表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
102/172

水上滑走

「どうしたんだよ、マリー?」


 飛び立とうとしないマリーに、ヴィットが首を傾げた。


「艦長さん、お願いがあるんですけど」


 マリーは少しの沈黙の後、ハイデマンに通信を送った。


『今度は何だ?』


「あの救命ボートを貸して下さい」


 呆れ声のハイデマンに、マリーは艦橋の横にある9mカッターを指した。


『あれに動力はないぞ、また漕ぐのか?』


 マリーが舟艇を漕いだ事を思い出して、ハイデマンは溜息を付いた。


「マリー……」


 ヴィットは直ぐに察した。ヴィットの体に負担の掛かる飛行を、マリーは出来るだけしたくないのだと。


「今度は漕ぎません。TDに細工をしてもらって、ロケット噴射で行きます」


「待てよマリー。確かに9mカッターなら君の横幅ギリギリで、乗れるとは思うが超トップヘビーで海に降りた途端に転覆だよ」


 立ち上がったTDは、直ぐに転覆を予感した。


「大丈夫、水上スキーの要領で行くから。船の後方にロケット噴射避けの板を付けてね」


「簡単に言うなよ……で、どうやって後方に噴射するんだ?」


「こうやって」


 呆れ声のTDに、マリーは後輪二つを90度に曲げて見せた。六輪操舵システムは、全ての車輪を90度以上に向ける事が出来たのだった。


「曲がる時はどうするの?」


 確かにそうすれば後方噴射は可能そうだが、舵を使わず曲がれるのかとTDは不安に思った。左右の噴射を変えても、急旋回は無理だと……。


「自転車の要領だよ。車体を傾けて曲がるから」


 マリーは油圧機構で、車体を傾けて見せた。


「確かに、それなら……」


 納得はしたが、TDはヴィットを見た。


「俺に異議はないよ」


 ヴィットの笑顔が全てを物語っていた。大きく息を吐いたTDは、倉庫の奥の資材ヤードに走って行った。


__________________________



「超小型の砲艦だな」


「確かに見た目はビンボー臭いが、戦闘力は高速戦艦並だ」


「考えたな……マリーの水上速度は唯一の弱点だったが、これで死角はなくなった」


 完成したマリー号? を見て、ゲルンハルトを先頭にイワンやハンスも感心するが、ヨハンだけは違った。


「マリーは、そんな事考えちゃいないさ」


「何を考えてるんだ?」


 不思議そうに顔を向けたイワンに、ヨハンはボソっと言った。


「ヴィットの身体の事だけさ」


「多分、そうだな……」


 ゲルンハルトも、きっとそうだと思って笑顔になった。


「あら、皆知らなかったの?」


「そうやで、マリーはヴィットの事が大好きなんや。ほんでな、ウチ等の事も大好きなんやで」


 腕組みしたリンジーが笑顔で言うと、チィコは鼻息も荒く胸を張った。


「さあ、お主達も支度じゃ。艦橋側の右舷はゲルンハルトと、お嬢ちゃん達。左舷はワシ等と、その他大勢じゃ」


「何や? どないするん?」


 オットーが何時になく真剣な顔で言うと、チィコは首を傾げた。


「敵は軽巡を筆頭とした水雷戦隊じゃ。当然、魚雷で攻撃してくるのじゃ、ワシ等は両舷に別れ魚雷の迎撃じゃ」


「当たるんかいな……」


「大丈夫。イワンは、おバカだけど射撃は一流よ。お爺ちゃん達も腕は確か、それにほら……」


「おバカって……」


 イワンが苦笑いする。


 リンジーが指差す方向には、乗組員達が手に手に小銃や機関銃を構え、甲板上は大変な賑わいだった。


「あれだけ居りゃ、一発ぐらい当たるわなぁ……」


 他人事みたいに言うイワンだったが、突然チィコが叫んだ。


「あっ、マリーが出るで!」


 そんな中、マリーが後部のウェルドックから発進した。それはまるで、水上滑走艇のようだった。


「時間がないんで水中翼は付けられなかったけど、船底は出来るだけ平らに形成した……多分、100ノット以上出るだろうね」


「100ノットだって?……飛ぶのと、そう変わらないな」


