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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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最強の武器

「……お頭、未確認の物体が高速接近中……」


「未確認? 水上レーダーだ、艦艇に決まってるだろ」


 観測員が声を震わせるが、舵を握る副長が吐き捨てた。だが、ルティーは真剣な顔で聞き返す。


「高速だと? 速さは?」


「それが、その、100ノット近くなんです」


「計器故障だろ、誰だ整備したのは?」


 観測員は信じられないと言う顔をするが、副長は溜息交じりに言った。


「奴だ……」


「お頭、あいつは島に来る時、舟艇を漕いでたんですぜ。そんなバカみたいな速度が出せるはずなんかねぇ」


 青褪めるルティー、だが副官は鼻で笑った。


「奴は噴射剤を手に入れたんだ……」


「なら、何でわざわざ海上を? 飛べば済む事でしょ?」


「……」


 吐き捨てる副官だったが、ルティーは何も言わずに艦橋の窓から外を見ていた。確かに何故飛ばない? 艦艇にとって、飛行機は最大の難敵である事は確かなのに、と。


 訳があるとルティーは思った。飛ばないのではなく、飛べないのでは……それとも、何か別の意図があるのでは……。考えれば考える程、ルティーの背中は汗でグショグショになった。


「お頭、何を恐れる事があります? 奴ぁ、たかが戦車ですぜ。この艦の雷撃力は世界一、海の藻屑にしてやりましょう」


 髭面の副官は豪快に笑った。


「そうだな……」


 周囲を見回すと、手下達の顔は自信と尊厳に満ちていた。さっきまで怯えていた観測員でさえ、その眼は輝きを取り戻していた。


「雷撃戦用意。40本の新型魚雷をお見舞いしてやれ」


 口元を緩めたルティーは、静かに言った。


「そうこなくちゃ! 全門装填急げ!」


 副官の号令で、全員が一斉に戦闘配備に入った。


___________________



「マリー! 滑走じゃなくて、飛行だなっ!」


「波が高いと、それだけ大ジャンプになるから! ヴィット! 舌を咬まないでね!」


「大丈夫!うがっ!」


 そう言ってる間に大ジャンプ! 浮遊感の後には凄まじい衝撃! だが、マリーは着水の瞬間にロケット噴射を最大にして衝撃を緩和する。つまり、縦の衝撃を横の噴射力で中和しようとしていた。


 それでも衝撃はゼロにはならない。ヴィットは締め付けるシートベルトの痛みや、三半規管を掻き乱す全方向からのGに耐えていたが、飛行状態に比べれば随分と楽だった。


「ヴィット! 敵機捕捉! 戦闘機みたい!」


「飛ぶ?」


「いいえ、艦船はカモじゃないって事、教えてあげないとね」


「艦船じゃなくて、戦車だろ?」


「あは、そうだった」


 二人の会話は弾んでいた。ヴィットはマリーが何時もの様になった事が嬉しくて、満面の笑顔だった。


「今回はどう戦うんだ?」


「見ててヴィット、これがワタシの戦い方だよ」


「ああ、見てるよ」


 マリーの返答に、ヴィットも笑顔で返事した。


________________________



「艦長、対空レーダーが機影を捉えました。およそ、二十機」


「機種は?」


「速度から言って、戦闘機です」


「大佐に連絡」


「了解」


 レーダー員の報告を受け、ハイデマンはリーデルへ連絡を取る様に指示した。艦攻や艦爆ではないのは幸いだが、艦爆のスツーカで戦闘機と空戦が出来るのはリーデルくらいなもので、他の搭乗員が心配だった。


「きっと、退避させてくれる……」


「戦闘機が来たの?」


 呟いたハイデマンに、タチアナが聞いた。


「ええ、そうです」


「あなた達の飛行機では、戦闘機には歯が立たないでしょ?」


「確かに、攻撃機では戦闘機に歯が立ちません。スピードや旋回性能は雲泥の差ですからね」


 そこに戦闘機の来襲を聞きつけたリンジーが、艦橋に飛び込んで来た。


「あら、ブリッジは関係者以外は立ち入り禁止よ」


「艦長! 敵戦闘機の位置と数は?! マリーはどうしてます?!」


 腕組みしたタチアナを完全にスルーして、リンジーが叫んだ。


「敵船のかなり後方です。会敵は、もう少し後でしょう。数は約、二十機……依然、マリーは海上を侵攻してます」


「……そうですか……」


 ハイデマンに説明を受けると、リンジーは大きな溜息を付いた。


「それ、安堵の溜息?」


「何っ!」


 呆れた様なタチアナの態度に、リンジーは視線を強めた。


「ちょっと聞くけど。何で、まんまる戦車は飛ばないの?」


「……飛行はヴィットの身体に負担が掛かる。だから、マリーは飛ばない事を選択した」


 タチアナの質問に、リンジーは拳を握り締めた。


「そんなので、この船を守れるの?」


「守る……必ず守る……それと、まんまるじゃない……マリーよ」


 体を震わせるリンジーは、タチアナに飛び掛かる寸前だった。


「落ち着けリンジー! 話せば分かる!」


「お黙り!」


「はいっ!」


 追い掛けて来て最悪の場面にやって来たイワンは、状況打開しようとするが一喝で縮こまった。


「マリーちゃんはのぅ、優しいからのぅ……」


 何時の間にかそこにいた、オットーが穏やかに微笑んだ。


「優しい? 兵器でしょ? あの戦車」


 薄笑みを浮かべるタチアナだったが、オットーはまた穏やかに言う。


「そうじゃ。マリーちゃんは最強戦車じゃ。じゃが、誰より優しいココロの持ち主なんじゃ」


「何よそれ……」


「見てれば、お前さんにも分かるじゃろうて……最強の武器は”優しさ”じゃとな」


「……」


 オットーの穏やかな言葉の後、タチアナは何も言えなかった。リンジーもオットーの言葉を聞くと、胸の中で沸き上がった怒りや苛立ちが嘘の様に晴れた。


「……マリー気を付けるんだよ……」


 小さな声で呟いたリンジーは、艦橋から大空を見上げた。


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