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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
112/172

パートナー

「分かるのは分かるけど……」


 見せられた地図をスキャンしたマリーは、少し声を落とす。


「どうしたマリー?」


「だって、お仕事の途中だし……」


 心配そうに覗き込むヴィットに、マリーは小さく答えた。


「心配ないよ、だってあのクソ忌々しい女のお墨付きだから」


「クソって……」


 嬉しそうなリンジーに、ヴィットは苦笑いした。


「位置を特定できるかい?」


「ええ、でも、候補は三か所あるの」


 TDは海図を見詰めるが、マリーは言葉を濁す。


「三か所?」


「形状は三か所とも、ほぼ一致するんだけど大きさが違うし、場所が……」


 つまり形が同じだが、大きさの違う島が三か所見つかったと言う事だった。位置的には現在デアクローゼの場所から、ほぼ等距離で三角形を成す場所だった。


「流石に三か所とも行く時間はないな」


 腕組みしたヴィットは、現実的に考えても時間がないと思った。


「何よ! 時間なんて幾らでもあるじゃない。きっと、お金持ちの、いけ好かないお嬢様も時間なんて、クソ程持て余してるから」


「だから、クソッて言うなよ……」


「……素敵……」


 リンジーの口の悪さにヴィットは冷や汗を流すが、コンラートは頬を染めてリンジーを見詰めていた。


 艦長を筆頭に、ヴィットも目的地のルーシアの港に近い場所を支持した。オットーは勘だと言って中間地点を支持し、リンジーは何故が一番遠い場所に行くべきと言い張った。


「お前、先に遠い所に行って、ルーシアに行くついでって他の場所にも行こうとしてるな?」


「なっ何よ、そんな訳ないでしょ!」


 真っ赤になるリンジーの頭上には”図星”って文字が、ネオン入りで輝いていた。


「マリーの見解は?」


 一人落ち着いているリーデルは、落ち着いた声で言った。


「正直、分かりません。ですが、一つ気になる所が……」


「ほう、何かね?」


「それが、大切な宝物なら隠し場所を分かりにくくするはずです。ですが、地図自体の島の形も正確ですし……多分、ワタシがスキャンしなくても、ある程度時間を掛ければ誰にでも特定出来ると思います」


「なるほど……」


 マリーの答えに、リーデルは微笑んだ。確かにヴィットも、おかしいと感じていたのは事実だった。確かに形で特定出来るなら秘密と言う意味は無いし、意図的に形を変えるなら地図の意味もない。


 暫く考えたリーデルは、格納庫の入り口で不敵に笑うタチアナを見た。


「やはり、あなたが決めるのが一番良いようですね」


「そのようね」


 タチアナは積んである荷物の上に登ると、皆を見下ろした。


「何でワザワザ上からなの?!」


「声がデカイよ」


 大声でタチアナを睨むリンジーの肩を揺らし、ヴィットが冷や汗を流す。


「聞こえる様に言ってるの!」


「決めたわ……あなたの推す場所」


「えっ?」


 両手を腰に当てたタチアナが、リンジーを見ながら怪しく笑った。そして、唖然とするリンジーに向かい、タチアナが続ける。


「私は宝などには興味はないけど、ただ面白そうだから行きたいだけ。あなたを選んだ理由は、一つ……何でも物欲しそうにしてるから」


「何ですってっ?!」


「よせ……今の言葉、取り消せ。取り消さないなら今の時点で俺達は、この仕事から降りる」


「ヴィット……」


 噴火するリンジーをヴィットは強い口調で止めると、タチアナを睨んだ。


「庇うの?」


 睨み返すタチアナの視線を、ヴィットは正面から受けた。


「仲間をバカにされて、黙っていられるか。確かに粗暴で凶暴で、ブスで機械オタクで取り柄なんて、ほんの少ししかないけど……」


「おいおい……」


 ヴィットの言葉に、イワンは真っ青になる。だが、リンジーは頬を染めて俯いていた。


「……分かった、発言は取り消す……出発よ」


 荷物から飛び降りたタチアナは、そう言い残して格納庫を出て行った。


「あのう、リンジー……顔が赤いけっ……どぼっ!」


 心配そうに覗き込んだイワンの顔面に、巨大な荷物が炸裂した。


_________________________



 探検隊の編成は、マリーにヴィットとリンジー、チィコ組。装甲車にゲルンハルト、イワン、ハンス、ヨハンとタチアナ。マチルダにお爺ちゃんズと決定した。艦長とセルゲイはタチアナの参加に大反対だったが、リーデルの鶴の一声で仕方なく許可した。


