上陸
「綺麗な島だね」
「ああ、海岸の色なんてエメラルド色だよ」
先に島に降り立ったマリーが呟くと、ヴィットもその自然の美しさに見惚れた。
「あのね、ヴィットはあまり乗り気じゃないの?」
周囲のハイテンションと違うヴィットの様子に、マリーは小さな声で聞いた。
「そんな事はないさ、何だがドキドキするよ……でも、一番嬉しいのはマリーと一緒に冒険出来る事かな」
「……ワタシも……」
ヴィットの言葉が嬉しいマリーは、消えそうな声で返事した。
「本当はさ……戦いより、冒険の方がいいよね……マチルダもサルテンバも、シュワルツティーガーもさ……戦いで使うより、冒険で使いたいよね」
「……そうだね」
それはヴィットの本音で、その言葉はマリーの中に穏やかに浸透した。だが、そんな雰囲気もオットー達の上陸でブチ壊された。
「じいちゃん! ストップ!!」
上陸した途端、猛ダッシュするマチルダにヴィットが叫ぶ。本来なら、止まらないはずのマチルダが急停車した。それもそのはず、ゲルンハルトの提案で宝の地図はヴィットが持っていたから。
「じいちゃん、宝物の隠し場所には罠や仕掛けがあるんだよ。慌ててたら、怪我じゃすまないよ」
「当然じゃ、宝を狙う者には数々の試練が待ち受けておる」
呆れ顔のヴィットの言葉にオットーも素直に頷くが、その顔には煩悩が溢れていた。
「絶対、暴走するわね」
「ああ、ジジィには失う物なんてないからな」
大きな溜息のリンジーにつられ、ゲルンハルトも溜息を付いた。
「何も無い島ね」
装甲車の上に立ち、腰に両手を当ててタチアナが吐き捨てた。
「当たり前でしょ、無人島だよ……これだから、お嬢様は……大人しく、お庭でお茶でも飲んでたらいいのに」
腕組みしたリンジーが嫌見たらしく言うが、直ぐにタチアナが反撃する。
「そうね下々の者には、こんな不便で何も無い島がお似合いね。バカンスには、もっと豪華な島じゃなくちゃ」
そんな険悪な雰囲気を壊したのは、抱えきれないくらいに野菜や果物を嬉しそうに持って来たチィコだった。
「見て見て、何ぼでもあるんや」
「どこから、拾って来た?」
満面の笑顔のチィコに、溜息交じりのヴィットが聞いた。
「そこらへんに何ぼでもあるんやで」
「美味しそうだねチィコ。でも、あまり見た事無い野菜や果物ね」
笑顔のチィコに、マリーも嬉しそうに聞いた。
「多分、原種……見慣れている普通の野菜や果物は、人が疫病や災害に耐えれるように品種改良したモノだから」
直ぐに分かったリンジーだったが、何だか変な気分に包まれた。
「原種だって? 何でこんな島に?」
驚くヴィット、リンジーも首を傾げた。
「分からないわ……でも、種類が多過ぎるわね」
そして、リンジーはチィコが抱える多くの種類に疑問を持った。
「この場所も不自然だな。まるで畑だ」
ゲルンハルトも上陸地点に広がる広大な平原に視線を移した。
「水源になる川もあるぜ」
「島の中央には木材になる針葉樹や広葉樹も豊富にある」
ハンスは遠くに流れる大きな川を見て、ヨハンは島の奥に広がる広大な森を見た。
「住もうと思えば、楽園だな」
頷くイワンだったが、タチアナが装甲車の上からキツイ視線を向けた。
「住むですって? お屋敷は? お店は?……そんな事より早く行きましょう!」
「道はあるみたい」
マリーは上陸前に島上空を旋回して、道の有無を確認していた。
「宝島だぜ、何でそんな分かり易く……」
「ヴィットは見なかったん?」
唖然と呟くヴィットに、チィコが突っ込む。
「それはその……見る余裕がなくて……」
「全く、ヘタレなんだから」
