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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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宝島

「ありがとう、ございました」


 ヴィットは飛行機の格納庫で新しい機体を整備するリーデルに声を掛けた。整備の手を止めず、リーデルは背中で言った。


「少しは役に立ったかな」


「はい。おかげで助かりました……それで、マリーもお礼を言いたいと」


 頭を下げたヴィットは、腕の通信機を向けた。


『大佐、ありがとうございました。でも、ごめんなさい、大切な飛行機を……』


「慣れた機体だったが、代わりはある……気にする事はない」


「そうだよ、大佐も僕も怪我一つないんだからね。それも、マリーのおかげさ」


『でも……』


 ガーデマンも笑顔で言うが、マリーは声を落とした。


「丁度、新しい機体に替えようと思ってたところだった」


 背中越しのリーデルの声は笑ってる様だった。


「本当にありがとう、ございました」


 もう一度頭を下げたヴィットだった。


「甲板が大変な事になってるぞ、早く行け」


 背中を向けたまま、リーデルが呟く。


「そうだ、じいちゃん達が戻って来たんだ」


 思い出したヴィット、もう一度礼をすると甲板に向けて走り出した。その後ろ姿を見送るガーデマンは笑顔で呟いた。


「元気ですねぇ……」


「そうだな」


 振り向いたリーデルは、眩しそうにヴィットの背中を見た。


_______________________



「これじゃ」


「絵に描いた様な宝箱ね……」


 オットーが自慢げに宝箱を見せるが、それは誰が見ても一目瞭然、定番の”宝箱”で、思わずリンジーが溜息を漏らした。


「で、どこにあったの?」


「これは、トイレの壁をブチ壊した時に出て来たのじゃ」


 半ばあきれ顔のヴィットの問いに、オットーは胸を張る。


「船長室じゃなくて、何でトイレなんだよ?」


 当然のツッコミ。だが、オットーは眼鏡をキラリと光らせた。


「勘じゃ」


「まあ、壁って言っても軽巡だからな、普通は鉄板だ。だから、わざわざ壁を貼ってる場所は確かに怪しいけど」


「勘か……確かに、こんな事には鼻は利きそうだもんな」


 呆れた様にハンスが呟き、イワンもマジマジと宝箱を見た。


「早く開けてみようよ」


「それが、この鍵が曲者なのじゃ」


 嬉しそうに覗き込むリンジーに、オットーは苦笑いした。確かに宝箱には、豪華? な鍵が付いていた。細かく施された彫金、多分純金を含んだ合金で、その作りは芸術品の価値さえありそうだった。


