宝箱→??
「大佐、大丈夫かな……」
「見れるわっきゃ、ないだお~」
デアクローゼに帰投中のマリーは心配そうに呟くが、そもそも飛行中にヴィットが答えられるはずもなかった。当然、回転数は最小限に落としての低速飛行だが、多少慣れて来たとは言え、ヴィットにとって気絶しないのが精一杯だった……涙とヨダレは別として。
「そだね……」
涙とヨダレ塗れのヴィットに、マリーは苦笑いした。
「マリー!」
「お帰りっ!!」
マリーは静かに着艦すると、満面の笑みでチィコとリンジーが駆け寄った。
「ヴィットは大丈夫なん?」
「大丈夫よ、多分ね」
急に心配顔になるチィコの頭を撫ぜ、リンジーが微笑む。大丈夫じゃないなら、マリーが落ち着いてる訳はないと、リンジーには分かり切っていた。
「ただいま。大佐達も、もう直ぐ帰って来るから」
マリーは嬉しそうに砲身を上下させる。
「車体も大丈夫そうだ」
素早く車体の傷を確認したTDが、安堵の大きな溜息を漏らす。
「よかった……」
リンジーも目視だが、マリーの車体に傷が無い事を見て小さな安堵の溜息を付いた。
「毎度の事ながら、少しは俺の事も心配しろよ……」
ボロボロになったヴィットがハッチから顔を出すと、周囲から歓声が上がった。
「褒められ慣れてないから、戸惑ってる」
なんだかアタフタするヴィットを見て、リンジーが微笑んだ。
「リンジー、強がりは止めてヴィットの胸に……どごっ!」
これまた毎度の展開、イワンの顔面に七十五ミリ砲弾がメリ込んだ。
「だから、実弾投げるなよ」
苦笑いのヴィットは、更に集まって来たデアクローゼ乗員達に取り囲まれた。
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飛行甲板上では、巻き上げ機と化したサルテンバの復旧作業が行われていた。
「スプロケット・ホイールの溶接、誰がしたのよ?」
ガチガチに溶接された巻き取りドラムは、スプロケット・ホイールに完全密着だった。
「イ~ワ~ァン!」
睨むリンジー、イワンは両手で顔面防御態勢を取るが、何も飛んで来なかった。
「仕方ないさ、ドラムが途中で外れたらマリーを助けられなかったからな」
「そうだよな~」
腕組みするゲルンハルトの言葉に、イワンは物凄い安堵の溜息を付いた。
「しかし、相手がマリーじゃなかったら、確実にあの世の行ってたな」
「……」
普通に言うヨハン、イワンは無言で青褪めた。
「でも、これで本当に外れなかったら、やっぱ、あの世かな」
「マジですか?」
嬉しそうなハンスの言葉で、イワンは必死で作業に戻るが中々外れなかった。
「ワタシ、やってみようか?」
半泣きのイワンに、マリーが助け舟を出す。
「頼む! マリー!」
縋るイワン、マリーは器用にトーチを掴むと溶接部分を熱し始める。溶接部が真っ赤に染まると、マリーは渾身の力を込める。
「あれっ?」
すると、スプロケット・ホイールはシャフトの部分からポロっと取れた。
「マァリィ~……」
「ごめんなさぁい!!」
マリーは猛スピードで逃走し、残されたイワンは石像の様に固まった。
「まったく、なんて馬鹿力なんだよ、シャフトの部分は特殊合金だぜ……」
TDも呆れた様に呟く。
「直る? TD……」
不安そうなリンジーに、笑顔のTDが答えた。
「マリーの修理に比べたら、何でもないさ」
「私がリンジーの愛機を直して……どっ熱っ!!」
触ろうとしたコンラートは、手を数倍に腫れさせてマリーを追い越し洗面所に駆け込んで行った。
「あそこ、海賊の船やで!」
「なんて、目をしてる……」
肉眼では識別出来ない距離なのにチィコは普通に言い、ヴィットは苦笑いした。そして、黒ひげ(元)の船は、デアクローゼの隣に並んで停船した。
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誰より早く乗り込んだのはオットーだった。
「とても老人の動きじゃないね」
「多分、宝物で目が眩んでるから……」
呆れるリンジーの横で、ヴィットが苦笑いした。
「おかげて助かった」
「いえ、助けたのはマリーですよ」
デアクローゼに戻ったリーデルは、直ぐにヴィットに礼を言った。
「それは謙遜だよ、君とマリーに助けられた」
ガーデマンは、笑顔でヴィットを見た。
「所で、マリーは?」
「リンジーのサルテンバ壊したんで、逃げました」
周囲を見回したリーデルに、ヴィットは笑顔で答えた。
「そうか……」
リーデルも笑顔で頷いた。
「所で、あの艦はどうしますか?」
出迎えに来たハイデマンが、リーデルに聞いた。
「乗ってみた分かったんだが、あの艦は物騒な戦闘艦だ。残しておいて、海賊の手に渡るくらいなら、海の平和の為にも沈めた方がいいと思う」
少し顔を顰めたリーデルだっが、リンジーは満面の笑顔で言った。
「それなら武器や弾薬、食料や、その他モロモロ頂いてからにしましょう」
「どっちが海賊が分からないな……」
嬉しそうなリンジーの横で、ヴィットが苦笑いした。
「まあ、そうだな……乗員、手分けして金目の、もとい、必要物資を搬入しろ!」
ハイデマンは乗員に号令を掛けた。
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次々と物資が運び込まれる。見ていたヴィットは、リンジーに声を掛けた。
「お前、目が怖いぞ……それより、じぃちゃん戻って来たか?」
「えっ、何っ?」
目を$にしたリンジーは、全く話にならなかった。
「さっき、無線で宝箱を見付けたと連絡があったのじゃが……」
ポールマンが冷や汗を流しながら言うと、ベルガーは髭を触りながら、キュルシナーは葉巻を燻らせながら、悪魔の様な笑顔でヴィットを見た。
「……なんか、凄く嫌な予感」
ヴィットは冷や汗を流しながら、苦笑いするしか出来なかった。