「現場を見るのは悪くない……ゲルンハルト、頼む」


「分かりました……」


 リーデルの頼みを、ゲルンハルトは快諾した。


「いいのかよ、リンジー並に手を焼きそうだ」


「ひっ……」


 ハンスがゲルンハルトに耳打ちすると、何故かイワンが飛び上がった。


「パブロフの犬か……」


 呆れた様にヨハンが呟くが、ゲルンハルトは遠くで腕組みするタチアナを見た。


「ただの我がまま、お嬢様か……それとも……」


 一方、マリーの中ではリンジーが噴火していた。


「何であの女が付いて来るのよ!!」


「しゃあないやんか、来たいって言うんやから」


「チィコはいいの?!」


「ウチは別にかまんよ、なんかあの娘なぁ~」


「何よ?!」


「落ち着けよ。もう少しの辛抱だから、依頼が終われば二度と会う事なんてないから」


 溜息交じりのヴィットの言葉の”二度と会う事はない”って所で、リンジーの機嫌は回復した。


「まあ、そうね」


「リンジーは、笑顔の方が可愛いよ……」


「マリー……」


 マリーの声はとても優しくて、リンジーは怒ってばかりの自分が恥ずかしく思った。


「ちょっといいかね?」


 ヴィットはリーデルに格納庫の隅に呼び出された。


「はい?」


「マリーが怪我をするとすれば、全て君を庇ってだと言う事を忘れるな」


 言われなくても分かっていたが、リーデルがマリーの故障や損傷の事を”怪我”と言った事がヴィットには新鮮で嬉しかった。


「分かりました」


「君には、全員を無事に連れ帰る義務がある事も忘れるなよ」


 素直に返事したヴィットに対し、更にリーデルは付け加えた。それは正に期待が込められていた。期待される事の嬉しさと緊張、ヴィットは背筋が伸びる感じがした。


「でも、指揮官ならゲルンハルトさんが……」


 弱気な部分は直ぐに言葉になるが、リーデルは穏やかな笑顔を見せた。


「君とマリーのコンビが最強だからな……さて、我々は訓練だ。丁度良い標的艦も手に入った事だし……私もマリーに負けない様に腕を磨くとしよう」


 そう言うと、リーデルは笑みを浮かべたまま背中を向けた。黒ひげの艦はリーデル達攻撃隊にとって、格好の訓練になる。TDが取り付けた自動操縦装置によって、ヴィット達が探検している間、猛訓練をする事になっていた。


「がんばります」


 今度の言葉には自信が満ちていた……マリーと一緒なら、ヴィットに怖い物などなかった。マリーは嬉しそうに砲身を上下させ、真紅の車体を輝かせていた。


_________________________



 半日で当該海域に到着した。しかし、夕暮れ時となり探検は翌朝となった。


「舟艇にはマチルダと装甲車、俺とマリーは飛びます」


「それがいい。これ以上舟艇を壊したら、万が一の際に支障をきたすからな」


 ヴィットの申し出にゲルンハルトは直ぐに同意した。


「でも、マチルダどないする気なんや?」


「お宝山を余す所なく持って帰るんだってさ」


 呆れ顔のチィコに、溜息交じりのイワンが答える。


「そうじゃ、お宝を積むのにはマチルダは最適じゃ」


 チィコの呆れ顔の理由は、全ての訳の分からん荷物を降ろしたマチルダの姿だった。


「何だよ、この荷物の量は……」


 ヴィットも大きな溜息を付いた。物理法則を簡単に打ち破る膨大なガラクタの山、その中には実弾や爆薬などの危険物も平然と混じる。


「なんか、モフモフの犬が水に濡れたみたい……マチルダって、こんな形だったんだ」


 目を丸くするリンジーに、ゲルンハルトが説明した。


「当時は重装甲で防御力の高さから”戦場の女王”と呼ばれたんだ。そもそもマチルダは歩兵戦車だ。敵対戦車砲に耐えうる、移動陣地となるような厚い装甲を持ち、歩兵と行動するため速度は不要とされ重量に対して馬力が低いが、不正地走破能力は高い」


「そうなんだ……」


 頷くリンジーだったが、ヴィットは違う所を見ていた。


「歴戦の車両なんだね」


 よく見ると車体には無数の弾痕があり、ヴィットは遠い昔の戦いを想像した。


「何、これは傷跡じゃ。どんな傷でも時間が癒してくれるモノじゃ……」


 オットーの言葉はヴィットを穏やかな気持ちにした。


「でもさ、この仕事の前に修理費もらって直したんじゃなかったの?」


「機関と足回り、武装は直したんじゃが、外装まで手が回らなかったんじゃ」


「何でさ、全部出してくれただろ?」


「外装修理費は、ワシ等の燃料代になったのじゃ」


「左様ですか……」


 胸を張るオットー、ヴィットは壮絶なドンチャン騒ぎを想像して苦笑いした。そして、他のお爺ちゃんズはマチルダに大量のロープを積んでいた。


「何?」


「お宝が落ちない様に縛るのじゃ」


 振り向いたオットーの顔は、全ての名言を取り消すくらいの煩悩に溢れていた。

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