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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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戦車対海賊 3

『各機、深追いはするなっ! 我々の目的は目標の消耗だ! 無理な交戦も避けろっ!』


 隊長機からの交信に、各機はレシバーのスイッチをカチカチと二度押して返答した。極限状態の空戦時には、言葉を発しての返答さえ負担になる……返答はレシバーのスイッチをカチカチ押して返答していた。


『前方一時の方向。目標は、あの高速艇だ!』


 叫ぶ隊長機に続き、編隊はマリーに向けて急降下を開始した。100ノット以上の高速も、急降下する戦闘機からすれば止まっているのと同じだった。


 機銃の掃射が容赦なくマリーの装甲で炸裂して、火花を撒き散らした。 


_______________________________



「当たった! 大丈夫かっ?!」


「平気! 20ミリなんて蚊に刺された程よ!」


 車内に響き渡る炸裂音の中、ヴィットの叫びにマリーは笑い声で返答した。


「流石に避けきれないな……どうする? 撃墜する?」


 例え致命傷にはならなくても、被弾はヴィットを心配させた。


「海の真ん中だよ……それに海賊さんとは、お友達じゃないみたいだし……」


 だが、マリーは戦闘機パイロットの事を心配していた。撃墜されて海に落ちれば、救助される見込みは少ないのだ。そんなマリーの言葉に、心配していたヴィットも笑顔になった。


「前にさ、ミリーが言ってた。飛行機は繊細で、少しでも被弾するとバランスが崩れて操縦しにくくなるんだってさ」


「そうか、その手で行こう」


 マリーは嬉しそうにそう言うと、大きく旋回して突っ込んで来る戦闘機と正対した。


_______________________________



「やはり被弾しますね。まあ、戦車に20ミリでは何の被害も出ないでしょうけど」


「船体は木製だ」


 高高度から見守るスツーカの後席でガーデマンが呟くが、リーデルは真剣な眼差しで呟いた。


「そうですね、20ミリ機関砲弾は炸裂弾。船体に当たれば粉々……ですかね」


 背中合わせの状態から、振り向いたガーデマンはリーデルの横顔を窺った。


「少しでも敵戦力を減らす……」


 呟くリーデルの横顔に微かな悲壮感の様なモノを見たリーデルは、小さく溜息を付いた。


「大佐らしくないですよ……マリーは船体を失っても大丈夫です。海上も海中も行動可能なんですから」


「まだ……傷は癒えてない」


 深海からの生還から、時間が経ってない事をリーデルは心配していた。車体や体の傷は癒えても、ココロの傷は簡単に癒えない……誰でも知っている事だが、リーデルが他人に対し、心配している事の方がガーデマンには驚きだった。


「仕方ないですね……でも、相手出来るのは精々、二機ですよ。それ以上はコッチが海水浴ですからね」


「三機は落す」


 リーデルはそう呟くとスロットルを全開にして、ラダーを蹴飛ばした。


_______________________________



「あの戦闘機達、攻撃してますね……」


「邪魔はさせん! 撃ち落とせ!」


 艦橋の黒ひげは、怒りに満ちた号令を掛ける。あらゆる砲が一斉に火を噴いて、戦闘機群に襲い掛かる。だが、艦船からの砲撃は目標面積が小さく、速度のある戦闘機を捉える事など出来なかった。


 それは更に黒ひげの怒りに火を注ぐ。しかし、元来船舶との砲撃戦用に仕立てられた重砲撃艦で、対空戦闘は無理だった。戦艦や巡洋艦を含めた全ての艦船にとって、空からの攻撃はまさに”死角”なのだった。


「狙うなっ! 数を撃ちまくれっ!」


 黒ひげが叫ぶ! 確かに狙いを定めてる間に、機体は照準から消える……ならば、散弾と同じ様に弾幕を厚くするしか方法などなかった。怒りで、眼球の血管が切れそうな黒ひげの視界に、戦闘機に向かい急降下する新たな機体が飛び込んだ。


 咄嗟にルティーの言葉が脳内を駆け抜ける。


(死傷者はゼロだった……ご丁寧に、奴の仲間も皆同じだった……)