「ほんま、綺麗やねぇ」


 チィコは綺麗だと微笑むが、リンジーはその横でイライラしていた。


「こんなの、ブッ壊して……」


「これこれ、この鍵は価値があるのじゃぞ」


 平然と破壊を進言するリンジーに、オットーは冷や汗を流す。


「全く、モノの価値が分からない物騒な奴だな。工夫して開けるなんて事、こんなガサツで単細胞の野獣みたいな奴には無理だよ」


「誰が野獣ですって?」


 呆れ顔のヴィットは溜息交じりに言うが、その後ろでリンジーは怒りの炎を燃え上がらせた。


「お前、本当に命が惜しくないのか?」


 ガタガタ震えるイワンが、声も同時に震わせるがリンジーが鬼の形相で睨む。


「いえ、その、リンジーの明晰な頭脳なら開けるなんて造作も無い……ゲオッ!」


 その瞬間、イワンの顔面に宝箱がメリ込んだ。


「……褒めたのに……」


「これこれ、投げてどうする……」


 大の字になるイワンの顔面から宝箱を外すと、オットーが苦笑いして箱を拾った。


「あちゃー、顔に箱の形がついとるよ」


 チィコはイワンの顔に印刷? された後を見て目を丸くした。


「貸しなさいっ!」


 オットーの手から宝箱をもぎ取ると、リンジーは甲板に叩き付けた。そして、砕けた宝箱の中からは、一枚の地図の様な物が出て来た。


「ほら、鍵は壊れてないよ」


「……箱自体も、お宝なのに……」


 泣き顔のオットーは、寂しそうに地図を拾った。


「なに、それ? 宝の地図?」


「まあ、宝箱の中にあるぐらいだから、そうなんじゃない?」


 覗き込むリンジーは満面の笑顔だが、ヴィットは呆れた様に呟いた。その地図には小さな島が描かれ、中央の山にある洞窟には×印が付いていた。


「緯度や経度の手掛かりは無しか……島の形だけでは、場所の特定は難しいわね……でも、このマーク何かしら?」


 マジマジと地図を見たリンジーは、右上に描かれた紋章に首を捻った。それは、銃と剣をクロスさせた、横向きの髑髏だった。


「それは、多分キャプテン・クックルの紋章だ」


 腕組みしたゲルンハルトには、確かに見覚えがあった。


「誰ですか? それ」


「伝説の海賊じゃ。奴の地図なら、超お宝は確実じゃ」


 オットーの目は既に$になっていた。


「でもさ、場所が分からなければ意味ないじゃん。それに、今は仕事の最中だよ」


「面白そうね」


 そこに、不敵な笑みを浮かべるタチアナがやって来た。


「無理です。我々は、あなたを送り届ける仕事があります」


 後ろから付いて来たハイデマンは、溜息交じりに言った。更にその後ろには、悲痛な顔のセルゲイも続いていた。


「お嬢様、これ以上の遅れは……」


「分かってます!」


 セルゲイの言葉を途中で遮ったタチアナは、強い視線で睨む。セルゲイは、それ以上何も言えなくて俯いてしまった。


「おいおい、今度は宝探しに行くのか?」


「そう、宝探し……艦長、地図の場所を特定できるかしら?」


 呆れ顔のヴィットの言葉に、笑みを浮かべたタチアナはハイデマンの方を見た。


「そうですね……位置情報が無いのなら、正確な海図に照らし合わせるしか……ですが、この地図の島が正確な形か分かりませんよ」


「それなら、多分心配ないですね。キャプテン・クックルは几帳面で有名だから」


「几帳面って……海賊でしょ?」


 正確さに太鼓判を押すゲルンハルトだったが、ヴィットは苦笑いした。


「キャプテン・クックルが作った海図は、超正確で超高値で取引されてるんだとさ」


 顔に宝箱の痕を付けたまま、イワンも呟く。


「そうなんだ、彼の噂はそんなのばかりだ。他には、何より家族を大事にして、特に孫娘の為には何も惜しまなかったとか……」


「一応、義賊で民間船は襲わないとか、他の海賊に襲われた船を助けたとか、色々な噂がある」


 説明するゲルンハルトに、ハンスも知ってる事を付け加えた。


「でもさ、そんな人なら宝物って言っても……」


「だからじゃよ。家族や子孫の為に莫大な遺産を残す……そんな奴じゃ」


「知ってるの?」


「うんにゃ、知らんけど……」


 あまりにも自信たっぷりのオットーに、ヴィットはドキドキしながら聞くが、お約束の返答に前向きにコケた。


「知らんのかい……」


「論議は無用よ。私か探すと決めたんだから、決定なの」


 起き上がるヴィットを上から見たタチアナは、怪しく笑った。


_______________________



 ヴィット達は艦橋に集まり、海図と地図を見比べる。当然、タチアナは艦長席に悠然と座り、ヴィット達が必死で特定してる所を、薄笑みを浮かべて見ていた。


「……さっぱり分からん」


「確かに、特定は難しいわね」


 直ぐにヴィットは溜息を付き、リンジーも苦笑いした。


「ほんま、全部同じに見えるなぁ」


 頬杖のチィコも溜息を漏らす。


「でも、何、あの態度? 司令官気取りで、ふんぞり返ってさ」


 タチアナに視線を向けたリンジーは、竜の様に鼻から息を吐く。


「まあ、仕方ないさ……それより、じいちゃん何してるの?」


「これは、脳を活性化する妙薬じゃ」


 上手そうにウィスキーを飲むオットーに、呆れ顔のヴィットが突っ込んだ。


「人の目では難しいけどな……」


「何かあるのTD?!」


 横から見ていたTDが呟くと、リンジーの目の色が変わった。


「説明しよう。マリーのセンサーなら、海図と地図を照らし合わせるなど……」


「それよ!」


 したり顔のコンラートを突き飛ばし、リンジーは格納庫に向かって一直線に走って行った。


「おいおい……」


 ヴィットの嫌な予感は最高潮に達していた。


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