信頼
「これから先は、ちょっと待ってね」
マリーはそう言うと、センサーを駆使して異常を探した。数秒で探索は終了し、マリーはその場所を前照灯で照らし出した。
「地面に多くの可動部、壁にも発射口らしき開口部多数」
「どうする?」
腕組みするヴィットに、マリーは普通に言った。
「榴弾で壁を壊して脅威を排除していい?」
「……そんなことしたら、別の脅威が……」
冷や汗を流すヴィットの横で、リンジーが苦笑いした。
「そうね、天井が崩壊して全員生き埋めね」
「何も考えてないのね、だから機械は……」
呆れたようにタチアナが呟く。
「ちゃうで、マリーは皆の事が心配なんや」
ニコニコしながらチィコはタチアナの顔を見る。マリーを機会と言ったタチアナに、カチンときたリンジーも、チィコの笑顔を見ると小さく溜息を付いた。
「マリーは全て計算した上で言っている。安全でない対策など、マリーは進言しない」
「我々の常識や理論など、マリーの前では空論だ」
凛としたゲルンハルトに続き、ヨハンもボソッと呟いた。
「こんな洞窟で大砲撃っても安全? 何を根拠に?」
「根拠はマリーよ」
「何それ?」
腕組みしたリンジーを見て、タチアナが鼻で笑った。
「そうだな、マリーの言う事に間違いはない」
「あなたも、さっき否定したじゃない」
頷くヴィットに、タチアナが溜息を漏らす。
「ごめん間違いだった。世界中の何よりマリーの事、信用してる」
「マリーが無理なら、無理だ。マリーが出来ると言うなら、賭けてもいい……出来る」
「そう言う事だ。マリーの判断なら、俺達は喜んで従うぜ」
素直に謝るヴィットに続き、ハンスやイワンも頷いた。
「あなた達、正気?」
「嬢ちゃんよ。先入観など捨てて、しっかりマリーちゃんを見るがよい。その先には必ず見えるのじゃ」
「何がよ?」
今度はオットーが眼鏡をキラリと光らせた。
「未来じゃよ……それも、明るく幸せな未来じゃ」
「……おじいちゃん」
オットーの言葉に、マリーは言葉を揺らした。
「なら、好きにすればいいわ」
フンと横を向くタチアナ。ヴィットは笑顔でマリーに聞いた。
「マリー。行けるのか?」
「岩も硬いし、榴弾で発射装置だけを壊せば大丈夫だと思う」
マリーの声には自信があった。ヴィットは直ぐに皆を下がらせる。
「皆、下がって……マリー、任せた」
「行くよ!」
マリーは左右の壁にロケット榴弾を発射! 轟音が洞窟内に響き渡るが、壁の崩壊は少なく天井にも異常はなかった。
「なんや、思った程じゃないやんか」
「見て、壁に……」
唖然とするチィコの横で、リンジーが崩れた壁から覗く機械の残骸を指差す。
「構造は単純だが、発射制御は一か所でやってたみたいだな」
「マリーは岩越しに、全て見えていた訳か……」
直ぐにヨハンが解説し、ゲルンハルトも感心した様に呟いた。当面の脅威は去り、安全になった洞窟をヴィット達は先へと進んだ。
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「行き止まりだ」
それから暫く進むと、前方は行き止まりとなったいた。
「見て、扉みたいになってる……あれ? 何これ?」
前照灯が照らし出す壁には、確かに扉の様になってる場所があった。最初に見付けたリンジーは、更に不思議なモノを見付けた。
それは扉から出た、三本の紐みたいなモノだった。
「マリー、分かるか?」
「引けば開くみたい……でも、二本はダミーね」
「要するに、確率は三分の一か……って! じいちゃん触るな!」
直ぐに触ろうとするオットーに、ヴィットが大声を出す。
「こう見えても、運だけは良いのじゃ」
振り向いたオットーは眼鏡を光らせるが、他のお爺ちゃんズは溜息交じりに言った。
「運と言っても悪運じゃが……」
「ハズレを引く運なら、誰にも負けないのじゃ」
「砂漠で仁丹探す様な確立じゃ」
「亀毛兎角 ……」
「ジンタンって何?」
苦笑いのヴィットは冷や汗を流した。
「マリーが引けばいいんや」
「そうね、マリーがいいな」
チィコが微笑むと、リンジーも笑顔で同意した。
「ダメよ、各種センサーでも内部構造は分からないの。ワタシでも、運になるもん」
マリーは慌てて言うが、ゲルンハルトは穏やかに言う。
「マリーなら、誰も文句はないさ」
「でも……」
「いいんじゃない。マリー、決めなさい」
声を落とすマリーだっが、タチアナはハッチから身を乗り出すと上から目線言い放った。その態度にリンジーは過敏に反応するが、今度はヴィットが肩を叩いた。
「お嬢様の許可だ」
「そうね」
笑顔のヴィットを見ると、リンジーの興奮は嘘の様に収まる。お約束、イワンが何か言おうとするが、先に懐中電灯が顔面にメリ込んだ。
「何も言ってないのに……」
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意を決して、マリーが一本の紐を引いた。一瞬のタイムラグの後、扉が開いた。
「流石マリーや!」
チィコが飛び上がって喜ぶが、ヴィットは震える声で呟いた。
「何か、マズイぞ……」
マリーが扉の奥を照らすと、そこには巨大な丸い岩があった。
「逃げた方がいいかも……」
「そやな……」
冷や汗を流すリンジーの横で、チィコも顔を引きつらせた。
「ごめんなさぁ~い」
マリーの叫びと同時に、巨大な丸い岩がコチラに向かって転げ出した。
「こりゃ、たまげた……」
「感心してる場合かぁよぉ~早く! 逃げ〇△×※~!」
感心して頷くオットーに、ヴィットが声を枯らした。
「イ〇ディ・ジョー〇ズかぁ~!」
イワンの情けない声が、洞窟に響き渡った。