『その甘さが、つけ込む隙だな……』


 心の中で呟いた黒ひげは、命令を変えた。


「全門! 攻撃機を狙え! 翼だ! 殺すなっ! 生け捕りにするんだ! 海賊の戦い方の始まりだ!」


_______________________________



「どこの奴等だ?」


 ルティーはマリーに襲い掛かる戦闘機軍を見て、思考を巡らせる。だが、爆装している訳でもなく、無意味に近い機銃掃射をしている光景には違和感しかなかった。


「戦車に機銃か……あんな攻撃、意味があるのか?」


 傍で手下が呟く。


「意味か……目的は撃破意外だな」


「撃破意外? 他に何があるんですかい?」


 ルティーの呟きに、手下が不思議そうな顔をした。逆にルティーが質問する。


「新型戦車を見付けたら、お前ならどうしたい?」


「そりゃ、頂きたいですよ……それに、性能も知りたい」


 腕組みした手下が答えると、ルティーはニヤリと笑った。


「それだな……奴らの目的はデータ収集だ。捕獲には、ほど遠い攻撃だからな」


 ルティーが言った瞬間、見張りの手下達が次々に叫んだ。


「お頭! 別の攻撃機が戦闘機に向かってます!」


「黒ひげが攻撃機に一斉射撃!」


 一瞬でルティーは黒ひげの意図を見抜くと、次の指示を出した。


「艦を赤い奴と黒ひげの間に入れろ……」


____________________________



「大佐! 海賊の軽巡が一斉攻撃!」


「当たらない様に祈れ!」


 マリーに急降下する戦闘機に攻撃を仕掛ける軸線に乗っているリーデル機は、簡単に回避行動を取れない。ガーデマンの叫びにも、リーデルは落ち着いた声で返答した。


「狙いは我々の様です!」


 風防の外を飛び交う銃弾を目で追いながら、ガーデマンが更に叫ぶ。リーデルの中で、最悪のシナリオが完結した。だが、最悪の中でも最善を尽くす……リーデルは敵戦闘機の主翼に30ミリ機関砲を冷静に撃ち込んだ。


 敵機は翼端を吹き飛ばされ、コントロールを失うと離脱する。そのまま操縦桿を千切れる程引き起こし、機首を上げると次の獲物を狙う。


 素早くラダーを蹴り、スロットルを絞ると最少半径で向きを変える! そのまま次の目標の翼端を吹き飛ばした。


「もう一機……」


 物凄い旋回Gで顔を歪めながらも、リーデルは射爆照準器に映し出されたレクチュエルを睨む。その中心が、敵戦闘機の翼端に掛かる! 機械の様に正確で冷静な指先は一瞬の迷いも無くトリガーを引いた。


 目前で敵機に翼端が吹き飛ぶのと同時に、自機の翼端も吹き飛んだ。


「着水する……」


「海賊船からカッターが接近中……どうします?」


 コントロールを失った機体をなんとか水平にするが、被弾はエンジンにも及んでおり、リーデルは着水を選択した。そして、ガーデマンの報告に小さく溜息を付くと呟いた。


「後は、マリーに任せる」


____________________________



「マリー! 大佐が突っ込んで来る!」


「もう! 大佐っ!」


 マリーはモニターに被弾するリーデル機を捉える。


「被弾したぞ! 墜落する!」


「大丈夫! コクピットは無傷!」


 焦るヴィットに一番大切な情報を与え、マリーは対空レーザーを連続で発射した。次々に戦闘機の翼端を切り落とす! あっと言う間に、戦闘機群はコントロールを失い全機が離脱して行った。


「マリー! 大佐達に海賊の小舟が! 捕まえる気だ!」


「そうはさせないからっ!……」


 マリーが叫んだ瞬間、リーデルとマリーの間にルティーの艦が割り込んだ。それと同時に、猛烈な弾幕でマリーの周囲は着弾の雨が降る。


「連携して来たぞ! 大佐達に近付けさせない気だ!」


「分かってる!」


 マリーは急加速するが、ルティーの艦は最少半径で回り込んでリーデル達との間に入り込んだ。


「マリー! もういいっ! 飛ぼう!」


「ヴィット! でも!」


「ここは無理をするとこだっ!」


「分かった! 船体をパージ! 行くよっ!!」


 マリーは船体をパージすると、大空に舞い上がった。当然、マリーは怒っていた……その対象は卑怯な手を使おうとしている黒ひげ達……当の黒ひげは、自分達が有利に展開すると思い込み、本当は危機一髪な事に気付きもしてなかった。


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