 汗を拭きながらTDは説明するが、腕組みのゲルンハルトが苦笑いした。だが、チィコにはよく分からない様でポカンとしていた。


「100ノットは約180km/hだよ。サルテンバの最高速の二倍以上」


「そうなん……」


 リンジーの説明もチィコは関心が無いようだった。


「何だ? あんまり驚いてないな」


「そうやなぁ……でもな、マリーはどんな姿になってもマリーなんや」


 不思議そうに顔を覗き込むイワンに、チィコは笑顔を向けた。


「そうだね……」


 リンジーもチィコの言葉に頷いた。


____________________



「何だ? メチャメチャ速いぞ」


「TDが船底を平らにしてくれたから、スピードが出るよ」


「でもな! ぐぇっ!」


 だが、次の瞬間小さな波を受けマリーは大空にジャンプ! そのまま海面に荒っぽく着水した。その衝撃は凄まじく、ヴィットはシートベルトの食い込みで”リバース”しそうになった。


 波が立たない湖面ならイザ知らず、海面は大小の波のオンパレード。水上滑走艇が海で運用出来ない理由はそこにあった。確かに超高速は戦闘艦としては最大の魅力だが、大ジャンプを繰り返していては船体も乗員もモタナイのだった。


「大丈夫?!」


「何か、飛んでるのと、あんまし変わらん気が……どごえっ!」


 息つく暇もなく、マリーはジャンプを繰り返した。


「ヴィット! スピード落とす?!」


「うんにゃ、このままだ……一つ聞くけど、ロケット噴射は二基だけだから長持ちするよね……噴射剤」


「うん……三倍くらいは……」


「さよか……」


 ヴィットはマリーの返答に青くなった。


___________________



「せっかく飛ぶ為の燃料を手に入れたのに、何でボートな訳?」


 腕組みしたタチアナは、海上を滑走して行くマリーの姿に溜息を漏らした。


「さあ……でも、マリーの要望ですから」


「要望って……マリーって、ただの戦車でしょ?」


 苦笑いするハイデマンに、タチアナは顔を顰めた。


「確かに”ただの戦車”です……ですが、私も直接話しをして気付いたんですが、何故か機械とは思えなくて……」


 タチアナだって、マリーと話した。だが、感覚はマリーに乗ってる”誰か”と話した感覚だった。


「そうね……」


「違和感、ですか?」


「ええ、確かに変な感じ……」


「彼らは、そう思ってない様ですね」


 目を伏せるタチアナだったが、ハイデマンは艦橋の窓から忙しく動き回るリンジーやゲルンハルト達を見た。


「機械よ……喋るだけの……」


 そんな光景はタチアナの嫉妬に近い感覚をもたらせ、口元から言葉が零れた。ハイデマンも、それ以上は何も言わず手を後ろで組んで窓か水平線を眺めた。


_____________________________



「軽巡三、駆逐艦八、フリゲート及び水雷艇十二です、今回の戦力は」


「少ないな……噴射剤は手に入れたんだろ?」


「はい。推定ですが、かなりの量です」


 椅子に凭れた指揮官は、副官の報告に片肘を付いた。


「軽空母を向かわせろ」


「我々から戦力は出さないのでは?」


「正確なデータが欲しいからな。攻撃とデータ収集は完全に切り離せ、とにかくデータ収集を徹底させるんだ。編成は任せる」


「3隊の攻撃隊のうち1隊はデータ収集に特化させます。護衛の戦闘機隊も、1隊をデータ収集隊の専属護衛とします」


「それでいい。とにかく、噴射剤を消費させてデータを集めろ」


「了解しました……所で、私達も出ますか? 潜水艇は修理が完了してますが」


 薄笑みを浮かべ具申する副官に、視線を向けた指揮官は妖しく笑った。


「やはり、私も戦車乗りだ……狭い空間は好きだが、海の中は勝手が違う……やはり、砂と埃が戦車には似合う」


「そう思います……私も」


 頷く副官も怪しい笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