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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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敵影

 付近の島に隠しておいた軽巡洋艦はブラック流星号とは姉妹艦で、その重雷装も同じだった。直ぐに戦闘準備をしたルティーは、復讐の炎を燃やしていた。


「お頭、通信です」


「誰だ? この忙しい時に」


 艦橋に立つルティーに、通信が入った。


『おう、ルティー。加勢するぜ。俺やキャプテンスワロー、ジョーンズも一緒だ』


 豪快な笑い声、その声は付近の海賊の中でも恐れられる”黒ひげ”だった。スワローもジョーンズも有名な手練れの海賊で、ルティーは一瞬意味が分からなかった。


「何で、あんた達が?」


『海賊会議に直接の依頼だ。丁度暇だったからな……』


「海賊会議だと?」


 海賊が氾濫するこの地域では、お互いに血で血を洗う抗争が繰り広げられて来た。それを一応解決に導いたのが、海賊会議だった。協定は、お互いの共存の為には不可欠であり、縄張りを設ける事で抗争の危険も減少した。


 また、会議には周辺殆どの海賊が加盟し、その決定は絶対だった。違反した者や従わない者には、海賊流のペナルティが課せられた。


『それにな、噂の赤い戦車にも興味がある。戦車のくせに、フリゲートや潜水艦を一瞬で撃破する破壊力……何でも、火の玉みたいに飛ぶそうじゃねぇか』


「やっぱり、飛ぶのか?!」


 黒ひげの言葉にルティーは興奮した。実際、マリーの戦闘を目の当たりにした訳ではない。気付くと、主砲弾を撃ち落され屈辱的な敗北を喫していただけだったから。


『飛ぶらしいぜ、見た奴もいる……どうする? 加勢はいらないか?』


「誰に……いや、頼む」


 喉元まで出た”誰に頼まれた”と言う言葉を飲み込み、ルティーは加勢を頼んだ。瞬間に脳裏には、あの黒づくめの集団が頭に浮んだから。


『D海域で合流だ。遅れるなよ』


 そう言って黒ひげの通信は切れた。ルティーは、手下に号令した。


「錨を上げろ! 海賊の時間だ!」


_____________________



「これで完成だ。全ての配線は二系統、特に生存に関するユニットは三系統に強化、そして、最終バックアップ機能として全手動で動かせる様にした……これは、マリーからのリクエストだ」


