリーが敵を撃滅するだけだ」


「航空戦力が約100機、戦車が大隊じゃなくて連隊、しかも二個連隊なら約140両……それだけの数を相手に幾らマリーでも無理がある」


 艦長席のハイデマンは、真剣な顔でヴィットを見た。


「そうですね、装備出来る弾薬には限りがあります。その数なら二回以上の補給が必要です」


「その際、私達は補給中のマリーを守るのに精いっぱい、補給はヴィットとTD、コンラートの三人だけでやらないといけない。少なく見積もっても、10分の危険な時間が生まれるわ」


 ヴィットは声を落とすが、リンジーが強い口調で捕捉した。頷いたリーデルは、ゲルンハルトの方を強く見た。


「補給基地を守り切れるのか?」


「戦車が30両は必要ですね……ですが実際問題、それは不可能です。せめて、航空支援が欲しい所です」


 鋭い視線でゲルンハルトはリーデルを見返すが、ヴィットが声を押し殺す。


「大佐達の仕事は海上まで……陸上戦闘は契約外です」


「誰が決めたんだ?」


「えっ?」


 リーデルは表情を緩め、穏やかに言った。ヴィットは驚いた様に目を丸くするが、ハイデマンも溜息交じりに言った。


「出血サービスだよ……陸戦なら艦載機が被弾しても、着陸すれば損耗は防げるし……そう言う事ですよね、大佐」


「そう言う事だ」


「でも……」


 ニヤリと笑うリーデルだったが、ヴィットは俯いた。


「我々の本職は対地攻撃です。スツーカ大佐の名声は、対戦車攻撃で得られたんだよ」


 ヴィットの肩を、ガーデマン優しく叩いた。


「稼働10機じゃ、焼け石に水だな。相手はの数は二個連隊だぜ」


「殲滅が目的じゃない。補給基地に近付く車両だけを叩けばいい」


 腕込みしたハンスの言葉に、リーデルは強い視線を返す。


「37mm機関砲の装弾数は?」


「二門で24発だ」


 ヨハンの問いにリーデルが答えるが、ヴィットはその数に落胆を隠せなかった。


「心配ないよ。湾内でデアクローゼが全力周回で待機してるから、10機がローテーションで補給しながら戦う。補給の時間は発着艦時間を含め八分だ」


「スゲーな。理論上、二機以上が殆どタイムラグ無しで援護し続けられる」


 驚きの声を上げるイワンだっが、ヴィットはまだ心配顔だった。そこに、潜水艦から連絡が入る。


『我々も、敵空母に対する攻撃を行います。脚さえ止めれば、発艦も着艦も出来ない』


「どうして、そこまで?」


 マイクに向かった叫ぶヴィットに、ヴォルクガングは穏やかに言った。


『君達が魚雷を防いでくれなかったら、我々乗員44名は海の藻屑だった。命を救ってもらった借りは返します』


「すみません……」


『礼を言うのは、こちらです。我々は戦争が終わっても、愚かな戦いを続けて来ました……奪うのではなく、守る戦い……君たちは我々に”道筋”を見せてくれました』


 言葉の続かないヴィットだったが、ヴォルクガングの話す内容は胸の奥に染み込み、脳裏には輝くマリーの姿が浮かんだ。その時、腕の通信機からマリーの震える声が聞こえた。


『……ごめんなさい』


「何で謝るんだよ?」


『……だって、敵の狙いはワタシなのに……皆を危険に……』


「敵の狙いがマリーなら、俺達には戦う理由がある」


「そうだ、マリーには山程の借りがあるからな」


「マリーを狙うとか、許せんちゅうねん」


 ヴィットの通信機に顔を近づけ、イワンとハンスが笑い、チィコが頭から湯気を出した。


「大好きなマリーを守るのに理由が必要?……心配ないよ、私達は皆マリーの味方だからね」


 リンジーもヴィットの横で微笑んだ。


「ヴィット。戦車や飛行機は我々でなんとかする。君はラヴィネンコに注意するんだ」


「誰ですか?」


 急に真剣な顔になったゲルンハルトに、ヴィットが生唾を飲む。


「スターリ(甲鉄)6と呼ばれる対戦車擲弾部隊の隊長だ。奴が狙うのは戦車ではなく、その乗員だ……戦時中、奴は多くの戦車兵の命を奪った」


「そうですか……でも、マリーと一緒なら大丈夫ですよ」


 嫌な予感はしたが、ヴィットは精一杯の笑顔を向けた。だが、ゲルンハルトの表情は更に険しくなった。