鼻で笑うリンジーに、ヴィットは顔を真っ赤にして言い放つ。
「お前も乗って見ろよ!」
「大丈夫、マリーは回転しないで飛んでくれるから。ねー、マリー」
「あはは……」
マリーは愛想笑いしか出来なかった。
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地図に×印がある洞窟までは、普通に道が通っていた。
「何か、普通の道ね……装甲車じゃなくても、通れそう」
マリーのハッチから身を乗り出したリンジーは、拍子抜けしたみたいに言う。
「よかったぁ~森の中を抜けるなら、虫とかいそうだし」
マリーは安堵の溜息を付く。
「マリーも一緒に洞窟に入るかもしれないからね。でもさ、前みたいにクモとかに絶対発砲するなよ。皆一瞬で生き埋めだからね」
「ワタシも入るの?!」
ヴィットの言葉を聞いたマリーの声が裏返った。
「いいのかぁ? 洞窟の外の方が虫、多いぞ~」
「入るっ!」
ニヤニヤしたヴィットの言葉に、マリーは即答した。
「何、前の人達……ピクニック気分で……」
マリーの直ぐ後ろで、装甲車から身を乗り出したタチアナが不満そうに言った。
「君がリンジーと仲良くしてたなら、マリーに乗れたのにな」
「私は、こっちでいい! あなた達の方が護衛には心強いから……あんな、お子様たちが護衛なんて、頼りないし」
「そうか? マリーは世界最強の戦車だぜ。しかも、航空機はおろか戦艦や潜水艦でもマリーには敵わない」
鼻息も荒いタチアナに、イワンが嬉しそうに言った。
「そんなに凄いの?」
「ああ、無敵だな」
「でも、操縦者があんなのではね」
溜息を漏らすタチアナに、今度はゲルンハルトが凛として言った。
「ヴィットとマリー、二人合わせてこそ最強なんだ」
「ふぅん、そうなんだ……」
頬杖を付いたタチアナは、前方を疾走する小さな赤い戦車に目を細めた。
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森を抜け山岳地帯に入ると直ぐに、巨大な洞窟が口を開けていた。マリーが洞窟の入り口で前照灯を照射、ヴィットは素早く内部を確認する。
壁や天井は自然の洞窟の様だが、地面は平坦でマリーの車幅や車高でも余裕がありそうだった。しかも、かなり奥まで広さはある様に見えた。
「マリーなら、入れそうです」
後ろを振り向いたヴィットが、ゲルンハルトに報告した。
「指揮は君だ。君が指示したまえ」
「はい、それでは……」
笑顔のゲルンハルトがそう言い、ヴィットが指示を出そうとした瞬間、マチルダが洞窟に飛び込んだ。そして、その数秒後、洞窟の入り口付近の天井が崩壊した。
「じいちゃん!」
ヴィット叫んだ瞬間! マリーが主砲で落下する大きな岩を狙撃! 大きな岩は砕け散る! 小さめな岩は対空機銃とレーザーで粉砕した。おかげで、マチルダの上には小石程度が落ちただけだった。
「物凄いな……」
「ああ、主砲って加減して撃てるものなのか?」
「榴弾じゃなくて、徹甲弾を使って……弱装薬のロケット砲弾てあるのか?……巨岩だけを粉砕し、洞窟の壁は無傷なんて神業だ……」
イワンが目を丸くし、ハンスがポカンと口を開け、ゲルンハルトが溜息交じりに言った。
「見たか? あれが最強戦車マリーだ」
振り向いたヨハンの言葉、タチアナは全身が鳥肌に包まれた。その前方では、オットー達が赤面して、頭を掻いていた。
「不覚……」
「面目ない……」
「だから、急ぐなと言ったんじゃ……」
「しかし、凄いのぉマリーちゃんは」
「じいちゃん達、最後尾」
ヴィットの呆れた声に、オットー達はスゴスゴと最後尾に移動した。