「だってよ、ヴィット」


 胸を張って説明するTD、リンジーはヴィットの背中を小突いた。全手動、それの意味するのは”頼りにしてる”と言う事で、ヴィットは思わず笑顔になった。


「外見は変わってないが、衝撃に対する配線のトラブルは根絶したと言っていい。全ての配線は取り回しに余裕を持たせ、しかも美しく仕上げた。今度こそ、完璧だ」


 コンラートは鼻息も荒く説明する。


「リンジー、ちょっと……」


「なあに?」


 ヴィットがマリーに乗り込んで、各部の点検に入るとTDがリンジーを物陰に誘った。


「マリーに砲塔をパージする機能が付いていた。外そうとしたが、マリーは断固として応じなかった」


 真剣な顔のTDだっが、予想外にリンジーは微笑んだ。


「マリーらしいね……でも、その機能はヴィットが使わせないよ……絶対にね」


「……多分、そうだろうね」


 リンジーの笑顔見ると、TDはヴィットの笑顔を思い出す。そこには、全ての答えがあった気がした。


______________________


「マリー、やっと治ったね」


「うん。TDやコンラートさん達が、一生懸命治してくれたんだ」


「そうだね……」


 新品同様になった操縦席、火花の後や半分水没した形跡など微塵も無い様子にヴィットも笑顔になった。


「索敵機能も凄いんだよ……えっ?」


 マリーはアラートに驚いた。TDの説明は受けたが、今までと比較にならない長距離でアンノーンを確認した。


「モニターに出して」


 ヴィットが直ぐにモニターのスイッチを入れると、そこには確かに複数の影があった。


「高速で接近中、速度から言えば艦船みたい」


 少し沈む声のマリー。ヴィットにはマリーの声が沈む理由が分かる気がした。明らかに向かって来るモニターの光点、その光点は艦船か飛行機であると同時に人間なのだと。


「とにかく、艦長に連絡だ」


『こっちのレーダーには何も映ってないぞ』


「確かに艦船です。距離があるので、正確な数は分かりませんが……少なくはないです」


 驚くハイデマンだったが、ヴィットは冷静な声で報告した。


『私が索敵に出る。艦はこのままの速度を維持、攻撃隊は甲板で待機、君も出る準備をしろ』


 急にリーデルに代わると、ヴィットに待機を命じた。


「分かりました。行こう、マリー」


「了解。燃料と弾薬は装填済みよ、勿論噴射剤もね」


 マリーの返事には明るさがあり、ヴィットは思わず笑顔になった。


___________________________



 甲板では攻撃隊が暖機運転を開始しており、ヴィットは艦橋を見上げて通信した。


「艦長、自分とマリーも出ましょうか?」


『いや、大佐の指示があってからでいいよ』


「指示って、艦長はあなたですよ」


 苦笑いのハイデマンに、ヴィットは首を傾げた。


『退役したした時の階級は同じだが、あの人は先任で、しかも英雄だからな』


「そうなんでしょうけど……」


 やりにくいだろうなとヴィットは思ったが、ハイデマンは笑いながら言った。


『大戦中でもよくあった事だ。艦長を務める艦に、艦隊司令官が座上するって事はね……今は、そんな感じかな』


「でも、この艦は軍属ではないんでしょ?」


『確かにそうだ……軍隊じゃないんだから、お前、俺でやりたいさ……だが、この艦は戦闘艦だ……時には、生命の危険に関する指示を出さなければならない……、でも指示ではダメなんだよ……命令でなくてはね……だから、軍隊ではないが、規律とか階級とかは必要なんだよ……』


「分かる気もしますが……」


『一応、ありがとうって言っておくよ。君は私の立ち位置を心配してくれた……でも、この艦にとっても、剰員にとっても今がベストなんだ』


「分かりました。出過ぎた事を言って、申し訳ありませんでした」


『さて、大佐からの連絡だ。敵は軽巡三、駆逐艦八、フリゲート及び水雷艇十二だ。明らかにこちらに向かっている……こりゃ、勝ち目は無いな』


「逃げますか?」


『そうしたいが速度が違う、敵の殆どは35ノット以上出る。我が艦の最大船速は30ノット、直ぐに追い付かれる』


 リーデルの言葉に、ヴィットは掌に汗が出た。そこに、今度はリーデルからの通信が入る。


『ヴィット君、マリーの滞空時間は?』


「全速なら、30分前後です」


「噴射剤の補給には最低5分が必要です、でもヴィットの体力が……」


 直ぐにヴィットが答え、マリーはハイデマンの作戦を読み取り、先に言った。


『確かにあの跳び方は、負担が大きいな』


 脳裏にマリーの飛行状態が浮かんだリーデルは苦笑いするが、ヴィットは即座に言い放った。


「大丈夫です! かなり慣れましたから!」


『いざとなったら頼む。連続出撃を……それでは攻撃隊、発進。小さい奴から始末する。君達は足の速い駆逐艦とフリゲートから頼む』


「了解しました! 行こうマリー!」


 リーデルの通信に、ヴィットは元気よく答えた。


『ヴィット!!』


 そこに、リンジーの通信が割り込んで来る。


「分かってるって!」


『十分飛んだら小休止だよ! それ以上は三半規管をやられるんだから! 脳にも深刻なダメージがっ!……』


 リンジーは泣きそうな声で怒鳴る。そして、最後は声にならなかった。


「大丈夫……な、訳ないな……分かった、そうする」


 微笑んだヴィットは、素直に言った。


『絶対だよ! 約束だからねっ!』


 思わず叫んだリンジーの耳に、マリーの優しい声が柔らかな毛布みたいに覆い被さる。


「リンジー、心配しないで……ヴィットは必ず守るから」


『……お願い、マリー……』


 マリーの言葉は何よりもリンジーを勇気付ける。だってマリーは特別で、リンジーにとって不謹慎かもしれないが”神様”よりも頼りになる存在だから。


_________________________



「今度は、あなたを狙ってでは無いようですね」


「そうね、海賊達を怒らせたのは私じゃないから……」


 艦橋からマリーの発艦を見るタチアナに、ハイデマンは薄笑みを浮かべて言うがタチアナは平然と言った。


「もしかして潜水艦やフリゲートの襲撃も、あなたを狙ってではない?」


「さあ、どうかしら」


 腕組みしたタチアナは、口元を緩めた。


「なら、奴らの狙いは……マリー?」


「私にはどうでも良い事……見たいのは、他にある」


 怪訝な顔をするハイデマンだったが、タチアナの意図など分かるはずもなかった。


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