「全ての兵器に対し、マリーは無敵だ。だが、生身の人間相手にマリーは戦えるのか?」


 その言葉は、ヴィット全身を硬直させた。


______________________



 艦橋を出て直ぐの廊下で、タチアナが壁に背中を付けリンジーを待っていた。


「よかったわね、狙いがあなたでなくて……騒ぎが落ち着くまで、デアクローゼに隠れていなさい。後で、ゆっくり送ってあげる」


 皮肉を込めリンジーが言うが、タチアナは目を伏せたまま呟いた。


「マリーには、あなたが乗ってヴィットはこの艦に……」


「何なの? あなたヴィットの事……」


 胸にタチアナの言葉が突き刺さる。リンジーの声は、意識せずに自然と震えた。


「……違う……私とヴィットは従妹同士……ヴィットの母親エリザベータは、お爺様の一人娘……私はヴィットを、お爺様の元に連れて行くのが役目」


 目を伏せたまま呟くタチアナの言葉は、リンジーを混乱させた。


「そのお爺様って何者なの?……」


「ルーテシア皇族、メルキュール・ミハイロビッチ・ロマノヴィ……」


 聞いた事はあった。リンジーの脳裏に、気品ある優しい笑顔のヴィットの母親の顔が浮かんだ。


「でも、ヴィットのお母さんはエリーって……はっ……」


 直ぐにエリザベータの愛称が”エリー”だと言う事に気付くリンジーは、全てを悟った。


「分かったでしょ……ヴィットは前線から遠避けて」


「……何なの……今頃……」


「お爺様は、ずっと探していた」


 声を押し殺すリンジーに対し、タチアナも声を落とす。


「そんな大富豪なら、ヴィットが大切なら、何でもっと……両親を亡くしたヴィットが、どれだけ苦労したか知ってるの……」


 リンジーの声には、涙が混じっていた。


「探してたのよっ! 殆どの財産を注ぎ込み、禁断の仕事にも手を出した……」


「禁断の仕事?」


 タチアナも声を荒げる。だが、その禁断の仕事と言う言葉は、リンジーの思考を戸惑わせた。


「兵器の開発と売買……確実に大量に稼ぐには、それしかなかった……荒廃した世界では……」


「まさか……」


 唖然とするリンジーに、更に厳しいタチアナの言葉が続く。


「そうよ、戦争が無くても戦いは無くならない……盗賊とタンクハンター両方に、兵器を供給した」


「知ってるの? ヴィットの両親を奪ったのは盗賊の戦車なんだよ」


「……最近知った……」


 泣きそうなリンジーの言葉。タチアナの言葉も、揺れていた。そして、暫くの沈黙の後、タチアナはリンジーを強い視線で見詰めた。


「お願い……ヴィットを守って……」


「後方に下げてじゃ、なかったの?」


「短い付き合いだけど、アイツ……言って聞くような奴じゃないし……それと、その……あなたも気を付けて」


 タチアナは激怒するヴィットの顔を思い浮かべ、苦笑いした。そして、言葉を詰まらせながら付け加えた。


「ありがと、気を付ける」


 何か嫌味を言うんじゃないかと思っていたタチアナは、素直に返すリンジーに肩透かしを食らった。


「……どうして?」


「別に……」


 唖然と聞くタチアナに背を向け、リンジーは微笑んだ。タチアナがヴィットの従妹と知った時点で、リンジーにとってタチアナは他人ではなくなっていたから。


__________________________



「マリー……どうする?」


 格納庫で、ヴィットはマリーに聞いた。


「人に向かって武器は使えないね……でも、ヴィットを狙うなんて許さないから……」


 マリーの声は、明らかに怒っていた。


「ゲルンハルトさんに聞いたよ。奴ら、対戦車ライフルでペリスコープや履帯を狙い、乗員を車外に誘い出して狙撃するのが常套手段なんだってさ」


「対戦車ライフル弾は電磁装甲で防げるけど、補給中が危ないね。射程内には、絶対近づけない様にしないと……大丈夫、索敵センサーは対人にも有効だから」


「そうか……任せたよ、マリー」


 マリーの言葉は、ヴィットにとって絶対の信頼と同義だった。


「でもね……お仕置きはしないとね」


 車体を微かに揺らすマリーは、やはり怒っていた。


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